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 聖南は謎の能力を持っている。 メニュー表をめくり「美味しそう」と目を止めた俺の視線を見ていただけで、注文する料理を決めた。  俺は何も言ってないのに、最後のページを捲り終わるやすぐに立ち上がって、わざわざ個室の外にまで注文しに行った。  甘やかされてるなぁ、俺……。 「……で? 話は出来た?」  戻って来た聖南と目が合って、頷く。  ちなみにルイさんは、メニューを決めてる最中も黙って俺達の様子を見ていた。 「はい、……一応は」 「補足した方が良ければ、俺も話すけど」 「いやいや、その必要は無いです。 ハルポンに惚気てもらいましたんで」 「えっ♡ 葉璃が惚気てた? マジで? 何て言ってた?」 「セナさんのことめちゃめちゃ好きやって言うてました」 「ちょっ、ルイさん!?」 「えー♡ えー♡ えー♡ マジかよっ♡ 葉璃、そんな事言ってたの? なんて惚気てたんだよっ♡」 「えぇっ?」  クイクイっと肘で俺を押す聖南のアイドルの仮面が、半分は剥がれた。  ルイさんもルイさんで、誇張してそんな事を言うから見事に聖南が有頂天だ。 お家に二人っきりで居る時の声になってる。  ニコニコな聖南と、狼狽える俺。  こんなの誰が見てもバカップルだよ。  外でここまで甘えたにはならない聖南を間近で見て、ルイさんもケラケラと笑っていた。  わざわざ聖南が補足しなくても、これだけで俺達の関係が証明されたも同じだ。 「ハルポンがセナさんのこと、いっぱい好きやって言うてたんはこの耳でバッチリ聞きましたんで。 これでお二人の関係もハッキリしたいうもんですわ」 「え、あのっ、ルイさん……っ?」  笑顔のまま立ち上がったルイさんを、目で追いかける。  デレデレしかけていた聖南も、さすがに何の話もしていないうちから帰宅しようとするルイさんを引き止めた。 「おい、帰るのか? 一品料理食ってけよ」 「俺はもう腹パンパンっす。 あとは二人で仲良うやってください」 「ルイさん……っ」 「ハルポン、明日は十時な。 セナさんゴチっす!」 「あぁ、……お疲れ」 「……ルイさんっ」  ……俺には分かった。  こう見えてルイさんはかなり気を使う人だから、俺と聖南を二人きりにしてあげようとしてくれたんだって。  個室を出て行く寸前、さっき言えなかった事を伝えるために俺は立ち上がる。  ルイさんが着るとあんまりガラの良くない迷彩柄のジャケットを捕まえて、 「あの、……ありがとうございます。 聖南さんと俺のこと否定しないでくれて、ありがとうございます……っ」 と頭を下げた。  するとルイさんは、歳の離れた弟にするみたいに俺の頭に手のひらを乗せて、髪をグシャグシャにして笑った。 「……こちらこそ。 ハルポン、話してくれてありがとうな」  惚気けられてもうたわーと笑いながら、ルイさんは何ともあっさり個室を出て行った。  ほんとに、あっさりだった。  じわ…と聖南を振り返ると、ちょいちょいと手招きされる。  近寄って行くとすぐに腕を引かれて、抱き締められた。  甘えたな聖南が顔を覗かせてデレデレしてたけど、ルイさんが居る前では一応我慢してくれてたんだ。  膝をついた俺もキュッと抱き締め返して、温かくていい匂いのする胸に収まる。 「葉璃、話して良かったと思ってる?」 「……はい。 これからの事を考えると、話しておかないといけない仕方無い状況だからって……思ってましたけど。 ルイさんにはもっと早く言うべきだったな……」 「ルイがETOILEの加入候補者だって分かった段階じゃ、まだ言えなくて当然。 葉璃がルイを贔屓しちまってたのは誰の目にも明らかだったけどなぁ、それも仕方ねぇ。 候補者の中で断トツの素質を見せつけてたルイが、葉璃にあれだけ心開いてんだもん。 新メンバーはコイツしか居ねえって満場一致だったのも頷ける。 加入が決まった時点で俺達のこと知ってもらったのも、いいタイミングだと思うよ?」 「そう、ですかね……?」  聖南のためにも、もう他の誰にも俺達のことはバレてはいけないと思ってたんだ。  でも……ルイさんの言葉を借りるなら、〝ルイさんにならいいか〟って思えた。  俺にだけ秘密を打ち明けてくれたルイさんは、今後何があっても、絶対に俺と聖南を裏切ったりしないって確信した。 この関係を知っても、誰かに吹聴したり茶化したりもしないって、改めて分かった。  何より普通に受け止めてくれた事が……とても嬉しかった。  ルイさんにグシャグシャにされた髪を、聖南が撫でながら整えてくれる。 ふと顔を上げると、優しい微笑みを浮かべていた。

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