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畏まった料亭に到着した。
その名に見覚えがあると思ってたのは、聖南は大事な話がある時は必ずと言っていいほどこの料亭〝さくら〟を使うからだ。
ほんの一時間前の当日予約にも関わらず、聖南の名前の力で上等な個室を用意された俺とルイさんは、見事な会席料理の前で向かい合って固まった。
ここへ到着してすぐに聖南から追加で届いたメッセージには、『九時過ぎには着く。先に食べてて』。
何かが引っ掛かると思ってた原因はこれだった。 「じゃ、後で」と言ってたあれは、仕事を巻きで終わらせて合流するって意味だったんだ。
俺と同じく、料理を見詰めて固まったルイさんをそっと窺う。 ルイさんも俺を窺っていたからか、パチッと目が合った。
「………………」
「…………っっ」
ルイさんの目は、見られるようになった。
事務所のトイレで初めて会った時、ルイさんの目どころか顔も上げられなかったのが嘘みたいに見詰め返せる。
けど今は、ルイさんの方がそれどころじゃない。 何秒間か見詰め合った後、視線を逸らすのは俺じゃなくてルイさんだ。
二人ともが箸を持てないでいるから、せっかくの料理が寂しそう。
刺し身が乾燥してしまう。 温かい料理が冷めちゃう。
思っていても、なかなか腕が動かない。
今日のルイさんの反応と、俺とご飯に行くだけで聖南から殺されるかもしれないという発言で、知ってしまった事実にどれだけ動揺しているかが分かってしまった。
だからほんとは、早く俺が自分の口で打ち明けてしまうのが一番いいんだけど……ルイさんがおばあちゃんの事を俺に話してくれたように。
でも聖南がここへ来るって言うから、固まったままなんだ。
……俺は何も話さない方がいいのかな。
聖南の口から説明するって意味で合流する事を決めたんだったら、口下手な俺が話すより聖南の到着を待ってた方がいい気もする。
うーん……どうしよう。
大事な席なのに……いい匂いに負けちゃいそう……。
あ、匂いに気を取られるとお腹がグーグー鳴り出した……。
うぅ……お腹空いた……。
「……ハルポン」
「…………っ!!」
「いやそんな構えられたら話できんよ」
「……は、はい、……っ」
箸を凝視していると、ルイさんに話しかけられてドキッとした。 まるで悪いことをしてる姿を目撃されたような気分。
だ、だって聖南は「先に食べてて」ってメッセージに書いてたしっ。
話をするかどうかっていうぐるぐるが、いい匂いにつられてあんまり働かなくなってきたんだもんっ。
「……とりあえず食べよか」
「いいんですか!?」
「ええんじゃない。 今にもヨダレ垂らしそうな顔で料理見てるやん。 ハルポン腹減ってんやろ」
「…………っ」
うっ……恥ずかしい。 空腹に負け始めてたのがバレてる。
それじゃあ、と箸を取ったその時、唐突に「ごめんな」とルイさんが苦笑した。
「え……?」
「俺がいらん事知ってしもたから、ハルポンにもセナさんにも気使わせてんの分かってんねん。 でも聞かんかった事には出来んやん?」
「……そう、ですよね、……」
「食べながら話しょ。 セナさんもそのためにここ用意してくれたんやろ」
「……はい」
俺が空腹に負けてた間に、動揺しまくりだったルイさんは腹を決めていた。
ルイさんが箸を取ったのを見て、俺も意を決する。
鮮度が命のお刺身から手を付けた。 ……マグロ美味しい。 他に二種類の白身があったけど名前は分からない。 唯一分かるのは今食べたマグロとサーモンだけ。
これに聖南は、あり得ない量のわさびを乗せて平気で食べるっけ……。 平気と言ってもツンとはくるらしくて、目頭を押さえながら「美味い」って微笑む。
まだ隣に聖南が居ない違和感を覚えながら、お刺身で空腹の虫が騒ぐのをやめたお腹を、やわやわと擦る。
そして、料理に舌鼓を打っていたルイさんに声を掛けた。
「あの、……」
「うん」
「俺と聖南さんの事、なんですけど、……」
……言葉が……続かない。
ルイさんの目を見てもへっちゃらにはなったんだけど、自分から聖南との事を打ち明けるのは恭也以来なんだ。
もうバレてるんだろうけど、いざ言うとなると怖くなってきた。
とある童話の王子様とお姫様くらい明らかな身分違いの恋だし……他人に理解されにくい間柄だし……。
話しかけてやめた俺に、ルイさんはお茶を一口飲んで、ひと括りに結んでいた赤茶色の髪をほどきながらヘラっと笑った。
「ハルポン、大丈夫や。 俺は何聞いたってもう驚かん。 どっかに情報まいたりもせん。 ただそれがほんまの事なんかどうか、ハルポンの口から聞きたいだけやねん。 俺のETOILE加入が決まったからには、知っとかんといけん事やと思うんよ」
「あ……! そうだ!」
「何や?」
「おめでとうございます!!」
「……ん、?」
「お祝いしたかったんですよ! ルイさんが新メンバーに決まったお祝い!」
「あ、あぁ、それは気にせんでいい。 てか今はソッチよりコッチや」
「……ふむ、……」
「ふむって」
しまった……話が逸れた……。 お祝いしたいって話をするタイミングは、絶対に今じゃなかった。
落ち着くために一回箸を置いて、俺も湯呑みに口を付ける。
ただでさえ傷心中でそれどころじゃないルイさんの時間を割いてるんだ。
ETOILEに加入するからにはって事でこんなに聞く姿勢を見せてくれてるんだから、……うん、……ちゃんと言わなきゃ。
これから長い付き合いになるだろうルイさんとの絆を深めていくには、話しておかなきゃ。
ETOILEはCROWNの弟分だから、この先も俺達が頑張ってる限り二組の共演機会は多い。 そうすると必然的に、近しい人達には俺と聖南の関係はどうしたっていつか知られてしまう。
ねぇ、聖南。 ルイさんにほとんど正解の大ヒントを放ったくらいだから、俺が話してしまっても……いいよね……?
「あの……俺と聖南さんは、……付き合ってます。 もうすぐ三年目に突入します。 あ、いや……突入したのかな」
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