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──九時を回った。 聖南が来るって言ってた時間までもうすぐだ。
優しくなったルイ節に困ってるわけじゃないんだけど、沈黙の合間に「へぇ〜」「そうかぁ」と何回も呟かれたら身の置き場もなくなる。
ルイさんは綺麗に料理を食べ上げて手持ち無沙汰みたいで、お茶をたくさん飲んではトイレに立つ事三回。
むしろルイさんの方が居心地が悪いんじゃないかなって心配してた矢先、トイレから戻ってきて早々に笑顔を向けられた。
「しかしセナさんが相手やと色々大変そうやなぁ、ハルポン」
「あー……はい」
ごちそうさまでした、と手を合わせて、少しぬるくなったお茶を飲み干す。
それにすぐ熱々のお茶を足してくれるルイさんに、黙ってたせめてもの償いというかそういう気持ちで、本心を打ち明けた。
「……たまに劣等感と申し訳ない気持ちでぺしゃんこになる時あります。 俺でいいのかなってぐるぐるして、今までもたくさん聖南さんを困らせてしまいました」
「そら分からんでもないけど。 でも好きなんやろ?」
「…………はい」
「どんくらい?」
「ど、どんくらいって……! ……実際にそんなの考えた事ないですけど、……どんくらい、どんくらいだろ、……んー……いっぱい、です」
「あははっ……焦らしたあげくに惚気よって」
「…………っ」
あうぅ……そんなつもりないのに……。
聞かれたから答えただけで……って、やっぱりそう聞こえちゃうよなぁ……。
ルイさんは「ハルポンにならええかと思った」と言ってくれてたけど、俺も今同じ気持ちで正直に言っただけ。
聖南への〝好き〟がどのくらいかなんて、例えようがない。
とにかくいっぱい。 言葉では言い表せないくらい、知ってる人にはその想いを平気で言えちゃうくらい、いっぱい。
「あ、そうそう、この事知ってんのは誰や? それの把握だけはしとかんと」
「あぁ! そうですね、えっと……」
ほっぺたが熱くなる前に軌道修正してくれて助かった。
俺と聖南のことを知ってる人を指折り数えて、ルイさんに伝える。 春香と母さん、聖南のお父さんを含めると、それは十一人にも及んでちょっとビックリだ。
少し広まり過ぎてる……けど、逆にこの人達が居なかったら俺と聖南は今こんなにうまくいってなかったかもしれない。
無闇に広まったというより、みんな聖南がオッケーを出した人達だから……いいのかな。
意外と多かったから何かにメモるのかと思いきや、そのメモがどこかに漏れたらマズイからってルイさんは頭の中にインプットしてくれた。
「ん、分かったわ」
「あの……ルイさん。 これからたくさん、俺と聖南さんとの事でご迷惑お掛けするかもしれません。 それで、……」
早速協力の姿勢を見せてくれたルイさんに感動しながら、改めて感謝を伝えようとしたその時、扉の向こうから上品な女性の声で「失礼いたします」と声がかかった。
ゆっくりと開かれた扉の向こうから、まさに芸能人!って感じのオーラを漂わせた聖南が現れる。
「お疲れー」
「聖南さんっ」
「お疲れっす、セナさん」
よっと右手を上げて、当然のように俺の隣に腰掛けた聖南にドキッとした。 毎朝嗅いでる香水の匂いがふわっと香り、さらにドキドキっとする。
「ん。 メシは食った?」
「はい、俺らは頂きましたけど……」
「あ、そうだ……聖南さんの分が用意されて……」
「あぁ俺のは要らねぇ。 さっき現場で弁当食ったんだよ」
「弁当っ……! 何弁当でした?」
「ん? 何だと思う? 肉が入ってた」
「……っ!! ステーキ弁当ですか!」
「いや、しょうが焼きの方。 牛じゃなくて豚」
「あー……」
「なんやハルポン、まだ食い足りんのか?」
「えっ、いやっ、そんな事は……!」
サングラスを外した聖南に微笑まれ、目の前のルイさんからはチャラく笑われ、俺は縮こまる。
食べ足りないなんて言ってないもん。
聖南が食べたお弁当がもしステーキだったら、「いいなぁ」って口走ってしまいそうになんてなってないもん。
しょうが焼き弁当も美味しそうだなんて、少しも思ってないもん。
俺はムムッと唇を歪ませて、二人を交互に睨んで抵抗した。
「葉璃は一人前じゃ足んねぇだろ。 俺が着いたら一品料理ガッツリ頼むつもりだったし。 ……ほら、受付でメニュー表もらってきた」
「おぉ、さすがセナさん。 ハルポン良かったな」
「なんで二人とも、俺を大食い扱いするんですか……」
と言いつつ、しっかり一人前の会席料理を食べたはずの俺のお腹は、実は腹四分。
聖南の顔を見たら安心してお腹が空くっていう、少し前からあるこの連鎖反応は一体何なのかな。
それが二人ともにバレちゃってて、俺のぼやきがまったく通用しないというのもどうなの。
ムッとほっぺたを膨らませながら、聖南から受け取ったメニュー表に目移りした俺は……もっとどうなの。
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