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 ルイさんらしいストレートな言い草に、違う意味で顔が熱くなってきた。  少なくとも俺は、下手くそながらも誤魔化そうとしてたじゃん。  それなのに、なんでそこまで分かるの?  俺そんなに分かりやすい? 「……なんでそこまで分かるんですか……?」  気付いたら、思ったことをそのまま口に出してしまっていた。  揶揄われるのがイヤで言い渋ってたことをまるっと当てられたばかりか、二人のためにも密会した方がいいだの、何日も恋人に触れないのはムリだの言われると、まるでルイさんが聖南の言葉を代弁してるように思えてならなくて。  俺は正直、触れないのがイヤだとか、ムラムラを発散できないのがツラいとか、そんな風には思ってなかった。  テレビの向こう側でいつもの〝セナ〟を見かけるたびに『会いたいなぁ』が募るばっかりで、ホントに下心みたいなものはなかったんだ。  でも聖南はもしかしたら……そうなのかもしれない。  俺の体のことを考えて〝二日に一回〟、〝三日に一回〟、なんて聖南なりに決め事を作ってくれて、慣れない我慢をがんばってたくらいだ。  それが不本意な遠距離恋愛になっちゃったら、俺よりも色んな意味で限界がきちゃうのも分かる気がする。 「なんで分かるんですかってなぁ……」  自然と口に出た俺の言葉に、ルイさんが揶揄いまじりでも何でもない本気の苦笑を浮かべた。 「そんなん俺ならムリやって話。二人が決めたことやしそれについてとやかく言うつもりはないんやけど、健全な青少年の体に悪いのは確かやろ」 「か、体に……」 「実際、ハルポンだんだんショボンとしてきてるし。やったら向こうもそうなんちゃうの。平気なフリも、体に悪い」 「…………」  たしかにそうだ。  聖南からの『会いたい』に飛びついてしまうほど、俺は気持ちが抑えきれなくなってる。  『会いたい』と伝えてきた聖南もたぶん、我慢の限界だったんだ。  俺たちは二人とも、このプチ遠距離恋愛に納得してないわけじゃない。  聖南の密着取材とレイチェルさんの事、マスコミが躍起になって探してる〝セナ〟の恋人の事……。  呑気に同棲を楽しんでられない出来事がいくつも重なったから、お互いのためにも離れてなきゃいけないって……今はしょうがないって……前向きに捉えてた。  だけど俺たちは、離れることばっかりに気を取られて、息抜きする機会を作ることを忘れてしまっていた。  それはつまり……ルイさん風に言うと「密会」になるんだろうな。  どんなに忙しくても、どんなに周りがうるさくても、どんなに疲れていても、ほんのちょっとでいいから二人だけの時間が欲しいって、俺から言ってあげなきゃいけなかった。  このプチ遠距離恋愛は、俺が頷いたことによって決まったことなんだから。 「なんちゅーか、難儀やなぁ。二人とも人気者やと」 「…………」  そう言って苦笑を濃くしたルイさんは、可能な限り俺の仕事に付き添ってくれている。  俺だけじゃなく、恭也ひとりの仕事の時だってそうだ。  時間が許す限り俺たちと居たいルイさんは、ETOILEの新しい仲間になるからって理由でそうしてるんじゃない。  俺と恭也のことが好きで、少しでも二人との距離を縮めたいからだって何とも明け透けに打ち明けられた。  そんなルイさんが、日ごと凹んでく俺の表情や雰囲気に気付かないわけなかったんだよね。  たった三分メッセージのやり取りをしただけで舞い上がった俺の変化は、ルイさんにとってはバレバレで当たり前で、そりゃあもう可笑しかったはずだ。 「深くは探らんといたるわ。それ以上顔面赤うしてたら爆発しかねんし」 「ばっ、爆発なんてしませんよ!」 「そう言うなら鏡見てみ」 「えっ?」  ルイさんの視線がふと右を見たのにつられて、俺は何気なく鏡の方を向いた。  ……うわ、なんて顔してるの……。  鏡に映った俺の顔は、想像よりもはるかにリンゴになっていた。  聖南の『会いたい』に不純な動機が込められてたかもしれないと気付かされて、ポポッと顔が熱くなった自覚はあった。  でもここまでとは思わなかった。  スタッフさんへの言い訳を直ちに考えなきゃいけないくらい、まっかっか。  ただでさえ自分の顔を長時間見てられないのに、すぐさま目を逸らして下を向いた俺の動きはいつになく俊敏だった。 「…………っ」  それもこれも、聖南とルイさんのせいだ。  いや……ルイさんは悪くない。  あんなキュンっとするメッセージをいきなり送ってきた聖南が、ぜんぶ悪い。 「……だって……嬉しかったんですもん……」 「ん?」  春らしい真っ白のスニーカーを見つめて、俺はセーターの裾をぎゅっと掴んで呟いた。  まったくの無意識だった。 「好きな人から「会いたい」、なんて言われたら……嬉しいじゃないですか……」 「…………」 「そりゃあ……舞い上がっちゃいますよ……」  廊下の向こうはとても騒がしかった。  だからルイさんは、俺の無意識下での発言を前のめりになって聞く羽目になっていた。  俺が下を向いてブツブツ言い始めたら、大抵よくないネガティブ発言してるから。  ルイさんはきっと、揶揄いすぎたかもって心配になったんだと思う。  ところが今の俺の〝ブツブツ〟は、完全に── 。 「……ん。今度は俺の顔を爆発させる気か」 「え……っ?」 「こっ恥ずかしいヤツやな。幸せのお裾分けどころか、俺が揶揄った以上に仕返ししてきやがるとは」 「し、仕返しだなんてそんな……!」 「惚気、ごちそうさん」 「──っっ!」  挑発的な声に慌てて顔を上げると、ニヤッと笑ったルイさんから小鼻をキュッと摘まれてしまった。  スタッフさんが現場を整え終わるまで、あとどれくらいなのか分からない。  こんなことをこんなところで話してちゃいけないのに、俺はまんまとルイさんの口車に乗せられてしまった。  ていうか俺、いつ惚気たの……?  ……無意識ってこわい。

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