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 抱き寄せられるように聖南の肩にもたれかかって数分。  ドキドキするのにウトウトしちゃうくらいゆったりとした沈黙の時を切ったのは、聖南だった。 「葉璃、立てる?」 「んぇ……っ? は、はい……っ」  おもむろに立ち上がった聖南に手を引かれた俺は、バスルームに連行された。  そこには十歩も歩んだら到着してしまって、「どこに行くんですか」と問う間もなかった。 「え、え、……あの、……入るんですか? 一緒に?」 「そうだけど、まずメイク落とさねぇと」 「あぁ……」  即答されると、途端に体が強張った。  ── そ、そっか……一緒にお風呂、入るんだ……。  洗面台に備え付けてある物たちをゴソゴソと物色中の聖南を見つめて、一人でポッと赤くなる。  今までにも数え切れないくらい、何なら時間が合えば必ずと言っていいほど一緒に入って当たり前だったお風呂。……なのに、とてつもなく緊張してきた。  だってだって、容赦なく服を脱がされて裸を見られるでしょ。  洗いっこは譲らないだろうし、聖南のことだからきっとそれだけじゃ済まないし。  このあと何が待ってるかなんて野暮なことは聞けないし、だとしたら後ろをキレイにしなきゃいけなくて、聖南はそれを当然のようにしたがるに決まってるし。  恥ずかしいですって言っても、絶対にやめてくれないし。  せめて暗くしてほしいとかそういう些細なお願いも、聞く耳持ってくれなくなるし……。  でも、ギラついた瞳で聖南から見下ろされたら俺はたちまちキュンとしてしまう。まるで催眠術でもかけられたみたいに、わけが分かんないうちに言われるがまま、されるがままになって流されちゃうんだ。  これは、いくら聖南が催眠術師だったとしても、俺は悪くないとはとても言えない。  ── わぁ……っ、どうしよう。こんなことなら先にお風呂済ませておけば良かった……! 「お、あったあった。ビジホにしちゃアメニティグッズ豊富だな、ここ」 「あっ、アメ……?」  物色していた中から使いきりのクレンジングオイルを探し当てた聖南が、嬉しそうに俺を振り返ってきた。  やらしい妄想で脳内が埋まりそうだった俺は、まだ聖南の瞳が柔らかいのを確認してから、ぎこちない笑顔で視線をウロウロさせる。 「ここでやっちゃってもいいけど、お湯の方がいいんだよな。葉璃はどっちがいい?」 「えっ!? ここでヤる!?」 「ん? それは葉璃の好きな方でいいけど。お湯の方が落ちがいいって言うじゃん。撮影の時、顔にあったけぇ蒸しタオルあてられる事あるだろ? メイク前だと化粧水が浸透しやすくなって、メイクオフの時だと汚れが落ちやすくなるんだと」 「へ、へぇ……! さすが聖南さん、詳しいですね!」 「詳しいっつーか……」  いつかの音楽番組で、聖南が自分のことを『CROWNの美容番長』だとか言って笑いをとってたのを思い出した。  ここでする、しないの話かと思って一瞬焦っちゃったけど、今もまだ聖南からはやらしい雰囲気を全然感じない。  どっちかというと俺の方が、余計なことばかり考えてる気がする。  俺とは違って、聖南は純粋に俺と〝会いたかった〟だけなのかもしれない。  エッチなことは二の次で、まずは『充電』と言いつつ何気ない時間を過ごすことが、聖南にとっての最優先事項だとしたら……俺が一人で真っ赤になってるのは、別の意味でかなり恥ずかしい。 「あ……あの、聖南さん、さっきの話なんですけど……。仕事でのストレスは感じてないんですか?」 「ん、今?」  手のひらにクレンジングオイルを出して、反対の手の指先でくるくる馴染ませてる聖南がふと顔を上げる。  俺だけがまとってるやらしい雰囲気を断ち切りたいからって、ちょっといきなり過ぎた。 「は、はい。前に、密着取材はストレスだって言ってたような気がして……。てことは、そんなに痩せちゃったのって仕事は関係ないってことですよね……?」 「おい、誰がそこに繋げていいって言ったの」 「だって……」  我ながらちゃんと会話をつなげることが出来て、ホッとした。  しかもこれは、さっき聞きたくても聞けなかった事。  聖南の生気がどんどん枯れていったのは、ほぼ俺のせいだって分かってる。だけど、毎日の電話で『想像以上に密着されてる』って珍しくぼやいてたのも気になった。  タイミングが合ったからという理由で受けた密着の仕事は、聖南とは相性が悪そうだっていうのがずっと気にはなってたんだけど。 「……ゴメン、訂正する。密着の仕事に関しては、ぶっちゃけ死ぬほどストレスだ」 「…………」  聖南を追い込んでしまったのは、やっぱりまるっと俺のせいだったかぁ……と切なくなりかけていたところに、当の本人がこう明言した。  だからって、それには聖南の優しさがたっぷり詰まってると信じて疑わない俺は、三白眼になって見上げた。 「あのな、俺がこんな状態で会いたいっつったから心配かけてんの分かるし、悪いとは思ってんだけど、葉璃ちゃん何か勘違いしてない?」 「……勘違い? してないですよ? 聖南さんは絶対認めないでしょうけど、聖南さんがそうなっちゃったのは一億%俺のせいです」 「違うって言ってんじゃん」 「違いません」 「違うって」 「違いません」 「違うっての! ったく、頑固だなー!」

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