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 早起きは三文の徳。  ばあちゃんの教えをきっちり守らされて十八年、朝の六時には自然と目が覚めるようになった俺は、目覚まし時計もアラームも要らん。  起きたら狭い部屋を掃除して、ランニング行って、シャワー浴びて、味噌汁飲んだらようやく「朝や!」って感じ。  そやから毎朝のこのハルポンの顔は何やねんといつも思う。 「おはよーさん!」 「……おはようございます……」 「またロビーでうたた寝してたんか? 寝不足やないなら、ハルポン低血圧なんやなぁ」 「ルイさんは毎朝元気ですね……うー……眠い……」  そら三時間前には起きてなんやかんやと色々してたから、元気ハツラツよ。  あくびをするハルポンは朝は大概眠そうやが、たまにこんな風にして体調不良ともとれるほどヤバい時がある。  夜ふかししてるわけやないらしいし、業界で言うテッペン越えたら眠くなると言ってたからには、睡眠時間はたっぷりとれてるはずなんやけどな。  事務所が所有してるセダン車の後部座席にのっそり乗り込んだハルポンは、背もたれに体を預けるなり今にも寝てしまいそうやった。  今から郊外の外れで雑誌の撮影やから、移動で軽く一時間以上はかかる。  言わんでも寝てしまいそうやけど、ハルポンが気にするといかんから一応声掛けしとこう。 「現場まで一時間ちょいあるし寝とったらええやん。 起こしたるよ」 「いや、……でもルイさんと話したい事、あるから……」 「そんなんじゃ会話にならんって。 仕事片付いたら話しょ」 「はい、……」 「……ほんまに秒で寝てもーた」  ちゃんと理解して頷いてたんかも怪しい。  後部座席に横になったハルポンは、靴まで脱いで体を丸めてすぐに寝入った。 「話ってどうせオーディションの事やろ」  昨日の今日やし、ハルポンが言いそうな事やと思たわ。  俺がオーディションに身が入らん理由はハルポンと社長しか知らん。  恭也に窘められてしもたけど、他の候補者なんか正直どうでもええんや。  この世界で生きていくからには、実力の他に運とタイミングも大事。  社長に言われるがままにオーディション受けて、トントン拍子でここまで残った俺は間違いなく実力を認められてるんやと思う。  けどな、時期が悪いわ。  重要なタイミングってもんが、あまりにも悪い。  身が入らんというか、色々理由つけて断ろうとしてたアイドルとしての未来なんか、今時点で考えられるわけない。  現状でいっぱいいっぱいなんや。 「──ルイさん」 「んー? なにー?」  眠そうやったハルポンは、車内での睡眠で無事に復活した。  撮影中はいつものビクビクやったけど、いざカメラの前に立つとあの眼力がいかんなく発揮されてめちゃめちゃスムーズに撮りは終わった。  次の仕事は十四時からバラエティー番組の収録。 ゲスト出演やし一時間半もあれば終わるやろう。  この時期に秋物のコーデを着せられたハルポンは暑そうで、車内をキンキンに冷やしてて正解やった。  俺ちょっと寒いくらいやで。 「今お話いいですか」 「よくないなぁ」 「なっ……!? ヒマそうですよね!」 「暇やない。 見て分かるやろ。 ハルポンのスケジュール確認中」 「さっきもそう言ってたじゃないですか!」  あぁ、そういえば十分前も「今いいですか」って聞いてきてたな。  これからちょっと時間空くし、局の弁当やなく美味いもんをテイクアウトしようと、タブレットで食べログを見てた俺の指が止まる。  全然スケジュールなんか見てなかったの、いつから気付いてたんやろか。  話なんて無いよ。 俺が今ハルポンと話したいのは、昼メシは和洋中どれにするかや。 「ルイさんっ」 「何よ。 どうせオーディションの話やろ? もうええから」 「なんで……っ、なんでそんな投げやりなんですか! 昨日も俺、あれからずっと……っ」 「は? 一晩中俺のこと考えてたん? それで寝不足?」 「いっ!? いえ、あの、……っ、一晩中は……考えられなかったですけど……」 「なんでそこで顔面赤くするん」 「あ、あ、赤いですかっ?」 「茹でダコなっとる」 「…………っっ」  バックミラー越しに指摘すると、両方のほっぺたをペチペチ叩いて「うぅー」と呻いた。  もしかしてこの反応、マジで俺のこと考えてたんか? 一晩中?  可愛いとこあるやん。  ばあちゃんの事は誰にも言わんでほしいと口止めしてしもたから、昨日のあの場ではハルポンは恭也に同調せざるを得んかった。  それを気に病んでたんかもしれんな。  ハルポンってそういうとこあるし。 「今日のダンス試験と、明々後日の歌唱試験、ルイさん参加しますよねっ?」 「……多分な」 「多分じゃ困ります! 絶対参加してください!」 「絶対〜〜? 約束は出来んよ」 「なんでですか!」 「予定が入るかもしらん」 「オーディションがあるのに予定なんか入れちゃダメです! 引っ張ってでも連れて行きますからね!」 「……ビックリした。 ひっぱたくって言われるんかと思たわ」 「もし来なかったらそうするかもしれないです」  ふはっ。 おもろいやんけ。  それはそれで見てみたい気もするけどな、俺はそっちの趣味はないぞ。  ハルポンの真剣な表情を見てると、揶揄って赤面させて慌てる姿が見たいと思ってまう、生粋のSですけど? 「俺マゾやないで。 どっちか言うたらイジメる方が好きやな。 泣いて「許して」言われてもグズグズにイジメ倒して、あとから目一杯優しくしつつも言葉攻めは続ける、みたいな。 あー、あと手首縛るのもええよ。 相手の自由奪うのってめちゃめちゃ興奮するんよな。 でも足は縛りたない。 俺が自由に動けへんから」 「え、えぇっ? ルイさんドSじゃないですか……!」 「そやから言うてるやん。 俺にはマゾの気はナイ。 ハルポンはそうやなぁ……Mやろ」 「…………っっ!?」 「てかハルポンが女抱いてる想像なんて出来んのやけど。 めちゃめちゃ腰細いし。 ……そういう経験あんの?」 「えっ!? も、もう、いいじゃないですか、この話は!」 「ハルポンが話題振ったんやで」 「俺じゃないです! 話脱線させたのはルイさんですよ!」 「プッ……! あははは……っ! さっきより茹でダコなってるやん」 「〜〜ルイさんっっ」

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