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「突入て! そんなにか!?」
「……はい、……」
ルイさんはお手本みたいに目を見開いて驚いた。
俺がしっかり頷いた事で、何秒間かの沈黙の後ぱちぱちとまばたきしてやっと焦点が合う。
まるで、今その事実を知ったみたいな反応だ。 いや知ってたけど、俺が断言するまでは信じられなかった、そんなところ……かな。
「そ、そうかぁ……ほんまなんかぁ……ほんまなんやな……?」
再度確認してきたルイさんの目が、ちょっと怖かった。
この期に及んで、まだ俺はルイさんに聖南との関係を否定されたらどうしようとビクついてしまう。
恋人の存在を公言してる聖南の芸能界での立場上、相手が俺だなんてそりゃあ信じられなくて当然だよ。
でも……ルイさんには話しておくべきだと判断した聖南を、信じるしかない。
バレかけた秘密をそのままにしておくのもルイさんに悪いから、俺はもう一度、返事のつもりで頷いた。
「……はい……。 隠しててごめんなさい、ほんとにごめんなさい! ルイさんはおばあちゃんの事打ち明けてくれてたのに、俺は秘密ばっかりで……」
「秘密ばっかり……? なんや、まだ隠してる事あんの?」
「あ、ち、違っ……それはまたちょっと別件で、……これは、あの……えっと……っ」
「言えんのやったら言わんでええ。 何聞いても驚かんて言うたけど、無理やり聞き出して寿命縮めたないし」
「……すみません……」
うっかりじゃ済まされない、大失言だ。
項垂れて言葉を濁すと、ルイさんが空気を読んでくれてさらに凹んだ。
聖南との事は話して大丈夫、……だけど〝ヒナタ〟の件はきっとダメ。 いや絶対にダメ。
俺一人の問題じゃないからというのもあるし、ルイさんがヒナタをストーカー紛いに出待ちするくらい気に入ってるって事を忘れてた。
この事は、無事に任務を終えてヒナタが世間から居なくなって、ルイさんが自然に忘れてくれるのを待つしかない。
まだ俺には隠してる秘密があるんだと、それだけは知られてしまったけど……ルイさんは今〝ソッチよりコッチ〟が重要みたいで。
「セナさん、来るんよな?」
「はい、……あと一時間くらいで」
「そうかぁ……」
これから聖南が合流する事で頭がいっぱいになってる。
俺から聞いた話を再度、聖南の口から聞かされるルイさんは彼らしくなく緊張しているように見えた。 栗ご飯がカピカピになるからと、時計を気にしながらそれをかき込んでいる。
沈黙が気まずい。
俺もルイさんにならって、料理が冷めないうちに黙々と平らげていたけど。
結局はルイさんが今どう思ってるのかが気になって、チラチラ様子を窺ってしまっていた。
「……ルイさん、あの……」
「これは墓場まで持ってかなあかん、相当な大スキャンダルやな」
「………………」
「何がどうなってセナさんとそういう事になったんか、めちゃめちゃ気になるんやけど。 それがあれか、言えん事っちゅー感じ?」
「そ、そう、ですね」
「そうかぁ」
あ、あれ? ルイさん、さっきより動揺が少ない。
黙ってたから何考えてるのか分からなくて不安だったのに、聖南との関係を否定するどころか馴れ初めを気にしてたなんて。
春香の影武者で生放送に出て、その時に聖南から一目惚れされました……なんて、それはもうルイさんには話してしまってもいいのかもしれないけど、何だか照れくさくなって話すのをやめた。
うぅ……聖南まだかなぁ。
ルイ節が炸裂し始めたら、俺応戦できる自信ないよー……っ。
心の中で嘆きながら、和室の壁に掛かった昔ながらの振り子時計にこっそり目をやる。
「なぁハルポン、」
「…………っ」
食べ終えて箸を置いたルイさんが俺を呼んだ。 そして、きちんと「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
……意外だ。 人は見かけによらない、がルイさんにも当てはまる。
呼ばれた俺は、大きくてまん丸な急須からお茶を注ぐルイさんを見詰めた。
自分のだけじゃなくて、俺の湯呑みにも手を伸ばしてお茶を足してくれる。
「俺ちゃんと秘密守ったるからな。 ばあちゃんの事、ハルポンはセナさんにも誰にも言わんと黙っててくれたやん。 ばあちゃんがヤバイって時にいっつもハルポンはそばに居ってくれた。 ほんまは、あそこまでする必要なかったんやで? 俺の印象最悪やったやろし……なんでそんなに、……出会って間もない他人に親身になれるんか知らんけど、俺は嬉しかった。 ハルポンにならええかって、めいっぱい甘えてしもた」
「……ルイさん……」
「ハルポンが居らんかったらな、俺……ばあちゃんの事もこれからの事も受け入れられんかったよ。 何もかも投げやりになってた思う。 感謝してるねん。 ……ほんまに」
温かいお茶を飲みながら語るルイさんの眼差しが、とても優しかった。
思わずまばたきを忘れてしまうくらい、ジーンときた。
だってそんな……俺はそこまで感謝されるような事はしてないから。
出会いも、それからしばらくの間も、確かにルイさんとは険悪だったしハッキリ言って俺は苦手だった。 社長さんの提案で付き人(臨時マネージャー)になった時も、正直嫌だなって思ってた。
いつからかだんだんと態度が軟化していったルイさんの心境の変化は、この間おばあちゃんの棺の前でたくさん話してくれたから分かった事。
それに、俺やみんなにもそれぞれ事情があるように、ルイさんにも抱えきれないほどの大きな悩みがあった。 だから俺は、知ってしまったからには支えてあげたい……そう思っただけだよ。
「俺も恩返しさせてな」
「いやでも……っ、俺そんなに大層な事はしてないですよ……っ? もちろん聖南さんとの事は内緒にしててほしいですけど、だからって俺がしてきた事は恩返しされるような事じゃ……」
「ハルポン、俺はそういうハルポンやから、付き人も続けてられるし、ETOILEの加入にも前向きになれてんよ。 てかハルポンはもう少し自分に自信持ちーや。 卑屈ネガティブは否定せんけど」
「俺に自信なんて……俺なんかが天狗になったらあっという間に潰されちゃいます」
「誰が天狗になれ言うたんや。 天狗はあかん」
「あ、っ……ふふっ……」
真剣な話をしてたのに、いつの間にか以前とは雰囲気の違うルイ節に笑わされていた。
嬉しい。
ルイさんが〝仲間〟になったら、きっと今以上に仕事が楽しくなる。
恭也とルイさんが居てくれたら、俺はもっともっとETOILEの事が好きになる。
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