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 恭也は家の用事があるからってことで帰っちゃったんだから、通話に出てくれるとは限らない。 「出るか分かりませんよ?」 「ええから」  ルイさんの剣幕に圧された俺は、急いでスマホを取り出した。 「ハルポンが着信残してたら、恭也やったら何がなんでもかけ直してくるやろ」  ……そうかもしれないけど。  でもルイさんがこんなに言うなんて珍しい。  俺の判断ってそんなにおかしなことなのかな。ルイさんが言ってることも分かるんだけど、俺だって考えナシに聖南に黙っとこうとしたわけじゃない。  どっちが正しいのか、恭也ならジャッジしてくれるはず……そんな期待を込めて、通話をかけてみた。 『はーい』 「あっ、恭也? 恭也っ?」 『うん。ふふっ……俺だよ。どうしたの?』 「お、お疲れさま! ごめんね、こんな時間に! 迷惑だったよね! えっと、……っ」  電話での恭也の声は、普段よりもっとおっとりして聴こえる。  まだ九時前だけど、家の用事とやらで疲れちゃってるんじゃないかと、俺は空いた左手を意味もなくブンブン振った。 『ルイさんと、ご飯に行ったんじゃ、ないの?』 「行ったよ! パスタ食べた! まだ一緒に居るよ!」 『……そう。パスタ、美味しかった?』 「うん! 俺はカルボナーラで、ルイさんはペペロンチーノを食べたんだけど、そのペペロンチーノにイカが入っててね! それで……」 「ちょっ……ハルポン、自分でハルポンワールドに入ってもうてどうすんの」 「あっ! そうだった、ご飯の話はどうでもよくて!」 『俺は全然、どうでもよくないけどね。今も二人で、居るんでしょ? 二人で……』 「うっ……!」  恭也の声のトーンが下がった。  帰る間際まで「一緒に行きたかった」としょんぼりしてた恭也に、俺はなんて無神経なことを……っ。  ごめんね、と即座に謝ろうとした俺の手から、ルイさんがヒョイとスマホを奪う。 「まぁそう拗ねんなや、恭也。メシの最中ハルポンはずっと「恭也も一緒に来たかった」て言うてたんやで。な、ハルポン」 「うん……それはそう。恭也居なくて残念だった」 『え……そうなの? それ本当?』 「少しは機嫌治ったやろ」 『はい。もうすっかり』  わぁ、ルイさんが恭也の機嫌を一瞬で治してくれた……!  料理の感想じゃなくて、俺もそう素直に言えば良かったのか……!  俺が謝るだけじゃ、恭也の気持ちは晴れないもんな。さすが、恭也と仲良しのルイさんだ。俺以外の人が恭也のことを分かってくれてるのが、こんなにも嬉しい。  現金やな、と笑うルイさんが、スマホを返してくる。このまま三人で話してたくて、俺はスピーカーに切り替えた。 『それで、葉璃? 俺に何か、話があったんじゃないの?』  大きくなった恭也の声に、「あ、そうだった!」と俺は太ももをペチンと叩いた。 「あっ、あのね、いきなりなんだけど……ルイさんとご飯に行く前、社長室でレイチェルさんに、……会った」 『えっ? レイチェルさんって……』 「しかも、どうしてなのか分かんないけど、俺と聖南さんの関係を知ってるっぽくて……」 『えぇっ?』 「しかもしかも、聖南さんのマンションを特定されてるみたいなんだ」 『えぇぇっ!?』 「でも、そのことは聖南さんには黙ってようと思うんだ。だって聖南さんがキレちゃったら、レイチェルさんのデビューが……」 『えぇぇぇっっ!? だ、ダメだよ!! 今日葉璃が、レイチェルさんに会ったことを、黙ってるって、ことでしょっ? それはよくないよ! 言わなきゃダメ!』  おっとり口調が持ち味の恭也が、『何言ってるの!』とかなり早口で捲し立てた。  え……恭也も、ルイさんと同じ剣幕……。  俺は、スマホ片手に固まった。  じわ……とルイさんを見ると、倒したシートを元の位置に戻しながら俺にしたり顔を向けてくる。 「な? 言うたやろ」 「……はい……」  頷くしかない。  ルイさんの意見を聞きたくないわけじゃなかったんだけど、俺には俺なりの理由があったから黙ってようとした。  あの場に居た俺と、ルイさんと、社長秘書の神崎さんが黙ってれば、聖南の耳に入ることもないだろうって。レイチェルさんがわざわざ自分からそんなことを聖南に言うとは思えないし。  せめて、リテイク作業が終わったレイチェルさんのデビュー曲が完璧に仕上がるまでは、波風立てたくなかったんだ。 『葉璃の気持ちも、分かるよ? この事を、セナさんが知ったら、レイチェルさんのデビュー自体が、危うくなるかもしれないって、そう思ったんでしょ?』 「うん……」  腕を組んで恭也の声に耳を傾けてるルイさんも、うんうんと頷いてる。  そっか……ルイさんも頭ごなしに「話せ」って怒ってたわけじゃなかったのか……。  二人ともから同じように指摘されてしまった俺は、〝後から知らせる〟ことでもっと事態が悪くなる可能性を考えざるを得なくなった。  聖南がカンカンのプンプンにならないように、うまく話さないと。  どう言えばいいかな……と頭を悩ませる俺をよそに、ルイさんと恭也が仲良く会話を始めた。 「俺もその場におったんやけどな、ハルポン見事に牽制されてたで」 『牽制!? どんな!?』 「ハルポンに面と向かって、「セナさんの相手は女性じゃないと感じとる」言うてたかな」 『……それ、もう絶対、葉璃とセナさんのこと、知ってるじゃないですか』 「せやろ。ハルポンが言い返しててスカッとしたわ。「どんな情報を根拠にそんなこと言うんですかー! このヤロー!」ってな」 「そ、そんな……っ! 俺は「このヤロー」なんて言ってないですよっ」 『すごい……葉璃、言い返したの? レイチェルさんに?』 「う、うん……。でもホントに「このヤロー」は言ってないよっ?」  話を盛ったルイさんのセリフは聞き捨てならなかった。  そんな言葉、人生で一度も使ったことがないのにっ。とルイさんを睨むと、スマホから『分かってるよ』と恭也の笑い声がして和んだ。 『でもね、葉璃、真面目な話。よく考えてみて? レイチェルさんが、どうして葉璃たちの関係を、知ってるのか。しかも、お家まで。すごく気味が悪いよ。セナさんが何度も、ツーショット撮られてたの、レイチェルさんの差し金なんじゃないかって、疑っちゃう』 「えっ!?」

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