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 こういう時だけニヤつかないのはずるい。  聖南に会えなくてショボくれてるのをすぐそばで見てたルイさんは、俺が〝親指さん〟からの連絡一つで一喜一憂することを知ってるんだ。  俺の様子がおかしくなる原因は、それしか考えられないってくらいに。 「ハルポンがそないなるってことは、そうなんやな? 仕事中にくるて珍しいなぁ」 「え、あっ、……えっ? な、なな、何で聖南さんから連絡きたって決めつけてるんですか? 違いますよ? 違うって言ってるじゃないですかぁ。やだな、もう! ハハッ、ハハハハッ!」  俺は、その場で足をジタジタ動かした。  自分でも下手くそだって自覚のある愛想笑いも浮かべていた。  明らかに動揺しながら、それでも大事なところは小声にしつつうまく乗り切ろうとする不自然極まりない俺を、ルイさんがジーッと見てくる。  ペットボトルの飲み口に下唇を触れさせたまま、顔中の筋肉を引き攣らせてる俺に何か言いたそうな顔で、ジーーッと。 「…………」 「なっ、なんですかっ?」  絶対バレちゃうのに、なんで俺は誤魔化したりしたんだろ。  ルイさんの視線から、『バレバレやで』って呆れたような声が聞こえてくるような気がした。……と思ったら、それは現実だった。 「いや……相変わらずハルポンはウソつかれへん人間やなぁと」 「…………っ」  頭の中で聞こえた声でしみじみとそう言われて、必死で誤魔化そうとした自分が何だかめちゃくちゃ恥ずかしくなった。  ルイさん相手に隠すようなことでもないんだけど、浮かれてると思われたくなかったんだからしょうがない。  だって、本物の聖南に会えるんだよ?  大口叩いちゃった手前、たった十日ちょっと離れてただけで情けないかもしれないけど嬉しいものは嬉しいんだもん。 「……プフッ!」 「…………っっ」  しまった……。  俺はまた、口達者なルイさんの手に引っ掛かったらしい。  楽屋内を怪しくウロついてるところを見られて、問い詰められたら顔を真っ赤にして、おまけに下手くそな笑顔で誤魔化そうとして、視線に堪えられなくなったら思いっきり狼狽えて……。  聖南にもよく揶揄われる俺の百面相を、ルイさんは冷静に観察していた。  こらえきれずに吹き出しちゃうくらいには、そんな俺の言動はルイさんのツボに入ったみたいだ。 「揶揄ったりせえへんから言うてみ? 動揺してオバケみたいにウロつきだすぐらい甘ったるい会話したんなら、吐き出したくてしゃあないやろ?」 「それは……っ」 「幸せのお裾分け、してほしいなー」 「し、幸せのお裾分け……ですかっ?」  それはつまり……惚気けてくれってこと!?  そもそも幸せなんて、お裾分けできるのっ?  ていうかルイさん、よく見たら必死で笑いをこらえてる。  吹き出したのを無かったことにしてる。  ワンちゃん顔を引き立たせてる垂れ目が、面白そうに細まってる。  つまりこの表情は、絶対に揶揄う気満々だ……!  聖南に会えなくてショボくれてる俺に、平気で「遠距離恋愛楽しんでるか?」だなんてニヤニヤしながら聞いてくる人だもんねっ? 「なぁなぁ、どんな会話したん? 俺がトイレ言って戻って来たん、ほんの三分くらいのことやろ? カップラーメン作るんと変わらん三分の間にいったい何があったんよ? 聞かせてぇなぁ」 「…………っ!」  がんばって無表情を装ってるルイさんは、恋バナ好きな女の子みたいに「なぁなぁ」としつこく俺に迫ってきた。  絶対絶対、〝幸せのお裾分け〟してほしいわけじゃないって分かってるし、話したところで「熱々やな!」とか何とか言って揶揄ってくるに決まってるんだ。  その時、俺はどんな顔してたらいいの?  それにまだ撮影が残ってるのに、メイクでは隠しきれないくらいのゆでダコ状態でスタジオに入らなきゃいけなくなるよね?  真っ赤な顔でカメラの前に立ったら、今度はスタッフさんから心配されちゃうかもしれないし……。  誤魔化すことも咄嗟のウソも苦手な俺は、ゆでダコになった経緯をどう説明したらいいの……? 「おーい、ハルポーン。ぐるぐる悩んでるヒマあったら言うてもうた方が楽になんでぇ」 「な、悩んでるわけじゃ……っ」  そんなこと言われたって、盛大に揶揄われるのが分かってて惚気けられるほど俺の心臓は強くない。  だけどもう、誤魔化しもきかない。  うぅ……観念してゆでダコになるか、往生際悪く逃げるか……。  俺はルイさんと睨み合いつつ、口をへの字に曲げて淡いクリーム色のセーターの袖を掴んだ。 「……ま、大体予想はつくけどな」 「え?」  するといきなりニッと笑われて、目が点になる。  予想がついてるならしつこく問い詰めたりしないでよ、と一瞬だけカチンとした。 「ハルポンがおかしなるほどの事やろ。大方、今夜会う約束したとかそんなんやない?」 「うっ……」 「もう何日会うてへん言うてたっけ。ハルポンも限界やろが、向こうも相当やろしな。二人のためにも、そろそろ密会した方がええんちゃうかってアドバイスしようとしてたとこやで」 「み、み密会って……!」 「遠距離恋愛楽しむのもええけど、体に悪いやろ。てか俺には耐えられへんもん。恋人に三日以上触られんなんて」 「さ、さ触られ……っ」

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