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「マスコミ側はなんとしてでもお前とレイチェルをくっつけたいようだな」
「んー……」
一見仲睦まじいように見えなくもないこの一枚は、たしかに誤解を招くものに違いない。
以前撮られたものも、アキラとケイタがその場に居たにも関わらずあえて聖南とレイチェルの二人を切り取ったものが事務所に送られてきた。
あの時は別日の写真が二枚送られてきた。
時期が重なったこともあり、マスコミとアイはグルなのだろうと誰もが信じて疑わなかったが、聖南が直接彼女に問い質したところそうではないということが分かっている。
アイは、自分のポジションを奪ったヒナタ─ハル─を失脚させようと、大塚芸能事務所の稼ぎ頭である聖南のスキャンダルを独自に追っていただけだった。
……となると、もう一枚の精巧な方は本物のマスコミが撮ったということになる。
以来ずっと、聖南とレイチェルのツーショットを狙っていたとなれば、社長が居ようが居まいが相手にしてみれば関係ない。
──去年のまで出されると面倒だな。
聖南は眉を顰めた。
立場を利用した康平の規制が解かれたと同時にすべての写真を掲載するとの事なので、時期を辿ってそれが出されてしまうのは非常に厄介だ。
二人きりになるのは今回が初めてではないと、証拠として去年撮られたものまで掲載されれば捏造記事に信憑性が増してしまう。
これがただの業界関係者であれば「ほっとけ」が通用したのだが、相手がレイチェルだと色々と都合が悪い。
社長の姪であることにくわえ、聖南のプロデュースで春にデビュー予定であること、さらにはリテイクまで含めたレコーディングにまで聖南が関わったと報じられると、憶測が憶測を呼ぶのは間違いない。
葉璃は聖南を信じてくれている(と思いたい)ので、たとえどんな記事が出ようが構わない。きちんと話せば分かってくれると思う。
何が面倒かといえば、ガセネタがレイチェルの耳に入っていいように誤解してしまうことである。
「レイチェルは撮られたこと知らねぇんだよな?」
「前回は確認のために私から話をしたが、今回はまったく」
「……ん。じゃあ今回は言わねぇ方向で」
「分かった」
感じたくはなかったが、まだレイチェルが聖南を見詰める視線には恋情が乗っているような気がした。
勘違いであってほしいが……聖南のアレルギーが発症したということは、おそらくそうなのだ。
「その……なんだ。レイチェルはまだセナを諦めておらん風か」
電話での威勢が無くなった聖南を、社長が心配気に見やる。
「どうだかねぇ。俺が距離取ってっから拒否ってるのは分かってんだろ。てか社長には何も言ってこねぇの?」
「そうだな。年末に会ったのも久々で、年始は向こうに帰っておるから話す機会も無いもんでな」
「そっか」
いくら血縁者でも、叔父と姪関係ではそう込み入った話もしないのかもしれない。
裏でこっそり協力してくれだの何だの手を回されていたら、それこそアレルギーが深刻化する。
康平には、ETOILEの新曲発表前に情報規制を解除するように話をつける気でいたが、それも長引かせてもらうしかなさそうだ。
Lilyの移籍先がトントン拍子で決まり、再スタートに向けてファンへの不義理を詫びつつ隠し事を曝け出すためにヒナタの正体を公表する予定であった。
年末年始の休息を返上しその手筈を着々と進めていたのも、ヒナタの公表に合わせてETOILEの新曲をぶつけるつもりだったからだ。
ガセネタのスキャンダルなんかに、足下を掬われるわけにはいかない。
聖南は、常に先を見ていた。
「デビュー前にダメ押しはしたくねぇんだよなー……」
マスコミは何とかなっても、レイチェルの気持ちをどう消化してやればいいか。
呟いた通り、目下関係者等は〝大型新人歌手デビュー〟に向けて事務所総出で動いている。
組織として動いている以上、聖南の発言一つで何もかもが水の泡になるのだけは絶対に避けなくてはならない。
迷惑だからと一蹴してしまうのは簡単だけれど、それは責任感の無い考えナシのすること。それが通るのであれば、はじめから聖南はリテイクにOKを出さなかった。
「……セナ、気遣い感謝する」
「俺が関わってる以上は失敗させねぇから。安心しとけ」
「あぁ」
早々と立ち上がった聖南の言葉に、社長は大きく頷く。こんな面倒なことになるとは……と、白髪混じりの下がった眉が語っていた。
この件については康平に連絡するということで、一旦は保留状態となったが致し方ない。
またもやツーショットを撮られたということがレイチェルの耳に入らぬようにしておけば、ひとまずは浮わつき予防になる。
「とは言ってもねぇ……」
サングラスをかけ社長室をあとにした聖南は、事務所の廊下を闊歩しながら〝本当にそれでいいのか〟と自身の決定に思い悩んだ。
レイチェルをデビューさせるまでが全てではない。どちらかといえばデビューしてからの方が重要で、情報規制を無視した〝暴露〟などされた日にはあらゆる問題が高波となって押し寄せてくることになる。
「……ん。葉璃のためにも考えねぇとな。……ちゃんと」
ただ聖南は、背中に大きな大きな看板を背負っている。以前のような軽率な行動は慎むべきだと意識が変わり、上に立つ者としての自覚が生まれた。無責任なことはできない。
しかしそれもこれも、葉璃の存在ありきだ。どんな事態が起ころうと、聖南の最優先事項は葉璃なのである。
スキャンダルには慣れっこだが、そうでない葉璃を悲しませることだけは避けなくてはいけない。
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