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43♣6 CM撮影〜前日〜
♣ ルイ ♣
CROWNの面々は、たとえ三人揃てなくても個々のオーラがハンパやない。
サングラスをかけてカッコよく登場したアキラさんが、「お疲れー」と言いながらスタジオに入って来た瞬間、イイ匂いが充満して惚れてまうかと思たわ。
一人でもドーム埋められそうな勢いで人気者やと、こないにオーラが違うんか。
「お疲れっす!」
「お疲れ様、です」
おまけに、後輩の俺らに向かってサングラスを外しながらニッと笑うなんていうサービス精神まで持ち合わせてる。
俺はアキラさんとサシで話したことはないが、セナさんに引き続き俺調べによる〝男が惚れる男〟やと確信した。
「あれ、ハルは?」
「葉璃は、少し遅れて、来ます。撮影スタジオが、遠かったみたいで」
「あぁ、そうなんだ。……で、話ってなんだ? 林がすぐこっちに寄れって言うから来たんだが」
なんや用事があって事務所に寄ったらしいアキラさんは、林さんの連絡を受けて真っ先にここに来たはいいが、肝心の電話の主がおらんことに首を傾げておられる。
林さんが来るまでのつなぎに、飲み物でも用意したろかと動いた俺の耳に、スタジオの外からパタパタと駆ける足音が聞こえた。
来たか、と入り口に注目すると、恭也もアキラさんも同じ方向を向いとった。
「……っ、お疲れ様です、アキラさん! わざわざ足を運んでもらってすみません!」
「いや、こっちに顔出すつもりでいたから大丈夫。CMの撮影、明日だったよな? 前日だしハルの顔見ときたかったからちょうどいい」
「あ、あぁ……そうでしたか」
そんな何でもないことみたいに言うてるけど、アキラさん自分がハルポンに激甘やって気付いてるんかな。
セナさんもケイタさんもそうやけど、スケジュール動かしてまでハルポンの激励に駆け付けようやなんて、ほんまは正気の沙汰やないねんで。
ハルポンいわく〝優しいお兄さん達〟って、そないに簡単に一括りにはしたらあかんくらいや。
「あのですね、明日のことでアキラさんの耳に入れておきたい話がありまして。明日、満島あやさんが現場に来られるそうなんです」
早速切り出した林さんに、アキラさんが「は?」と食い気味に一声上げた。
「満島あや? ……って、今コンクレのCMやってるあの満島あや?」
「そうです。理由は分からないんですが、〝見学〟したいそうで……」
「見学って。そりゃどう考えても牽制だろ」
「ですよねー!? 誰が聞いてもそう思いますよね! アキラさん話早いわぁ」
まさしく言おうか言うまいか渋ってたことを、アキラさんがスパッと言ってくれて嬉しなった。
「あぁ」と頷いたアキラさんは男前や。
いやいっつも男前やけど、いざって時にズバリ言うてくれる人がその場におるだけで、話がスムーズに進む。
俺も恭也も、まさにそう思てたけどハッキリ言わんと濁してたもんな。お互いどう思てんのか探り合うみたいにして。
「それ、ハルは知ってんの?」
「いえ……まだです。セナさんとは連絡がつかないんで、アキラさんに助言を頂こうかと……」
「ハルに伝えるべきかどうか、ってこと? 俺が決めんの?」
「できれば……! もうハルくん、来ちゃうんで……」
「んー……」
おぉ、男前が腕を組んで悩んでらっしゃる。
そうよなぁ。ハルポンの性格知ってたら悩むんも当然よなぁ。
どっちにしてもハルポンにはストレスでしかないって分かってるからなぁ。
セナさんにも臆さずものが言えるアキラさんなら、あらゆる場合を想定しつつの助言てやつをくれるやろう。
導き出すんは五分後か、十分後か── 。
「話しとくべきだろ」
「えっ」
「えっ」
林さんと恭也が、アキラさんの即答に唖然とした。ついでに言うと俺もビックリした。
腕を組んで男前に悩み出して一分と経ってへん。
三人揃って〝どうする〟会議を開こうとしてたんに、あまりのスピード決定に俺は興味津々になった。
「アキラさん、すんません。ぶっちゃけ俺もその方がいいと思うんすけど、今から伝えて今日からビビらすのと、明日行ってビビらすのやったら、どっちがハルポンの精神的負担を減らせるかいうたら後者やと思いません? ぐるぐるモンスターになる時間が少なくて済むやないですか」
「あぁ、まぁな。確かに今日伝えちまったら、ハルは今夜眠れないくらいビビるだろうな。明日行きたくねぇってセナに弱音吐くかもしんねぇ」
「……はい。俺も、そう思ったんで、迷ってたんです。でもアキラさんは、即答だった……。それは、どうしてですか?」
ハルポンの親友の座に君臨してる恭也でも考えあぐねてたことを、アキラさんはたった三十秒床を睨んでただけでズバッと言い切った。
セナさんの次にハルポンラブな恭也のことや。
俺と一緒で、どっちに転んでもハルポンをドギマギさせてまうからめちゃめちゃ悩んでたんやろ。
何しろ撮影は明日で、もう間もなくハルポン着。
ウダウダ考えてる時間なんか無い。
「どうしてって、知ってて伝えない方が明日のハルにダメージあるだろ。今日伝えとけば、少なくともセナがハルのメンタルケアをしてくれる。その辺のフォローはセナに任せてりゃいい」
「あぁ……」
「なるほど……」
「そういう事、ですか……」
アキラさんに選択を託した俺たち三人は、ぐうの音も出らん回答によって満場一致で納得した。
この事を知ったセナさんが言いそうなことやと思った。
ぐるぐるモンスターになったハルポンを宥められんのは、セナさんだけ。年齢イコール芸歴で培ったナイスなフォローも期待できる。
俺たちはハルポンのことばっかしか頭に無かったが、アキラさんにはちゃんとその隣におるセナさんまで想像出来てたっちゅーことや。
はぁ、CROWNの三人はこれやからエモいねんな。
「それに、明日は恭也とルイが撮影序盤から立ち会うって聞いてるけど?」
「はい、行きます」
「そりゃもちろん! ハルポンの大仕事なんで!」
「だよな。それに俺も、ケイタも、セナも、時間差にはなるが夕方までには全員揃うことになる。林も成田さんも事務所スタッフも同行する。夕方以降には社長まで来るっつってたからな。ま、問題無えだろ」
牽制とかいう穏やかでない言葉を使てたアキラさん。
満島あや、もしくは事務所内部から不満が出て、ド新人のハルポンに無言の圧力かけようとしてるんやろうがそんなもん無駄やと、男前はニヤリと笑った。
「どれだけ束になってかかって来ようが、俺たちが揃えば誰が相手でも敵じゃねぇよ」
キャー! なんですかその自信に満ち溢れたセリフは!
カッッッコイイ〜〜!!
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