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19♣4
あーおもろ。
ハルポン揶揄うのがここ最近で一番の俺の楽しみかもしれん。
ひっぱたかれたらかなわんし、"ETOILEのハル" が直々に頼んでくれてんから、とりあえずオーディションには参加したるよ。
ひたすら意地悪やった俺にここまで心開いてるハルポンには、秘密を守ってくれてる恩もある。
ただしな、そこまでの熱が無いって事を目の肥えた大人達にどこで見抜かれてしまうか分からん。
何のためにオーディションを受けるんか、俺は一体何になりたいんか……真面目に考えた事がないから不安なんや。
それより今は、目先の事で頭がいっぱい。
ばあちゃんがいつまで生きててくれるんか。
店はどうしたらええのか。
こんな半端な気持ちでオーディション受ける方が、他の候補者に失礼やと俺は思たんやけど。
まぁハルポンと社長しか知らん事やから、何事もない顔してオーディションを受けるしかないよな。
せっかくハルポンが恭也にも言わんと秘密を守ってくれてる事やし。
… … …
「──では本日は以上で終了いたします。 皆様お疲れ様でした」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
午後十九時半を過ぎた頃。
ダンス試験が終わった。
大塚事務所のレッスンスタジオに集められた、ETOILE加入メンバーの候補者は俺含めて十人。
それぞれダンス歴は俺より長くて、しっかりとした基礎が出来てる。
しかしや。 大塚のレッスン生はもちろん、よその事務所のレッスン生も来てると知った時は驚いたな。
デビュー出来るんなら何でもアリなんかって。
ETOILEの二人、CROWNの三人、大塚芸能事務所のスゴさと自らのデビューにかける思いを猛アピールしていた俺を除く九人は、やっぱこのオーディションに掛ける熱意が違う。
でも何でやろ。 釈然とせんな。
「……ルイさん、ルイさん。 お疲れ様でした」
候補者全員が隅で固まってシューズを脱いで、一礼してレッスン場をあとにするみんなの最後尾に居た俺の背中を、ハルポンがツンツンしてきた。
踊ってると暑いから一つ結びしてた髪を解きながら、振り返る。
「おぅ、お疲れ様でした、ハルポン。 俺の動き、どうやった?」
「えっ、あの……この場で感想は、……言えないです」
「そら当然やな」
まだハルポンの向こう側には何人も大人達が居る。
恭也、セナさんの他にもジャージを着たレッスン講師が二人、スーツを着た若そうな男が一人と中年男が五人、あとは大塚社長。
その他にも、俺達の最終選考にはETOILEに関わるスタッフのトップも加わるらしいから、それはそれは大掛かりなオーディション。
明々後日の歌唱試験は曲目与えられてるけど、今日のダンス試験に関しては当日その場で課題曲の振りを一時間で覚える、というものやった。
基本的なステップに反した上半身の高度な振付けは、おそらくケイタさんが考案したオーディション用のダンスやと思たんやが違うやろか。
我ながらすぐ体に入って何も難しいと思わんかったが、周りの候補者は苦戦してる者が何人か居た。
申し訳無いけど、CROWNのダンス覚えるよりはるかに楽やったで。
「ルイさん、……明々後日も絶対参加してくださいね」
「はいはい、任しとき」
「待ってますからね」
「来んと引っ張り回されるからな」
「違います、ひっぱたくんです」
「ぶふっ、怖いこと言うなや。 俺にそっちの気は無い言うたやん」
真顔でそんな事を言うようになったとは。
気心知れてるってええな。
ハルポンが甘ちゃんやなんてとんでもない。
ネガティブで根暗で、会話のところどころに卑屈さを滲ませるハルポンやけどほんとは正真正銘の頑張り屋さんや。
天性の才能ってもんに縋りついてないから、マジでそこんとこは凄いの一言しかない。
おまけに叱咤までしてくれて、オーディションに身が入らん言うてる俺のケツを叩く。
俺がETOILEの色に合わんってのは本心でもあるのに、そんなに欲しいんやろか。 俺のこと。
……まぁ、悪い気はせんな。
「いつまでもハルポンと喋ってたらコネや思われるから、帰るわ」
「あ、っ……はい、すみません。 引き止めてしまって……」
「お疲れ様、言うただけやんな。 やましいことなんか何も無い」
「はい。 そうです」
「そやけど、みんなには言わへんかったのに。 俺だけ贔屓してるの見え見え」
「なっ……!? ひ、贔屓なんて……!」
「明日は十三時半から打ち合わせや。 一時間前には事務所に来とくからそのつもりでおってな」
「は、はい、分かりました」
そんじゃ、とハルポンに右手をあげて、奥の男連中には会釈して退散した。
更衣室で着替えてる最中、他の候補者らはなんや楽しそうに結果がどうのこうのと話してたが、俺はその輪には入らずに「お疲れ!」とだけ言って車に乗り込んだ。
「ふぅ、……。 ひとまず今日は終わったな」
うん。 悪くない。
ダンスは楽しい。 覚えも早いし動けてまうから、踊ってる時は何も考えんでええ。
オーディション受けんと、俺を明らかに贔屓してるハルポンがうるさいってもう、こじつけてしまおか。
ハルポンとmemoryの振りを踊った事があったが、あれめちゃめちゃ楽しかったもんな。
……ハルポンも楽しいと思ってくれたんやろか。
タイミングも時期も最悪で、俺に新しい事を始める余裕なんかゼロなのに……ちょっと雲行き変わってきたぞ。
テレビに向かって「いつまで甘えてんの、成長せんなぁコイツ」言うて腐ってた頃と比べると、俺の心境の変化も著しい。
そういえば俺……将来の夢って何やったっけ。
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