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18♡10
仲良くベッドに入って一時間。
抱き締めてくれる聖南の体温の温かさにウトウトしながらも、どうしてもオーディションの事を考えてたら眠れなくて……。
寝室の壁を見詰めたり、聖南の胸に顔をすり寄せたり、何回も寝る態勢を変えてモゾモゾしているといよいよ聖南から心配された。
「葉璃、明日から耐えられんのか?」
「……え?」
「オーディションのことでぐるぐるしてんだろ? 恭也がルイに言ったこと、気になってる?」
「えっ、……なんで分かるんですか」
「耳がしょんぼり垂れてるから」
「耳っ?」
「うさぎちゃんの耳」
「俺にはそんなの無いですよ!」
おでこにちゅっとキスされて、照れた。
俺への「かわいー」は、聖南にうさぎの耳まで見せてるの。
……しょんぼりは当たってるけど。
「恭也の言ってる事も分かる。 でもな……ルイがなんで渋ってんのか知らねぇけど、他の候補者と同じモチベーションでっていうのは多分無理だろうな」
「……ルイさん、ですか」
「そう。 ルイは今すでにCROWNのバックダンサーやってて、葉璃のマネージャーもしてんじゃん。 かと言って事務所に入ってるわけでも無い。 候補者みんな、ルイ一人出来レースだって勘付いてるんじゃねぇかな」
「えっ!?」
そこのところを考えてなかった俺は、驚いて上体を起こした。
これはあくまでも俺の予想だぞ?と前置きした聖南はというと、肩肘を立てて少しだけ体を起こし、いたって冷静に続ける。
「候補者を十人に絞る前、何十人か集めてスタッフらの面接があったはずなんだよ。 そこで顔合わせてるだろ、みんな」
「あ……! そうだ、いきなり十人に絞られたわけじゃないですよね……?」
「そういう事。 その場には当然ルイも居たんだろうから、現状を他の候補者がどう見てんのか……ルイ以外の九人が殺伐としてなきゃいいけど」
「………………」
「夢を追い掛けてる男連中は血気盛んだ。 実力に自信持ってる奴は特にな。 って事は、何かの拍子で女性アイドル内のいざこざと大差ない蹴落とし合いが始まるかもしんねぇ」
「…………そ、それって……」
「あぁ。 今のルイは、ヒナタと似たような状況っつー事」
「────っ」
そんな……!
俺、そこまで考えてなかった。
他の候補者さんに悪いからルイさんだけの意見は聞けないと言っておきながら、結局はルイさん贔屓になってることにも今気付いた。
ヒナタはいろんな感情の上で敵意を向けられてたけど、ああいう事がこの世界ではどこでも起こりうるというのが、聖南のあっさりとした口調で嫌でも分かった。
「ルイがそこまで考えて加入を渋ってるのかは分かんねぇ。 ただし一つ言えることは、出来レースでも何でも、この世界で生き残れる図太さと実力があればコネは最大限に使ってナンボだ」
「………………」
「社長と佐々木スカウトマンのゴリ押しだろうが何だろうが、ルイがミスしねぇ限り間違いなくETOILEの加入メンバーの一人になる。 それについて、葉璃はどう思ってんの?」
「えっ? ……お、俺、は、……」
聖南に問われて、すごくすんなりと答えは出た。
ルイさんの気持ちが一番大事。 でも俺の中では答えは決まってる。
たとえまだルイさんから冷たくあしらわれていたとしても、この人が居なかったら "ETOILE=星" にならないとまで思ってたかもしれない。
「葉璃と恭也の意見が最優先だからな。 決定権が無いとか思ってるんなら、それは大きな間違い。 俺でも社長でもスタッフでも無え、ETOILEの二人が、ETOILEの新しい仲間を選ぶんだ」
「…………っ!」
それは……俺と恭也に委ねられてるって事、……?
俺なんかには無いと思ってた、恐れ多い決定権がある、の……?
「俺は、……ルイさんに加入してほしいです」
「ん。 恭也も葉璃と同じ意見だよな。 ルイのプロフとVは除外しねぇってキレたぐらいだし」
「……はい、……おそらく」
「それなら、ルイには周りを圧倒してもらおうじゃん。 とことん他の候補者との差を広げたらいいんだ。 選抜されてんのは実力派ばっかだからな。 いくらゴリ押しでも本番でトチったらアウトなシビアな世界だし、実際に目の前で全員のダンス見ない事には何とも言えねぇよ、葉璃」
「…………そう、ですね」
ぐるぐるするのは早いぞ、と諭されて、すとんと聖南の言葉が胸に入ってくる。
聖南が言ってたように、ルイさんのオーディションへのモチベーション維持は確かに難しい。 "本当の理由" を知ってる俺は、ルイさんが今は未来の事を含めて何も考えられないのも分かる。
じゃあなんで……なんでルイさんは、最終選考までちゃんとオーディションに参加してたのかな。
どんな事情があるにせよ、候補者として名を連ねた理由が必ず何かあったはず。
それはおばあちゃんが大変な状況になる前だったのかどうかは分からないけど、"本当の理由" じゃなくルイさんの "本当の気持ち" を、俺は何一つ聞いてない。
オーディションに臨む心づもりを諭す前に、ルイさんには本心を聞かなきゃ。
「……ごめん、葉璃ちゃん」
ぐるぐるが晴れた俺は、薄いふわふわ毛布を捲って水を飲みに行こうと動いた。
すると聖南に腕を掴まれて、もう一回「ごめん」と謝られる。
どうしたんですか、と聖南の振り返ると、らしくない遠慮がちな獣と目が合った。
「…………っ!」
「今日イチャイチャしてい?」
「えっ? イチャイチャって……」
「………………」
「…………っっ」
「ちょっとだけ」
「……何時間ですか?」
「三時間」
「えぇっ!? に、二時間で!」
「じゃあそれで♡」
妥協したそれに笑顔を見せた聖南は、俺の腕をグイッと引っ張って体全体でギュッと包んでくる。
太ももをさわさわと撫でられて、耳の後ろにキスされると途端に腰が疼いた。
「てか俺とのセックスは回数じゃなくて時間が気になるんだなぁ」
「当たり前です!! 聖南さんの「ちょっとだけ」はちょっとじゃないんです! あ、っ……もうっ」
クスクス笑う余裕たっぷりな聖南は、俺の下着をずらしてお尻をもみもみしながら「いいケツ……かわい」なんて事を耳元で囁いて、早速エンジン全開だ。
イチャイチャというより暴れたくてたまんない聖南のものが腰に押し当てられると、欲情してもらえてる喜びでついつい俺も啼いてしまう。
「ここからはマジでプライベートタイムだ。 俺のことだけ考えて、葉璃」
「んっ……!」
背後から顎を取られて、獣にかぷっと唇を奪われる。
喉がのけ反った無理な態勢でのキスは、数秒では終わらなかった。 孔に指を挿れられて腰が引けても、俺が逃げないように足を絡ませてきた。
苦しくて飛びそうになるほど、何分もその無茶なキスを仕掛けてきた聖南の思惑。
頭の中で絡み合った糸が複雑にぐるぐるしてたのを、ひとつひとつ解いてくれたのは他ならぬ聖南だ。
『俺のことだけ考えて』
それなのに、ヤキモチの対象が多い聖南は、イチャイチャしなきゃ気が済まない大人げない年上の恋人にいつの間にか戻っていた。
こんなに体は大きいのに、とんだ甘えん坊な恋人だよ。
ほんと……大好き。
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