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テッペン間近にやっと帰ってきた聖南と、ひとしきり玄関でイチャイチャした。俺のお尻に尻尾が生えてたら、ものすごい勢いでブンブン振ってたくらい聖南が帰ってきたことが嬉しくて。
別々の帰宅はそこまで珍しいことじゃないのに、待ってる間はどうしても寂しくて、録り溜めてある聖南が出演してる番組を観て過ごす。
そんなことしてたらもっと会いたくなるんだけど、何にも映してない無音の部屋で待ってるよりかは寂しくならない。
どうして俺がこんなに聖南を恋しかったかっていうと、三人でのご飯代をいつの間にか聖南が払ってくれてたからだ。
聖南には、恭也とルイさんの三人でご飯に行く事と、お店の名前だけをメッセージで伝えておいた。俺のスケジュールを完璧に把握してる聖南は、仕事の合間を縫って〝メシは食ったか〟って過保護なメッセージを送ってくるから、心配いらないよって意味で俺は先手を打ったんだ。
それなのに、いざ会計しようって時にいきなり店長さんが個室までやって来たのはビックリした。
「こちらのお席のお代はセナさんから頂くので、結構です」……だって。
その場で俺は、迷惑を承知で聖南に確認を取った。すぐに折り返しがあって、店長さんの言ってることがほんとだって分かったからお店をあとにしたんだけど……。
やる事がスマートすぎて、ここまで送ってくれたルイさんも「セナさんかっけぇ」と呟いてたもんな。(ちなみに恭也もルイさんに送ってもらったんだよ! 仲良しだよね!)
「あっ、聖南さん、聖南さん。二人が「ごちそうさまです」って。俺も、ごちそうさまでした」
シャワーを浴びてた聖南が、金色の髪を乾かしてからリビングに来た。コーヒーの準備をしてた俺はキッチンに居て、すぐに二人からの伝言を伝える。
「あぁ、いいよいいよ。葉璃が一人なの知って晩メシ付き合ってくれたんだろ。俺が出すに決まってんじゃん」
準備中の俺の手元を見て「サンキュ」と笑うところも、後輩へのスマートな気遣いも、こんな何気ないことみたいに言うから聖南は慕われるんだろうな。
マグカップに注がれたお湯が、たちまち聖南お気に入りのコーヒーに変わっていく。ミルクも砂糖も入れない聖南のコーヒーは苦くて飲めないから、俺は匂いだけ堪能させてもらった。
「あの……、聖南さん。どうやってお店にお支払いしたんですか? 遠隔操作……?」
立ったままその場でマグカップに口をつけた聖南に、俺は素朴な疑問を投げる。
かっこいい人はどんな髪型、髪色にしても似合うんだなぁなんて思っていると、聖南が目元を細めてプフッと吹き出した。
「あはは……っ、何をどうやって遠隔操作するんだよ。俺が店長と話して、ツケといてって言っただけ」
「しゃぶしゃぶ屋さんでツケとか出来るんですか……!」
「俺も知ってる店だったから融通きかせてくれたんだろ。葉璃ちゃん、腹いっぱい食ったか?」
「はい、それはもう! お腹いっぱいです!」
「そっかそっか」
何せ恭也とルイさんが代わる代わる俺の世話を焼いてくれて、結局あの後一度も〝注文する端末〟を持たせてもらえないままだった。
まるで聖南がそこに居るみたいに、俺の器が空にならないように二人が気を配ってくれてて申し訳なかった。
俺の世話ばかりして、二人はちゃんと食べられたのか心配だ。
それに今隣に居る聖南も〝コーヒーが主食だ〟とか言いかねない人だから、出来るだけ晩ごはんは一緒に食べたいんだよね。
「聖南さんは? ちゃんとごはん食べましたか?」
「あぁ、ロケ中に食ったよ」
「ロケ中に?」
「そ。今日グルメロケだったからさ。その地域でうまいもんを紹介してもらって、店から店をハシゴすんの。最後の方なんか腹いっぱいで苦しかった。葉璃が居てくれたらなーって何回思ったか」
何そのロケ……! 楽しくて美味しそう……!
聖南が満腹なのを隠して「うまいっすねー!」と微笑んでるところが目に浮かんで、ほっこりした気持ちになった。
人より少し多く食べる俺なら、きっとそういうロケの時だけは聖南の力になれると思う。
仕事中に俺のことを思い出してくれたのも嬉しくて、ついついニヤニヤしてしまった。
「ふふっ、聖南さん大きいのに意外と少食ですもんね」
「俺は普通なんだって。葉璃がめちゃめちゃ食うから……って、思い出した。お土産あるんだよ、葉璃に」
「え!? お土産!! なんですか! 嬉しい!」
「あはは……っ、喜んでんの。かわいー」
マグカップ片手に「おいで」と言われた俺は、ルンルンと聖南の後ろをついて行く。
さっきコートと鞄を置きに向かった衣装部屋に入ると、ここは聖南の香水の匂いが強いから仕事に行かなきゃって気になってくる。
「……ほら。これと、これ」
いつも手ぶらの聖南が持ってくなんて珍しいと思った鞄には、ノートパソコンと一緒に俺へのお土産が入っていた。
取り出したのは、四角い大小の箱が二つ。どっちのパッケージにも、今日聖南がロケに行った地名が書かれていた。
「わ、ありがとうございます! 何だろう。開けていいですか?」
「いいよー」
「やった! ありがとうございますっ」
いろんな所に飛び回ることの多い聖南だけど、お土産なんて初めてだ。だから少しビックリした。
はしゃいでしまうのはしょうがない。
だって……嬉しいんだもん。
ニヤついたまま、俺はまずちょっと重くて大きい方の包み紙を開いた。
予想が正しければ、これは……俺のお腹が活発になりそうなもの……。
「あっ、お饅頭だー!! 重さ的にそうじゃないかなって思ってたんですよー! さっきデザート食べるの忘れちゃってたんで、甘いもの欲してたところなんです! 嬉しいなぁ……。わぁ! 美味しそう!」
「……で、さっそく食うのな」
その土地で有名なお菓子なのか、ころんと丸い茶色いお饅頭を見たらもう我慢出来なかった。
「えへへっ、聖南さんありがとうございまふっ」
ニコッと笑う聖南に笑い返す俺の口の中には、すでに白餡のお饅頭が半分入っていた。
ん〜〜っ!
聖南の笑顔も、お土産のお饅頭も、どっちも嬉しくて美味しい〜〜っ!
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