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聖南が頼んでくれた一品料理を一人で全部平らげて、すぐにお家に帰ろうと言い出した聖南は車中でいっぱい俺の頭を撫で撫でしてきた。
隠し事してたのを謝ろうと思ってたのに、その隙も与えてくれない。
それよりも、聖南との事を俺が自分の口でルイさんに話したのがよっぽど嬉しかったみたいで。 「話して良かった?」と何回もニコニコでご機嫌な笑顔を向けてくる。
「俺がフライングで大ヒント教えちまったから、ルイもモヤモヤしてたんだろ。 今日復帰初日だったじゃん。 露骨に狼狽えてた?」
「それはもう……! 変な会話を何回もしました! すっごくよそよそしくて、たまに何かを考え込んだりしてて……。 ルイさんはまだ、おばあちゃんの事で気持ちに余裕も無いはずなのに、俺と聖南さんの事で悩ませてると思うと申し訳無かったんです」
「それで今日話すってなったのか」
「そうです。 聖南さんも来てくれるとは思いませんでしたけど……。 今日はHottiの撮影日でしたよね? お仕事は大丈夫なんですか?」
もちろん聖南も合流すると知って心強かったけど、今日ほんとは0時間際まで仕事のはずだ。 撮影が長引けば予定時刻を大幅に過ぎる事だってあるし……。
過去に色々とあったHottiという雑誌は、今も聖南の名前と顔ありきというところがあって、それを聖南も分かってるから出来る限りあちら側の要望を聞いている。
こんなに早く帰宅するなんて、聖南が無茶を言ったんじゃ……。
優しい微笑みからフッとヤンチャな笑顔に変わった事で、俺は嫌な予感がした。
「残りは来週になった」
「え!? それって……っ」
「そりゃ現場にはちょっとだけワガママ言ったけど、ルイに俺達の事話すって時に俺が居ないのは信憑性に欠けんじゃん。 土壇場で葉璃が話せなくなるかもってのも心配だったし?」
「でも……っ」
「葉璃ちゃん。 今の話、俺はウソ吐く事だって出来たんだぞ? 衣装が届いてなかったとか、機材チェックで残りの撮影が別日に飛んだとか、いくらでも。 でも俺は葉璃に怒られるの覚悟で正直に言ったんだから、許して。 重要な用事が出来たってちゃんとみんなに頭下げてきたよ、俺」
聖南が早口になってる。
ずっと前、俺が〝仕事をしない聖南さんは嫌い〟と言った事件を思い出した。 あの時もそういえば、Hottiの撮影中の出来事だった。
適当に誤魔化して帰ってきたわけじゃなくて、事情を説明して関係者に頭を下げたんだって事を早口で捲し立てる聖南に、今の俺がそんな事言うはずないよ。
〝あの台詞は言うな〟って、聖南の綺麗な顔に書いてある。 聖南にとってあの言葉は何よりも嫌で、恐ろしい言葉なんだって。
「…………聖南さん、……」
「葉璃、怒んないで」
「……怒んないですよっ」
そんな小さな子どもみたいに唇尖らせて俺の表情窺わなくても、言わないってば。
帰宅してからはもっと甘えん坊になる聖南が、手洗いとうがいをしてる俺を背後から抱き締めてくる。
それがあんまりにも必死で力いっぱいで、手洗いした後の水浸しの手から水滴が伝って袖が濡れた。
こんなところで押し倒されるのかと思った。
「ちょっ、聖南さん、服が……っ」
「ほんとに怒ってない?」
「怒ってないです! 聖南さんが来てくれるって分かってたから、俺もちゃんと言えたんです。 ほんとですよっ?」
「……ん。 ルイ、驚いてた?」
「いやぁ……聖南さんの大ヒントでほぼバレてましたし、驚くっていうか……あ、もう三年目に突入しましたって言った時は驚いてたかな」
お家だから思う存分俺に甘えてくる聖南を、ギュッと抱き締める。
改めて思うと、聖南と出会ってからもう三年も経つんだなぁって感慨深くて。 俺も聖南も、あの生放送で出会うまでお互いを知らなかったんだよね。
それが今じゃ、お互いが居ないと生きていけないなんて単純に凄い事だ。 何にも取り柄がないと閉じこもってた俺が、今や仕事でもプライベートでも聖南の背中を追ってる。
三年前の俺には、到底信じられないよ。
人の出会いって、人生って、何があるか本当に分かんない。
ちょっと苦しいくらい抱き締めてくる聖南と鏡越しに見つめ合うと、初めて意識した時よりドキドキする。
「そっか。 じゃあさ、……」
「はい?」
「惚気てたっての詳しく聞きたいんだけど」
「えっ!? あ、いや、あれは別に惚気たわけじゃないんですよ! 聞かれた事に答えただけっていうか、……っ」
「へぇ〜ルイには言えて俺には言えないんだ? 俺のことなのに」
そんな……そんな拗ねられても、改めて聖南に言うなんて恥ずかしいよっ。
無意識に言っちゃった事だし……ていうか聖南、いつの間にか上着脱いでる。 俺の事を抱き締めながら、どんどん自分の服脱いでいってる。
その間の口元は拗ねてて子どもっぽいのに、とうとう下着姿になった聖南の手のひらが……手のひらが……っ。
「聖南さん……っ、俺のも脱がそうとしてませんっ?」
「うん。 風呂入ろ」
「一緒にですか!? そ、それって……」
「もち、洗うの込み♡」
「…………っっ!」
あ、洗うの込みって、……そういう事、だよね。
服どころか下着まで手早く脱がされて、バスルームに連れ込まれながら俺は思った。
こういう時、素直に聖南の言うことを聞いて惚気た経緯を話したところで、着地点は同じだって。
言わなかったら「話してくれるまでお仕置き」。 言っても「葉璃ちゃん、かわい♡ 好き♡」で、結局こうなる。
照れくさいから言わないだけで、聖南のこと〝いっぱい大好き〟な俺はされるがまま。
すべて曝け出した聖南になら、もはや何をされたっていい。 俺が抵抗すればするだけ、聖南の瞳がギラギラするって分かってるもん。
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