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 う、っ……どうしよう。  俺なんかが口出ししていい事じゃないのに、 こんな機会ないからって出しゃばり過ぎた。  ……でも俺は、ゴシップなんか二の次だから。  本当の狙いが俺だって信じられない事を聞かされても、浮かぶのは社長さんとの信頼関係を失った聖南の、寂しげな横顔だけだから。  俺は誰にどう思われてもいい。  聖南が毎日笑顔でいてくれるだけで、俺の心は満たされるんだ。  俺の事が大好きだって、日々温かい愛情をたっぷり注いでくれる人が落ち込んでる姿は、もう見てられなかった。  出しゃばった事を後悔しつつ、ただ俺にはそうした理由がきちんとあって、社長さんにもそれが伝わればいい……というのは安直な考えなのかな……。  ここで沈黙されちゃうと、希望がなくなっちゃうんだけど……。 「そうだな、……そうする」  夕暮れをバックにした社長さんがゆっくりと振り返ってきて、その表情を見た俺は確信した。 「父親らしく詫びるよ。 私にとってもセナは実の息子のようなものだ。 セナが頼もしくなるにつれて、次第に遠慮が無くなってきてしまった。 ……あいつの心の弱さは誰よりも知っているはずだったのだがな……目先の事だけに囚われた私の軽率な発言は、父親としても、上に立つ人間としても失格だった」 「………………」  ……きっと社長さんは今、本心から聖南を案じていて、自身の発言を後悔してくれている。  そしてその胸中を俺に語ってくれた意味合いはとても大きい。 自惚れかもしれないけど、〝大塚社長〟ではないその人から改めて聖南の隣に居る事を許されたような、人情を感じた。  俺がどれだけ息巻いていても、社長さんを許す許さないは聖南が決める事。 ただ俺は絶対的に聖南の味方で居て、背中を守り続けるだけ。  緊張の面持ちだった俺が破顔した事で、腰掛け直した社長さんも安堵したみたいだ。  社長さんの気持ちを受け取った俺は、とにかく聖南の心を何とかしてほしいとばかりに出しゃばりを続行する。 「聖南さんがレイチェルさんと付き合ってるという疑いは、晴れましたか?」 「あぁ……私の中では晴れた。 しかしな、犯人を特定したという報告を受けた時、考えたのだ。 レイチェルとハルには悪いが、あの写真こそが君達二人を守る盾になるのではないだろうかと」 「…………?」 「ハルが一番恐れている事態を回避できる、という事だ」  盾と言われても分からなかった。  けれど……俺が聖南に爆発しちゃった時に同じ事を言った気がする。 たとえその写真が世間に公表されてしまっても、〝目くらまし〟になるって。  聖南の事が好きなレイチェルさんの気持ちを考えると、それはあまり良案じゃない。 レイチェルさんにはそう思っても仕方ないんだけど、〝俺に悪い〟は断じて違う。  俺は聖南と離れたくないのに守りたいっていうワガママだから、聖南にとっての得策がどんな事であろうといいんだ。 「セナは、あの写真が流出した時点で芸能界を引退すると私に名言した」 「──えっ!? い、引退!?」 「ああ。 以前、君達の事が私にバレたと分かった時、ハルはセナの立場を鑑みて逃げた事があったろう」 「……あ、……はい、……すみません……」 「あの時にもセナは血相を変えて、同じ言葉を私に突き付けた。 あいつの事だからそれはハッタリでも何でもない」 「……そんな……! 俺、聖南さんの引退なんて望んでません! そうならないように俺は……っ」  聖南が言いそうな事だ。 現に俺も、それらしい台詞を聞いた事がある。  何よりも俺を最優先する聖南だけど、そんなの絶対ダメだよ。  今まで築き上げたものとか、ETOILEに関わった事で曲作りに目覚めたと嬉しそうに語っていた聖南が、そう簡単にその二文字を口にしちゃダメ。  俺はずっと前から言ってるよ。  聖南の背中を追いかけるために、この関係を秘密にしていたいって。  俺は熱狂的な〝セナ信者〟だから、いつまでもその背中を追わせてくださいって。  「この世界しか知らない」と言ってたのは聖南でしょ? やり甲斐を見つけた仕事を、こんなゴシップ一つで全部投げ出してしまっていいの?  それでも聖南は、俺がいいって言うんだ。 『葉璃しか要らない』って。  最悪の事態と同時に、聖南の笑顔が見られなくなってしまう予感に震えちゃいそうになる。  ……聖南がよくても、俺は納得いかないよ。 「──あの……俺と聖南さんが離れていれば、弱味を握られる事もないんですよね……?」 「離れると言っても一時的に、だ。 あくまでもな。 こちらで集めている証拠が揃えば、犯人に直接警告が出来る。 それまでの辛抱だ」 「………………」 「ハル、……すまなかった。 私は姪可愛さに、君達の仲を引き裂いてしまうところだった。 だがセナの原動力はハルの存在以外に無い。 ……私のつまらない一時の気の迷いを、どうか許してほしい」 「あ、……いや、……」  それで〝俺に悪い〟って言い方してたのか……。  そんなの俺は気にしない。 俺の卑屈さを甘く見てもらっちゃ困る。  社長さんだけじゃなく、俺達の仲を知ってる人みんなが疑問を抱いてるんだろうなって今でもたまに思うくらい、俺は〝セナの恋人〟の器じゃない。  それでも何とか、隣に居られるようにがんばってる最中な俺に目標が無くなってしまうのは、痛手でしかないんだよ。 「写真の流出はさせないよう努めるが、先程も言った通り相手は〝普通〟ではない様子だ。 だからこそリスクヘッジについては考えておいた方がいい。 例えばアレが流出したとして、セナが世に訂正でもしてみなさい。 瞬く間に君達の仲が明るみになる。 真実かどうかの追及を二十四時間覚悟せねばならん上に、心無い言葉が四六時中飛び交う可能性だってある。 二人が傷付く事は何としてでも避けたいのだ」 「………………」  まるで自分がその当事者にでもなったかのように、苦々しく語られた。  言ってる事はすごくよく分かる。 それどころか、俺も社長さんとまったく同じ意見だ。  考えるまでもない。 「……分かりました。 俺はともかく、聖南さんがこれ以上傷付かないで、引退なんかさせない方法があるなら、……社長に従います」 「……ありがとう。 セナには私から話しておく。 間もなく来るはずだからな」 「えっ……?」  聖南がここに、……っ?  反射的にソファから立ち上がった俺は、社長さんからしっかりと頷かれて目を丸くした。

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