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 布団に潜り込んでたせいで、聖南の体が揺れてることに敏感に気付いてしまう。  パッと布団から抜け出して聖南の顔を見てみると、微かに聞こえた笑い声の通りしっかり笑顔になっていた。 「いま笑うとこありましたっ?」 「いや……葉璃は相変わらずだなぁと思って。かわいくて」 「なっ……」  たしかにそうかもしれないけど……! 俺は真剣に話してたのに……! ──と、顔面をカッカさせた俺の背中を、聖南が宥めるように撫でてくる。  うーん……笑われちゃうのも無理もないな。  俺ってば、ぐるぐるに関してはまったく成長してない。いっつも同じことでぐるぐるして、聖南を困らせてる。  もはや「相変わらずだ」と笑ってくれるまでになって逆に良かったと、開き直るくらいじゃないと……何回も同じことで落ち込む自分自身に嫌気が差しちゃうよ。  はぁ、なんで俺はこうなのかなぁ。  聖南がかっこよすぎるアイドル様だから仕方ないよな、って思えない。どう考えても俺の器が狭すぎる。  毎日、毎日、聖南の愛情を受け止めて溺れてしまいそうなのに、どうしてこんなに不安になるのか、俺にも分からない。  完全プライベートでもキラキラオーラがハンパじゃない聖南に、こんなに熱く見つめられてもぐるぐるするクセが治らないなんて。 「まぁ……葉璃のヤキモチ、そりゃめちゃめちゃかわいかったけどさ。俺はあんまりああいう気持ちにさせたくねぇから、恋人居ます宣言したんだよ」 「……はい……」  聖南の声がじんわり胸に響く。  今もまた懲りずにぐるぐるしていた俺の心を見透かして、聖南はぎゅっと俺を抱きしめた。 「いい加減耳タコだろうけど、葉璃が不安になるなら何回でも言ってやる。俺は葉璃のことが好き。大好き。葉璃しか要らねぇ」 「…………はい、……」 「誰よりも、何よりも、愛してる」 「は、はい……」  何もしてないシラフの状態でこういうことを言われちゃうと、顔から火が出そうだ。  ……照れる。すっごく照れる。  聖南が真剣に告白してくれる分、俺も返さなきゃいけないって分かってるのに、ドキドキして喉が締まって頷くことしか出来ない。  あったかい胸元に押しつぶされた鼻が、聖南のにおいをキャッチしてもっと照れくさい。 「……聖南さん……」  俺も好きだよ、聖南……。  疑ってごめんね。疲れてるのに感情忙しくさせてごめんね。  俺がそばに居なきゃ聖南は壊れてしまうってもう知ってるのに、すぐ悩んでぐるぐるしちゃってごめんね。  一昨日エッチしたから、俺の体を気遣って今日までこっそり我慢してるの知ってるよ。  聖南は優しい。ホントに優しい。  ぐるぐるしてる俺ごと好きだって言ってくれるんだもん。  ごめんね。と、大好き。の気持ちでいっぱいで、しがみついてたくもなるよ……。 「別にな、俺のこと疑ってたからってこの世の終わりみてぇな顔して謝んなくていい。むしろ茶化したっていいよ。いくら写真撮られようと、暴露されようと、俺のその手の記事は全部ガセネタなんだから」 「茶化すなんてそんな……」 「〝聖南さんまた撮られたんですか、何回目ですか〟ってキレるのもアリ」 「そんなの無理ですよ! 聖南さんにキレるなんて……っ」 「ちゃんと仕事しろー! って叱ってはくれるのに?」 「それは……っ」  あれって、俺がまだ業界に少しも触れてなかった頃のことだよ……っ?  二年も前のことを、聖南は今もまだ根に持っている。あの二文字は聖南の中で衝撃的な言葉だったらしく、俺がプンプンしてると「嫌いって言うなよ」と焦った顔で言ってくるもんな。  クスッと笑った聖南は今、きっと八重歯を覗かせて誰もが惚れ惚れするような笑みを浮かべていると思う。  頭の上に聖南の顎が乗っかってるから、その最強の笑顔を俺は見られない。 「マジな話。怒ってくれた方が、俺は嬉しい」 「え……」 「葉璃が溜め込む質なの分かってっから、俺もなるべくぐるぐるさせねぇように行動してるつもりなんだけど。俺もなぁ、こういう性格で、こういう仕事してると……金輪際絶対無いって言い切れねぇんだよ。過去のことだってそうだ。簡単に調べられる世の中だし。そのせいで葉璃は物騒な願望抱えてっし」  ギクッ……!  それを言われちゃうと何も言い返せない。  あ……でも、恭也のおかげで答えが出たんだっけ。  そうだ。そのことで聖南にも謝らなきゃと思ってたんだった! 「も、もうそんな願望は抱えてないです! 俺には百億万年早いって分かったので! 経験は積まなくていいです! 身の程知らずでした! ごめんなさいっ」 「…………っ?」  ガシッと聖南に抱きついて、最後にもう一回だけ「ごめんなさいっ」を付け足した。  その勢いに驚いた聖南は「お、おぉ?」と戸惑ってたけど、俺は燻ってたことをぜんぶ解消できてとてもスッキリした。  自分の気持ちを言葉にするのも、それを相手に伝えるのも俺にはすごく難しいことだから。  俺を不安にさせないように日々振る舞ってくれる聖南の愛情を、言葉を、大事にしなきゃと思った。  たまに聖南が、エッチの最中に俺に言うんだ。 「葉璃は自分が思ってるより俺のこと好きだよ」  ──って。  分かる気がする。……というと他人事みたいなんだけど、聖南の方が俺より俺のことをよく知ってて、自分でも見えない心の奥底まで見透かしてくるから、俺はいつも、ただ泣きながら頷いて広い背中にしがみつくんだ。 「身の程知らずって……言ってることがよく分かんねぇんだけど」  葉璃ちゃん? と顔を覗き込もうとしてくる聖南から、俺は逃げた。  よじよじと下に下がっていって、聖南のお腹辺りで止まってまたしがみつく。  恥ずかしかった。照れてしょうがなかった。  俺の気持ちを代弁した聖南の声と、その時の獣みたいな目つきや息づかいを思い出して、何だかそれどころじゃなくなった。  だけど、……。 「……葉璃、どこに抱きついてもいいけどそこはダメ」  布団を捲られた俺は、苦い顔をした聖南から定位置に戻されて安定の抱き枕になった。  ……はぁ……明日までおあずけかぁ。

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