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残りの半分をモグモグしながら、小さい方の箱の包みを開けてみる。
なんだろう……お饅頭と同じ包装紙なのに、こっちの中身は濃い茶色の木箱で、アクセサリーでも入っていそうな高級感があった。
「開けてみて」
「ふぁい……っ」
聖南からそう促された俺は、咀嚼していたお饅頭をごくんと飲み込んでパカッと木箱を開けてみた。
「わ、……キラキラ……っ」
そこには、五センチくらいの大きさのキラッキラなキーホルダーが入っていた。
色はすごく綺麗な濃いピンク。形はというと……。
「これは……星、ですか?」
敷き詰められたピンク色の粒々も目を引くけど、俺はなぜかその形に釘付けだった。
聖南がどうしてこの星形を選んだのかなんとなく分かって、瞬間的にうるっとしてしまった。
俺は、〝ETOILE〟のハル。
社長さんが付けてくれた〝ETOILE〟の意味は、輝ける〝星〟……。
「たしかETOILEはフランス語で星って意味だったろ」
「…………」
同じことを考えてた俺は、やっぱりそういう意味で買ってきてくれたんだと知って目頭が熱くなった。
木箱からなかなか取り出せずにいた俺の肩を、マグカップ片手に聖南がグッと抱いてくる。
「ちなみにこれは、全面インカローズ。パワーストーンなんだって」
「パワーストーン……?」
「うん。バラ色の人生を象徴する石なんだと。色にも理由があって、この濃いピンク色ってのはポジティブカラーらしいよ。持ってるだけで元気になる……ってまぁ、スピリチュアルの域を出ねぇからまんま信じることはないんだけど。良い結果に導くかもしれないお守りと思って、受け取ってよ」
ポジティブカラー……。持ってるだけで元気に……。
卑屈ネガティブ野郎な俺にこそ相応しい〝お守り〟だ……。
「ん、やっぱピンクはイヤだった?」
「…………」
心配そうに俺の顔を覗き込んできた聖南に、俺は小さく首を振る。
……違う。イヤだなんて、そんなこと思ってない。
だって、全面に散りばめられたインカローズっていうパワーストーンはバラ色の人生を象徴するんでしょ?
ネガティブな俺が少しでもポジティブな考えが出来るように、お守りとしていつでも持ち運べる物を聖南が選んでくれたんでしょ?
CM(大きな仕事)が決まってもなかなか実感が湧かなくて平然としていた俺の心を、聖南は見透かした。
いつもそうだ。
聖南はいつも……俺のことを最優先に考えてる。
「そうだよな、ごめんな? イメージで選んだって言うと誤解生んじまいそうだけど、世間一般じゃ男が持つ色じゃねぇもんな」
「……違います……違うんです……」
「でも葉璃ちゃん微妙なツラして……」
「違うんですっ! 俺……嬉しくて……」
黙ってプルプル震えてたら、聖南に誤解されてしまった。
中身が半分くらい入ったマグカップを左手に持ち替えた聖南に、俺はしがみつく。
こんなに意味のある物を贈っておいて、どうして謝るの。
聖南は優しすぎる。誰に対してもそうだけど、特に俺には気を使いすぎる。
でも、そんなところも好き。
しがみついたそばからすぐに頭をなでなでしてくれるところも、……大好き。
「葉璃……?」
「……嬉しいんです。聖南さんが俺のためにこの二つを選んでくれたんでしょ? 仕事の合間に、どこかに立ち寄って。俺に買って帰ってあげよーって、思ってくれたってこと……だから……」
ありがとうございますって言葉だけじゃ伝え足りなくて、捻り出そうとしたのがこれだ。
胸がいっぱいで、ロクなことが言えない。
言ってるうちにもっと目が潤んできて、開いたままの木箱を抱きしめて俯いた。
