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❤︎ ❤︎ ❤︎  マスコミにゴシップ写真を撮られるのには慣れている。  やりたい放題だった頃の聖南は、マスコミの気配を敏感に察知し、好きに泳がせ、あえてシャッターを切らせていた。そのあげく、即座に振り返ってピースをするや相手にズカズカ近寄って行き、「うまく撮れた? 見せてよ」と詰め寄る始末だった。  スキャンダルが報じられた際も、〝セナほどの男ならしょうがない〟と大半のファンが記事を容認するため、大きな火種になりようがなかったのだ。  タレントを炎上させたいわけではないのだろうが、あまりにも優遇されている聖南のことがマスコミ各社も面白くなかったに違いない。  だがこうも話題にならないのであれば、雑誌の売り上げにも影響する。  そこで横のつながりはこんな結論を出した。  〝CROWN・セナのスキャンダルを取り扱っても無駄骨である〟  葉璃と出会う一年ほど前から、〝セナ〟のスキャンダルをメディアがあまり報じなくなったのはそういう事だったのだ。  しかし一昨年、状況が一変した。  言うまでもなく聖南の「恋人ならいるけど」発言により、それなら話は変わってくるとマスコミは再び聖南を追っている。  聖南がメディアで語る恋人像の情報は少ない。  午前中に突発で入ったインタビュー然り、これまでのほとんどのインタビュアーが恋人についてを尋ねてくる。  聖南はその度にふわふわとした回答しかしないため、実は恋人います宣言はフェイクなのではないかという噂まで流れ始めた。  そんな世間をあっと驚かせようと、マスコミは何としてでも聖南の恋人を突き止めるべく、もはや血眼になっていると言っても過言ではない。  聖南が真実を語らぬ限り追われる日々は続き、情報は錯綜する。  当の本人はそんなもの意に介さず、何とも余裕綽々で密かに〝恋人〟との愛を育んでいるが……。  社長から受け取った写真を見た聖南は、葉璃を愛でることで上がっていたモチベーションがついに地を這った。 「──これは……リテイク時か? 翌々日の食事をした時のものか?」 「…………」  おっかなびっくり聖南に問う社長を無視し、ドカッとソファに腰掛ける。  サングラスを外し、まじまじと見たところで当然ながら被写体は変わらぬまま。  ──またかよ。  いったいどのタレントが〝セナの彼女〟に仕立て上げられたのかと興味津々でやって来てみれば、写真の中にはよく知った顔が写っている。 「はぁ……。これはメシん時。社長も居ただろ」 「まーた切り取られておるのか」 「そういうこと」  前回同様この写真は、都合よく聖南とレイチェル二人を切り取ったものだった。  これを撮られるに至ったのには、込み入った経緯がある。  なんだかんだと注文を増やされ、昼過ぎから深夜近くまでかかったリテイク作業の日、レイチェルをタクシーに乗せたあと聖南は通常通り帰宅した。  起きて待っていてくれた葉璃をベッドで待たせ、急いでシャワーを浴び、愛しの抱き枕が待っているとルンルンで出てきたところで、レイチェルからこんなメッセージが届いた。  またしても深夜に、だ。 〝今日はありがとうございました。明後日おじさまと食事の約束をしましたので、セナさんもぜひいらしてください。今日のお礼もかねて、ご馳走させていただきます。〟  聖南はこれを読んだ直後、「いらねぇ!」と小さく叫んだ。しかもレイチェルには社長をダシに使った前科がある。信用できない。  そのメッセージは既読無視を決め込み翌日社長に確認を取ると、今回は本当であると分かったのだが、はなから聖南は乗り気でなかった。むしろ「行けないって言っといて」と言伝を頼んだ。  そこで社長から泣き落とされたのだ。 〝やはりまだ怒っているのか。私とは食事もしたくないか。そうか……申し訳なかった……〟  ──と。  すかさず聖南はこう返した。 〝いやいや違う。社長は関係ねぇ。レイチェルから好意持たれて困ってること、社長は知ってんだろ。俺は仕事以外でレイチェルと会うべきじゃねぇと思ったから断ってんだ。あんな写真撮られた後だし〟  ……この説明では、社長を納得させるに足りなかった。  自分も行くからいいだろう、レイチェルと二人きりにはさせない、よくない言動をし始めたら自分がレイチェルを叱る──等々、どうしても聖南と食事をしたかったらしいもう一人の父親が、良い機会だとこれでもかと捲し立ててきた。  結局聖南は、三人の食事の場に行った。生放送終わりの二十四時間近から、ほんの一時間だけ。  レイチェルのためというより、近頃すぐに肩を落とす社長のために行ったようなものだったが、撮られやしないだろうなと案じていた現物が今、手元にある。  「実に楽しい時間だった!」と赤い顔をして嬉しげに帰って行った社長には悪いが、聖南はこれを見た瞬間〝やっぱ行かなきゃよかった〟と顔を顰めた。

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