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「ルイ、いいか。 この秘密は、今後こちらが動いて隙を与えてしまった場合、向こうにとっては充分反撃材料となり得るものだ」 「……なんや。 何かあんのはマジやったんか」  仰々しいな。 そないにヤバいネタなんか。  今も昔も変わらん、社長はライオン丸のような強面やから迫力満点。  おまけに眼光鋭く見てくるし、俺が問い詰められてる側みたいになってるやん。 「ああ。 一部の者しか知らない極秘事項ゆえ、お前にも口止めしておかねばならんが。 秘密を守ってもらえるか」 「大層やなぁ。 口約束が不安なら一筆書いて、血で拇印押したるで」 「……血っ!? ルイさん、痛いことはやめて!」 「おぅ、やめとこ」 「えっ……?」  言葉の綾、いうんを知らんのかいな。  ギョッとして立ち上がりかけたハルポンはまぁ、そういうとこがええんやけど。  周りがこんなハルポンをほっとかれんで甘やかしてるから、まったくすれてへん。 まるで天然記念物。  俺も人の事言われんほど、日に日にハルポンに甘なってるしな。 誰にも傷付けさせへん、とまで思うようになって。  事態が動くならと、さっきの今でここに居る。  頭の上にクエスチョンマークを一つ浮かべたハルポンから社長に視線を戻すと、こっちはまだ仰々しい顔で俺を見とった。 「SHDエンターテイメントと大塚芸能事務所は、確かに秘密裏にとある契約を交わしている」 「ふんふん。 まぁデカい事務所やからな、ここは。 そんな話一般企業間じゃ珍しい事でもないやろ。 でもハルポンと何の関係があるん? スパイじゃないんやろ?」 「それが関係あるのだ。 ハルがその契約の要なのでな」 「……ハルポンが? どういう事?」  もったいぶるなぁ……。  いつから社長はこんな回りくどい喋り方するようになったんや。  事務所間で契約しとるのは事実やけど、それにはハルポンが絡んでるって言いたいんやろ。  俺みたいにスルスルっと簡潔に話してくれんかな。 じれったいわ。  はよ言うてくれと急かしそうになったが、セナさんとハルポンを順番に見た社長はというと、ひと呼吸と言わずふた呼吸ほど置いてまた焦らす。 「……Lilyの離脱者の穴を、ハルが埋めてくれている」 「……ん? ……うん? うん……?」 「ヒナタというサポートメンバーを知っているか」 「おっ? ヒナタちゃんか!」  思いもよらんとこでヒナタちゃんの名前が出た。  知ってるも何も、俺はヒナタちゃん推しなんやで。  レコーダーが壊れてまうのも厭わんと、何回も巻き戻しては再生を繰り返して録画した映像を観とる俺は、その名前だけで大興奮した。 「そら知ってんで! 本メンバーやないのが不思議なくらいダンス上手いし、キラッキラな華もあってべっぴんでな! 俺めちゃめちゃヒナタちゃんの大ファ……」 「ヒナタは、──ハルだ」 「…………ッッ!?」  なんやて!?  ウソやろっ!?  ウソやんなっ!?  勢い余ってその場で立ち上がった俺に、全視線が注がれる。  いやだって、そんな……そんな事あるか!?  ハルポンがヒナタちゃんて……顔全然ちゃうやん!  メイクして衣装着て化けてたいうんか!? それだけであんなに別人になるもんなんか!?  分からん……! なんも考えられん……!  今まで生きてきて、こんな衝撃受けた事ない。  社長は俯いてしもた。  セナさんは背もたれに体預けて腕を組んだ。  そんで、ハルポンは……泣きそうな顔で俺を見とる。 ここに居るんは、いつも見てるハルポンその人。  ……ヒナタちゃんではない。 「ルイさん、……ルイさんっ! ごめんね、ルイさん、あの……俺……っ」 「ま、待って。 ちょお待って。 ……待って」 「ルイさん……」  ごめんな、ハルポン。 頭ん中整理さして。  俺があんまりにも狼狽えてもうたから、ハルポンまで立ち上がって近寄って来ようとした。  それを左手かざして止めて、何も置かれてへんテーブルの上を凝視する。 「………………」  いったいどういう経緯で、そんな無茶苦茶な極秘事項が生まれたんや。  別事務所やで。 そもそも性別ちゃうし。  ハルポンがやってる事って、まるで影武者やん。  てか、あぁ……男が言うてたんはこの事やったんか。  〝世間の目を欺きやがって〟  〝権力持ってる奴は何をしても許されるのか〟  ハルポンが性別誤魔化して女性アイドルグループの助っ人になってるて、アイツは知ってたんや。  誰が聞いてもゴッツい極秘事項やのに……外部に漏れてるいうんか。  そらヤバいやん。  ヒナタショックで脳内爆破してる場合とちゃうで。  しっかりせんと、俺。  すごすごとセナさんの隣に着席したハルポンが、今にも泣いてまいそうになってる。  俺に隠してた後ろめたさで〝ごめんね〟言うたんやろ。 謝る必要なんかこれっぽっちも無いのに。 「ルイ、さん……っ」 「うん……すまん。 確認やけど、ヒナタちゃんは……ハルポンなんか? ハルポンが、ヒナタちゃん……そういう事?」 「……はい」 「いやなんで? なんでそんな……。 だって事務所ちゃうやん。 いくらハルポンがダンス上手いからって、アイドルがアイドルのサポメンて……しかも女になりきってやなんて……。 ほんまに訳が分からんのやけど」  声に出すと、やっぱり我慢できひんかった。  ハルポンを困らせたくなんかない。 尋問する気もさらさら無い。  ただただ純粋な疑問が湧いてん。  なんでや。 なんでや。  ガチで恋する手前やったヒナタちゃんが、ハルポンやった……て事はやで。  最初っからヒナタちゃんは居らんかった、て事になる。  毎日のようにヒナタちゃんに想いを馳せてた期間、ずーっと俺はハルポンの影武者を推してたんや。  全身がカチコチになるほどの衝撃的な事実に、俺はなかなか腰掛けられん。  体が……言うことを聞かん。

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