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 ぎゅっと目を瞑った。  またその話を蒸し返すのかって、呆れまじりのため息でも吐かれやしないかと心臓が痛くなった。  ベッドの端っこに座ってる聖南におんぶおばけになった俺は、しばらくして「ん?」と声を上げた聖南の反応が怖くて目を開けられない。  体が力むと、自然と聖南の肩に顔を押し付けてしまうことにもなって、色んなドキドキが増していた。 「んっ? ……えっ!? てか疑ってたのかよ!」 「は、はい……。ほんのちょっとですけど……。すみません……」 「あー……」  マジかぁ、と項垂れた聖南が、思いのほか柔らかな反応を見せた。  喜んだり、怒ったり、拗ねたり、驚いたり、ちょっとショックを受けたりと、この何分かで聖南の感情が忙しない。  俺が突拍子もなく甘えて、謝ったせいだ。  聖南が俺に甘いからって……いくらなんでも自分都合すぎるよね、俺……。  疲れてる恋人をさらに疲れさせて、何がしたいんだって感じだ。 「……聖南さん。俺ちゃんと説明するんで、横になりましょ」 「ん……」  腕を引っ張ると、微妙な表情を浮かべた聖南は当たり前のように俺を腕枕して横になってくれた。  それから俺の背中を上下にさすって、最後に軽くトントンと叩かれる。  ……とりあえず、怒ってた気持ちが落ち着いたみたいでホッとした。  いつもは、聖南のこの〝トントン〟で簡単に眠ってしまえる。けど、完全に目が醒めてしまってる俺は、謝ろうと決めた経緯を一から順に聖南に説明していった。 「あの……俺、年明けからいっぱい働かせてもらってるじゃないですか。忙しいって俺ごときが言うなって感じですけど……今日、ついに頭がくるくるパーになったんです」 「……ぐるぐるじゃなくて?」 「そうです。くるくるパーです。ルイさんから、情緒不安定って言われました」 「そんなに? 大丈夫なのかよ」  俺程度の仕事量でそうなってしまうなんてことを打ち明けるのは、聖南の毎日の仕事量を知ってるだけにものすごく恥ずかしかった。  ただ、聖南はまだ俺のくるくるパーを一度も見たことがないからか、信じられないという風に目を見開いて心配してくれた。 「もう大丈夫です。横になるだけでも全然違うんだなって、たった今思ってました」 「そうそう。俺も仕事詰まっててしんどい時は横になってるよ。無理に睡眠取んなくても、横になるだけでいくらか回復するからな」 「はい。明日からはくるくるパーになる前に横になることにします……」 「うん。そうしな?」  予想外の反応が返ってきて、聖南の顔を見上げた俺は面食らってしまった。  聖南は決して俺をバカにしたりはしないだろうけど、「くるくるパーってなんだよ」と吹き出して笑われちゃうのは覚悟してたから……。  さっきまで怒ってたとは思えないくらい優しい声で、「スケジュール詰めすぎだ」とまでぼやいてた。  でも……それはいいんだよ。  忙しいのはいいこと、ありがたいことだって、俺も分かってる。  新曲発売まで一ヶ月を切ってるんだもん。  ファン……と呼んでいいのか分かんないけど、ETOILEを待っててくれている人に向けて、きた仕事はぜんぶ全力でこなしたい。  今はまだ、体力と精神力が追いついてないだけで……。 「それで、疑ってたって話は?」 「あっ、そうでした! あのですね、……」  そうだ、今はその話をしてるんだった。  俺は、レイチェルさんが聖南のことを好きだってことを知ってる。告白されて、聖南が「恋人がいるから」って理由でフッたことも、以降も何かと理由をつけて聖南と関わろうとするレイチェルさんに対して、アレルギーを発症したとか言って聖南らしくなく拒否感を顕にしてることまで。  そうかと思えば夏と秋に写真を撮られて、年末にも撮られた。  手段はどうであれ、あんなに綺麗な人から言い寄られたら聖南だって悪い気はしないのかなって、俺は思ってしまった。  やましい事があるから、俺には〝話したつもり〟で納得させようとしたのかなって……。  そんな計算を、聖南が俺にするわけないのに。  くるくるパーになって初めて、聖南の言い分を理解できたってことを正直に話した。  言ってるうちにだんだんと自分が情けなくなってきて、聖南の腕枕から逃れ、布団の中で体を丸めながらではあるんだけど。  聖南がどんな表情をしてるのか分からないから、少しの沈黙でも不安になってくる。  こんなみっともないことを言う俺を、先輩兼恋人の聖南はいったいどう思うんだろう……。  言わなきゃ良かったとは思わないけど、自分の気持ちを素直に伝えることの難しさは、未だに慣れない。  聖南のことが好きだから、一緒に居たいから、〝隠し事はするな〟って聖南の言葉に従いたくて。  昔の俺だったら、絶対こんなこと言えなかったもん。  情けない自分を露呈するのもヤだし、打ち明けていざこざが起きるのもヤだから。  そうやって他人と距離を置いて殻に閉じこもった結果、こんな卑屈ネガティブ野郎になっちゃったんだけどさ。 「──あぁ、やっぱ不安解消出来てなかったのか……。ごめんじゃ済まなかったってことだな」  俺が恐れてたため息を一つもこぼさず、神妙に相槌を打ってくれてた聖南が突然こう言った。  聖南も……もしかしたら気にしてたのかもしれない。  〝話したつもり〟なんて、俺に話したところで信じてもらえるのかなって。  まんまと疑惑を抱えちゃってた俺は、だからこそ謝りたいんだと聖南の服をくしゃっと握り、自分の気持ちをぶちまける。 「いえ……! あ、あの、俺はこういう性格なんで、どうしても比べちゃうんですよ。俺は聖南さんの隣に居ていい人間じゃない、聖南さんとはつり合わないって……勝手にぐるぐるするんです」 「そこはぐるぐるで合ってる? フッ……」 「合ってます。……って、なんで聖南さん笑ってるんですかっ」

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