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 ムッとした俺が前のめりになって言い返そうとするも、前方を向いたままルイさんの左手がスッと上がり、ストップをかけられた。  それを言われると、思わずカッと頭に血が上ってしまう。  なんで聖南を信じてあげないのって。  又聞きした話で勝手に聖南を悪者にしないでって。 「一方の話聞いただけで疑うなんてのはナンセンスやん。 そやからな、とりあえず社長にカマかけてん」 「カマをかけた……? 何てですか……?」 「セナさんには公言してる恋人が居るやろ、社長はもちろんその相手も知っとるんやろ、姪っ子なんか?言うて、セナさんの恋人がハルポンやいうのを知ってるんかどうかを聞き出した」 「……すごい……っ、口がうまいですねっ?」 「そやろ? そしたらな、ハルポンの名前は言わんかったけど〝もちろん知ってる、姪ではない〟ときた。 そやったらおかしな話やん? その写真がほんまやったら、セナさんは社長も恋人も裏切ってるって事になるんやで? そんな事する人か? どうなんや?言うてもっかいキレたら、また泣いてはった」 「………………」  ……社長さん、お酒を飲んだら泣き上戸になるのかな……。  それとも本気で、聖南に対する態度を後悔してるの?  周りがみんな偉い人だったら、そりゃあ誰にもそんな弱音吐けないんだろうけど……。  他でもない聖南もそうだから。  ルイさんの話を聞いて少しだけ社長さんの気持ちに譲歩した俺は、聖南からも度々怒られちゃうほどのお人好し。  言い争ったという社長さんと聖南の間に拗らせた〝何か〟があるような気がして、でもそれが一体何なのかなんて……俺には見当もつかない。 「社長とセナさんがどんなやり取りしたかは分からんけど、信憑性の足らん情報に振り回されて、くだらん親子喧嘩はやめぇやとは言うといたわ。 大体な、社長はセナさんに何もかんも押し付け過ぎなんやって。 成田さんにセナさんのスケジュール見してもろた事あるんやけど、あの人毎日えげつないほどの仕事量こなしてんねんで? 自分の仕事の他にCROWNとETOILE関係の打ち合わせがなんこも入ってたし。 てかセナさん、あんなスケジュールでいつ曲作ってんの」 「………………」 「あーあと、相手がハルポンなん知っててセナさんの特ダネ疑うたっちゅー事は、セナさんの交際をほんまは認めたくない言うことなんかってのも聞いてん」 「……そ、それで……?」 「なんも答えんかった」 「………………」  ………………。  ………………。  ……そっか、……そうだよね。  認められないよね。 だって相手は〝セナ〟だもん。  俺も信じられない気持ちで毎日過ごしてるし、……相応しくないって自覚もちゃんとあるし、他人からは歪な関係に見えちゃっていてもしょうがない。  なんたって俺は、常にそう思ってるからこそ世間にバレてしまうのを極端に恐れている。 昨日、聖南にも改めてそう伝えた。  俺には眩し過ぎる存在で、どれだけ手を伸ばしたって届く気配すらない高みに居る〝セナ〟の足枷にならないために、追い掛け続けるために、行動するだけ。  約一時間車を走らせたルイさんは、ようやくテレビ局へと向かう事にしたみたい。 見慣れた町並みと歩道を歩くたくさんの人達を、俺は黙って見詰めた。 「社長なぁ、セナさんと喧嘩してもうたって事を俺に吐き出したかっただけに見えたんよな〜」 「………………」 「……これはあくまでも俺の憶測やけど。 社長はセナさんと姪っ子をくっつけたいんとちゃうやろか」 「え…………」 「あかん、こんな言い方したらハルポン泣いてまうやんな。 んーと、つまりな、セナさんの特ダネ掴んだのはまったく知らん人間ではないかもしれん、言うことや」 「……ど、ど、どういう、こと……?」 「俺はそれこそ昨日、姪っ子の事含めてそういう話を聞いたんよ。 そやから軽率な言動は出来ん」 「いや、……もう充分、いっぱいしてると思っ……」 「そう、よう言うてくれた! そうなんよ!」 「え……?」  ミラー越しにニコッと笑われたんだけど、相変わらずルイさんの思考は読めない。  パチンと指を慣らして、ガキ大将みたいな得意気な表情を浮かべている。 「社長は親子喧嘩してシクシク泣いてポロリしてまうし、セナさんの特ダネもなんやクサイし、ハルポンまで巻き添え食うて泣く羽目になったらかなわんから、俺はこのゴシップ騒動に首突っ込む事にしてん!」 「え、……えぇ?」 「俺はな、……色々知り過ぎてもうた。 ほっとかれへんよ」 「………………」  ……ドヤ顔とはこの事。  まったくの無関係でいられなくなったからって、知らん顔出来ない性分なんだろうルイさんは、俺と同じくお人好しなだけのような気がしてならない。  結局ルイさんは、社長さんの話だけで聖南を疑う事はしなかった。 どちらかの肩を持ってるという偏った考えでないのも分かった。  だからって面倒事に自ら飛び込もうとするなんて……しかもこんな不敵な笑みを溢しながら。 「……今の、カッコつけました?」 「カッコよく見えたんか?」 「いえ、別に」 「おい!!」 「ぷっ……」  正直に答えたのに盛大にツッコまれた俺は、とても自然に笑えていた。  社長さんが俺と聖南の交際をよく思ってないかもしれない。 そんな知りたくもない事を知ってしまった時、今までの俺だったら、ぐるぐるに歯止めがかからなくなっていた。  それなのに……。  不思議なもので、あんまりダメージを食らってない。  俺達の関係を知ってる人に今さらどう思われようが、聖南と俺は離れられないというのがもうハッキリしてるからかな。  過去にたくさん逃げてしまった前科のある俺だから。  俺が居なきゃ聖南が壊れてしまうから。  俺が聖南から離れてしまう事が何よりも怖いと、大きな子どものようにしがみついて縋ってくるから。  恋人はその時、アイドルの顔を捨てている。  そんな〝日向 聖南〟の隣に居ていいのは、俺だけだもん。

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