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 よほど警察は嫌なんか、やっと震える声で言い返してきた。  ハッタリでも何でも、とりあえずだんまり決め込まれるよりええわ。  聞いたろやん。 「何がや」 「こっちが黙ってればいい気になりやがって! 好き勝手言えるのも今のうちだからな!!」 「お、威勢がええやん! 元気出てきたな! その調子!」 「なっ……その調子って……!」 「ほらほら、どないしたん。 ここは怒りに任せてボロ出すとこやろ? テンプレ無視したらあかんよ」 「くっ……!」  感情を剥き出しにすると、人は案外本音を語る場合が多い。  普段おとなしい子がキレて爆発すると、溜め込んでたもん全部吐き出すアレと一緒。  コイツみたいに俺の一言一句でビクつきよる男には、半ば脅し入れて煽ったればどうやってそれを回避しよかと考えて頭がパニックになるやろ。  男は見事それに引っかかりよった。 「こっちだって……っ、こっちだって、反撃のネタくらい持ってる!」 「ほう〜。 反撃のネタ? なんやろ? ガセやったら承知せんぞ」 「ガセではない! お、俺はなぁ、SHDエンターテイメントと大塚芸能事務所の秘密を知ってるんだぞ! い、いいのかよ! バラしちまって!」 「……は? ……SHD?」 「世間の目を欺きやがって! 権力持ってる奴は何をしても許されるのか!」 「欺きやがって……?」  コイツ、一体何を言い出したんや。  まんまと口車に乗ってくれたんはええが、言うてることデタラメなんやないか? 「ちょい待ち。 なんでここでSHDが出てくんねん。 訳分からん」 「お前知らないのか!? ETOILEのハルと親しそうにしていたじゃないか!」 「親しいのはほんまやけど。 なんでソレとSHDエンターテイメントが関係あんの? どう繋がんの? さっぱり分からんのよ」 「そんなに親しいなら本人に直接聞いてみればいいだろ! 俺だって、ここまで面倒な事に巻き込まれるとは思わなかったんだ!」 「………………」  どういう事や。  ハルポンとSHDが繋がってる、……そう言いたいんか?  その二つの接点て何?  事務所からして違うんやから、繋がろうにも繋がらんやん。  おかしな事言うて俺を惑わせよう作戦か?  ──いやでも、コイツは面倒な事に巻き込まれてると自白した。  ハルポンがSHDエンターテイメントとどう繋がってんのか分からんけど、この件は裏で手を引いとる奴が居る……それは確実なもんになった。 「クソッ……! こんな事になるなら、はじめから協力なんかしなかったのに……! 俺を都合よく使いやがって……!」 「アイツて誰や」 「死んでも言うかよ! もう厄介事に巻き込まれんのはゴメンだ!」 「あっ……! ちょっ、待たんかい!」  グチグチ言い始めた男は一人でヒートアップした後、逆に惑わされて油断してた俺の手からスルッと逃げ出した。  急いで追いかけるが、開けた道に出てもうて通行人が多なった。  ちゃっかり者の俺は、逃亡する男の背中をスマホで撮影しながら途中まで追いかけたものの、信号に阻まれて見失ってしまう。  仕方なく、赤になった信号機を睨みつけて回れ右した。  あのどこにでも居るような顔は、人混みに紛れられたら二度と探し当てられん。 「……お、……顔映ってるやん」  走ってきた道を戻ってる最中に動画を確認してみると、最後に俺を振り返った瞬間の男の顔がバッチリ撮れとった。  取り逃がしてもうたが、これは充分証拠になる。  俺はそのまま家には帰らんと、まだ温もってる車に乗り込んだ。  そしてすぐさま、ハルポンやなくセナさんに連絡してみたんやが一度では出らんかった。 何回も掛けたら迷惑なん分かってたけど、そんなん言うてられん。  二回、三回……と掛けてみて、ようやっと四回目で応答があった。 『……ん、どした?』  あぁ、牛丼食べてはったんやろか。  ゴクッと飲み込む音がした。 「何べんも掛けてすんません」 『俺もごめんな、電話いま気付いた。 何かあった? 葉璃に替わる?』 「あ、いや。 替わらんでええっす」 『俺に用があるってこと?』 「はい」 『……何?』  このまま電話口で言うてまうかどうか、めちゃめちゃ悩んだ。  たった今、例の件の重要参考人と接触した。 そのとき訳の分からん妙な事を吹き込まれた……と言って、セナさんは応じてくれるやろか。  男の言葉を信じる義理はない。  けどなんか、引っ掛かる。  ずっとモヤモヤしとった心がスッキリ爽快になる話なら、今すぐにでも聞いときたい。 「申し訳ないすんけど、聞きたい事あるんで今から会えませんか」 『今から!? なんだよ、そんな大事な話?』 「……はい。 ついさっきとんでもない事があって、とんでもない事聞かされて、とんでもない気持ちなんすよ、今」 『え!? とんでもない事って……何があったんだよ』 「その……これは直接会うて話したいっす」 『分かった。 とりあえず何に関係する事かだけ教えてくれ』 「何関係か言うたら……〝ゴシップ〟っすかね」  俺がそのワードを出した瞬間、電話の向こうでセナさんは息を呑んだ。  直接話したい意思を瞬時に汲み取ってくれたセナさんを心配する、ハルポンの『どうしたんですか?』と問う声が聞こえる。 『ん、じゃあ事務所で落ち合おう。 社長にも連絡しとく』 「社長に?」 『とんでもない事があって、とんでもない事を聞かされたんだろ? そろそろ答え合わせしようじゃん』 「社長に口割らす気ですか」 『無理矢理にでもな』 「わーお……無理矢理……」  セナさんはもう、俺が誰かと接触した事に気付いてる。 その〝誰か〟が、ゴシップ写真を送り付けてきた奴やと思てるかもしれんが、それはまだ分からん。  そやから、犯人の目処が立っておきながら未だになぜか秘密にしとる社長に真相を聞くため、同席させるんや。  ……どんだけ頭の回転早いねん。 ほんま男前やな。 『葉璃も連れてってい?』 「それはええですよ、もちろん」  じゃあ事務所で、と切られてまう直前、いても立ってもおられんかった俺はすでにエンジンを掛けとった。

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