嬉しい……。ほんとに嬉しい。
お守りだけ渡すのは照れちゃうから、お饅頭でちょっと緩和させようとしたんじゃないのかなって……そこまで読んでしまうと、もっと聖南の気持ちが愛おしくなった。
この二つは、聖南の優しい思いが詰まった最高のお土産だ。
「いや……マジか。そんな喜んでくれるとは思わなかった」
「嬉しいです……。大事にします。お饅頭は食べちゃうんで残らないですけど、このキーホルダーは……」
「うん?」
「あっ、いえ。何でもないです。大事にしますってことが言いたかったんですけど、言葉が出てこなくて……」
「おいで、葉璃」
そばの簡易デスクの上にマグカップを置いた聖南が、お土産二つをひっしと抱いた俺を優しく抱きしめてくれた。
「やっぱ俺、葉璃のこと好きだなぁ」
そしてしみじみとこんなことを言われた俺は、潤んだ目元からこぼれ落ちそうだった涙が引っ込んじゃうほど盛大に照れた。
「な、なっ、なんですか急に……!」
「お土産貰って嬉しいって素直に言ってくれるとこもそうなんだけど、俺が葉璃のために選んだってことをちゃんと汲み取ってくれるとこが好き」
「…………」
「開けてすぐ饅頭頬張ったとこなんか、かわいくて好きすぎて言葉失ったよ。もうテッペン超えてんだぜ? 普通もっと気にするじゃん、食おうかどうしようかって」
「そ、それは……っ! 美味しそうだったし甘いもの食べたかったし……!」
たしかに聖南の言う通りだ。
人前に出るアイドルたるもの、体型には気を遣わないといけないのに……俺ってば開けてすぐにお饅頭を頬張ってしまった。星形のキーホルダーにうるうるしてなかったら、何ならもう一つ食べちゃおうとしてたところだ。
聖南は、「葉璃が風船みたいになっても愛してやる」なんて冗談を言ってたけど、こんなに考えなしに食べてたらいつかほんとにそうなっちゃうかもしれない。
…………気を付けよう……。
「俺、葉璃のこと毎日好きになってる。毎日好きが更新されてんの」
「うっ……?」
いそいそとお饅頭が入ってた箱のフタを閉めて、〝残りは明日〟とこっそり自分に言い聞かせた俺を、聖南がもう一度抱きしめてくる。
「マジでずっと、葉璃のことばっか考えてる。出会った頃より重症なんだ。葉璃の顔思い浮かべて、早く会いたい、触りたい、匂い嗅ぎたいって常に思ってる。大袈裟じゃねぇ。〝常に〟だ」
「うぅっ……!?」
「……なに、なんで唸ってんの」
分かった……っ、分かったよ聖南……!
愛情過多な聖南の思いは毎日受け取ってるけど、いざ言葉にされるとさっきより胸が苦しくなる。
俺のことを素直だって言う聖南も、充分過ぎるくらい真っ直ぐな人だ。
こんなに愛されて、俺はどうしたらいいの。
息ができないくらいの甘い愛情と想いを受け取った俺は、そりゃあ……唸りたくもなるよ。
俺の恋人が、何から何までかっこいいんだもん……!
「聖南さんが、かっこいい顔でかっこいい事ばっか言うからですよっ」
「照れてキレるところも好きだよ」
「〜〜っっ! 聖南さんっ!!」
追い討ちなんてひどい……もっと胸が苦しくなった!
揶揄ってるように見えて、ぜんぶ聖南の本心だって知ってるから余計に照れちゃうんだよ……っ。
「かわいーな、葉璃ちゃん」
「〜〜〜〜っっ!」
俺をぎゅっと抱きしめて離さない聖南は、今日は甘えん坊じゃなくて、甘やかしたい日みたいだ。
どうしよう……今夜はとことん、グズグズに甘やかされちゃうの決定なんだけど……。そうなるとほぼ確実に、……食べられちゃうんだけど……。
あ……お尻洗ってて良かった……。
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