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 まさかそんなはずあらへんやろ──。  その余地は今日、きれいさっぱり無くなってもうた。  俺に接触してきたいう事は、以降本格的にハルポンが狙われるかもしれん。  十二月はいつにも増してスケジュールがハードや。  こんな事でハルポンの気を逸らされるやなんてたまったもんやないし、もし実際に何かされてもうたら……いよいよ取り返しがつかん。  首を突っ込むと断言したんは俺やけど、調べようにも何の手掛かりもなくて不甲斐なかった。 ターゲットがハルポンやと知ってからは、もっとそう感じとった。  だからというわけでもないが、他の誰でもなく俺に声かけてきたアイツは、グッジョブや。 俺は少しでもハルポンに恩返ししたかったから、手掛かり掴ましてもろてちょっと安堵。  ここから猛スピードで解決に至れば最高やん。 「お邪魔すんでーって、セナさんとハルポン早いっすね」  メールで指定された社長室に入ると、すでに三人がよう見る定位置で待っとった。  ちなみにいっつも香水くさい秘書は退勤したらしく、残り香だけが秘書室にあった。 「よ、ルイ。 さっきぶり」 「ルイさん、こんばんはー。 さっきぶりです」 「さっきぶりー。 社長はお疲れーっす」 「相変わらず軽いな、お前は。 そこへ掛けなさい」  セナさん、ハルポン、社長の順に、相応に挨拶しただけやん。 軽いとは心外な。  苦笑いの社長から指差された先は、ピタッと密着したカップルと対面するソファ。 どっかり腰掛けて、二人を眺める。  こうして見ると、……確かに似合いのカップルや。 同性やのに何も不自然やない。  「それで……早速だが、ルイは誰に、何を聞いたのだ? その様子だと、危害を加えられたわけではなさそうで安心したが」  秘書が帰ってもうたからお茶が無いんか。  走って喉乾いてんけどな。  カップルから視線を外し、そんなどうでもいい事を考えてるとほんまに社長は〝早速〟本題に入った。 「あぁ、そんなんは無かった。 そいつが誰かは分からんけど、ハルポンを狙っとる奴らの一人っぽい男と接触した。 あ、いや……接触された」 「えっ!?」 「………………」 「………………」 「あの写真は、セナさんやなくハルポンを陥れるためやて聞いてたけど、今日の今日までウソやろ思てた。 だってな、こう言うては何やが、ハルポンはまだセナさんほどは陥れられる対象にはならんわけやん。 けど実際に、俺は知らん男からあと尾けられてこう聞かれた。 〝ETOILEのハルとどういう関係や〟って」 「えぇっ!?」 「………………」 「………………」  さっきから、驚きの声を発してんのはハルポンただ一人。  社長はライオン丸みたいな顔でどこか下方を見つめてて、眼鏡を掛けとるセナさんは黙って俺をジッと見てくる。  こんだけ顔がええ人から見つめられると、ハルポンやなくてもドキドキするやん。  ……って、あかん。 俺はすぐ思考が脱線する。 「ハルポンが誰かと付き合うてる、いうんがバレてるって事かもしれん。 もしかすると相手がセナさんやって事も押さえられてて、証拠掴むために俺はカマかけられたんとちゃうやろか」  つまり俺がこの場で情報共有した後、確認しておきたい事は二つ。  セナさんのゴシップ写真をここに届けた犯人の名前と、両事務所の秘密とやら。  素直な反応を示すハルポンはともかく、社長とセナさんが黙っといてくれとるおかげでスルスルっと話ができた。  しかしそれまでライオン丸の形相で固まってた社長が、突然口を挟んでくる。 「待て、ルイはこの二人の関係を知っているのか?」 「知っとるよ」 「そうだったのか……」 「俺は死んでも暴露したりせんから安心しぃや。 てかそれとな、もういっこ。 そいつが妙な事言うててん。 〝SHDエンターテイメントと大塚芸能事務所の秘密を知ってる〟とか何とか。 反撃のネタや言うてたけど、これがいまいちよう分からんねん。 社長、SHDとなんや揉めてんのか?」 「────っ!」 「………………」 「………………」  大塚ほどの大手事務所は、様々な面で顔が利く。 同時に、その名前の圧力で他事務所との歪みが生まれてしもて、理不尽に恨まれる事も少なくない。  そやから俺は、ヤツの言うてた事がガセでないんなら、事務所間で何らかのトラブルがあって、大塚側がSHDにデカい顔して圧力かけて揉めてるんちゃうかと踏んだわけや。  そう、事務所間の問題やと。 「……ハルポン、なんでそんなにビックリ仰天しとるん」  社長でもなくセナさんでもなく、今日イチ反応を見せたハルポンが気になった。  だってこんなん、あの男が言うてたんがほんまやったいう事やん……?  いかにも分かりやすい狼狽によって、SHDとハルポンは関係あらへんやろって無理やり事務所間の問題にした俺の考察は、完全に間違うてた事を突き付けられる。 「あっ、えっ!? あ、あの……っ、いや、あの……っ、えっと、……!」 「葉璃、落ち着いて」 「は、はい……っ」 「社長、現時点で分かってる事、全部教えてくんねぇかな。 何も分かんねぇ状況じゃ、葉璃を守りたくても守れねぇんだよ。 犯人は誰なんだ」  こんな分かりやすい答え合わせあるかいな。  マンガみたいにオロオロしとるハルポンは、これまで黙ってたセナさんに肩抱かれて諭されて、あげく社長への追及を開始した。  神妙な顔でセナさんを一瞥した社長が、「分かった」と重苦しく頷く。  うーわ……。  俺の知らん何かが、確実にある。 今こそ俺……とんでもない気持ちになっとるぞ。 「その前に、まずはルイに例の極秘任務についてを打ち明けねばならん。 二人は構わんか?」 「それを話さないと進まねぇんなら、社長に任せるよ」 「お、俺も、お任せします……っ」 「極秘任務? 何それ。 ハルポンはアイドルの傍らスパイでもしてるん?」 「してないですっ」  俺は決して、揶揄して言うたんやない。  モヤモヤ、モヤモヤ、心のどっかでずっと燻ってた謎が社長の口から飛び出すその瞬間まで、俺は……。  セナさんとハルポンの関係を知った時と同じ、どこか空想の話を聞かされてるかのような違和感を感じとった。

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