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41❤︎新境地
❤︎ 聖南 ❤︎
葉璃と仲直りをするには、話し合いとセックスが必須であるということが改めて分かった。
ぐるぐるする葉璃を丸ごと愛しているとはいえ、いったい何が原因なのかを追及しなければ根本的な解決にはならない。
あまり時間を置くとロクなことにならないあげく、放っておくとすぐに〝別れ〟を選ぼうとする葉璃には、しつこいほど愛情表現してやる必要がある。
そのせいで聖南は昨夜、葉璃の唇をカサつかせてしまったが、あれは愛情の裏返しだと彼自身も分かってくれているだろう。
嫉妬でぐるぐるしている葉璃は、たまらなく可哀想で可愛い。葉璃の泣き顔が好きだとのたまう聖南にとって、その度に二つの思いに駆られて困ってしまう。
〝不安を無くしてやりたい気持ち〟と、〝ずっとそうやって俺のことだけを考えていてほしい〟という相反する思いだ。
日々愛おしさが募っていて、会話もそこそこにそういう流れに持っていってしまうのは聖南の悪い癖だ。
それはよくないと日頃の行いを改め、どこか上の空だった葉璃を心配して今日はとことん話を聞いてやるつもりだった。
しかし思い詰めたような表情を浮かべていた葉璃に、まんまとしてやられた。
耳を澄ませておいて良かった。
いつでも獣になれる聖南の前であんな発言をすれば、それは〝煽り〟と捉えても仕方がない。自身の粘膜液を葉璃の体内に注ぎたがる聖南のタガは、いとも簡単に外れるのだ。
言葉とは裏腹にベッドでの葉璃がやけに積極的だったことからも、今はたっぷりその身に分からせる方が先決だと思った。
「──という現状だ」
社長の声に、肘掛けに腰掛けていた聖南はハッと我にかえった。葉璃の隣を死守するため毎度そこに座る聖南だが、もはや誰も違和感を覚えない。
キリッとした無表情で真剣に耳を傾けているように見せかけ、実は昨夜のあれこれを思い起こしていた聖南は気まずさから軽く咳払いした。
──そうだった。社長が話してんのに俺ってやつは……。
現在、成田と林も含めた全員が揃ったところで、聖南のスキャンダルが報じられるかもしれない旨を社長が皆に説明してくれているのだ。
CROWNの三人はそれぞれの仕事が忙しく、レギュラーラジオと音楽番組以外で揃うことが滅多に無いためにこうした場を設けた。
それなら電話でいいじゃん、という聖南の言葉に、社長が難色を示したからだ。
前回の件でアキラとケイタからの信用をも失っていることを、社長はかなり気にしているらしい。直接自らの口で〝レイチェルに肩入れしているわけではない〟ことを伝えたいのだと言っていた。
「セナが言うには、報道規制の解除を待たずして取り沙汰される可能性もあるとの事。これをお前たちに情報共有しておきたくて今日は集まってもらった。どこで何を聞かれても、報じられた相手が誰であろうと、「セナの恋人ではない」と断言してくれて構わない」
アキラとケイタは、聖南達と対面するソファに並んで腰掛けている。信頼回復を図りたい社長の言葉に、揃って「ふーん」「へぇ」と気のない返事をした二人には、その意図は伝わっていなさそうである。
聖南同様この業界に長く居る二人も、なぜそんなことで呼び出されたのだろうと不思議で仕方がないのだ。
真実を知る彼らには、聖南の捏造スキャンダルが報じられたところで痛くも痒くもない。マスコミからの追及をどういなすべきかまで熟知している二人に、いちいち集合をかけてまで話すことはなかった。……と、社長には悪いが聖南はそう思っている。
「ごめんな。俺が迂闊だったんだ」
だがしかし、現時点で二人には迷惑をかけてしまっていると小耳に挟んでいる聖南は、素直に詫びた。
するとようやく、この謎の集まりを訝しみ険しかった二人の表情が緩んだ。
「撮られちゃったもんはしょうがないよ。セナの恋人が誰なのか、どこの週刊誌も血眼になって追ってるもんね」
「俺らのインタビューでも聞かれるからな。『セナさんの恋人に会ったことはありますか』って。ここ半年はマジでその質問多い」
「そうそう。俺とアキラは「会ったことない、どんな人かも知らない」って答えてるけど、そのまんまでいいってことだよね?」
多少なりとも週刊誌の世話になったことのあるケイタはもちろん、スキャンダルとは無縁のアキラまでもが聖南の心情を汲んでくれている。
交際を公にしたくないという葉璃の気持ちを知っている二人だからこそ、余計な打ち合わせを必要としない。
「あぁ、それで頼む。セナとレイチェルとの仲が取り沙汰されても、世間には絶対に誤解されてはならん」
「…………」
「恭也も、ルイも、頼んだぞ」
「はい、分かりました」
「オッケー」
それまで黙っていた恭也とルイも、揃って〝もちろん〟と言いたげに食い気味で頷いた。
ちなみに恭也は葉璃の隣、ルイは恭也側の肘掛けに腰掛けていて、今さらながらに聖南は可笑しくなってきた。
本来は二人掛けなのだが、ここにCROWNと ETOILEが全員揃うといつもこちら側のソファだけが無理をさせられている。
スペースがあればアキラとケイタもこちら側に集合しそうで、それもこれもすべては葉璃がここに居るからだ。
聖南を筆頭に、葉璃を守るようにして取り囲む男たちの過保護っぷりはいっそ清々しいほどで、それらをナチュラルにやってのけるから葉璃は気付かないのだ。
どれだけ周囲から愛されているか、大切に思われているかを……。
「これはあくまでもお前たちへの情報共有。報告は別にあってな。セナ、もう話してもいいのか?」
「あ、あぁ、……大丈夫」
そっと葉璃の肩に腕を回そうとしていた聖南は、相変わらず敏腕刑事のような風体の社長に頷いて見せた。
すると社長は、「うむ」と頷き返すなりゆっくりと立ち上がった。
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