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♡  俺が愛を伝えてしまったら、いよいよ聖南のすべてを縛ってしまうことになる。  早く大人になれ、家族になりたい、と小さな子どもみたいに抱きついてくる聖南に、軽々しく伝えていい言葉じゃない。  と言いつつ、俺は無意識に予防線を張ってるのかもしれない。  聖南の愛を疑ってるわけじゃない。  でも俺には、永遠なんて言葉はまだ遠すぎて。  プロポーズを二度もしてくれてるし、当然ながら聖南はその想いを真剣に伝えてくれた。すぐにでも同じ名字になりたいと言ってる聖南だけど、俺はこれにも消極的だったりして。  これから先、隣にいるのが俺じゃだめだと聖南が気付いたとき、伝えてしまった愛が俺と聖南の心の負担になるんじゃないかって、それがとてつもなく怖い。  大好きだからこそ、誰にもあげたくないという思いが強くなればなるほど、聖南の重荷にはなりたくないと思う。  もう絶対に聖南の元から逃げたりはしないって誓ってるけど、今回の騒動みたいに状況が変わっちゃう事はこの先もあるだろうから。  その時、俺が伝えた〝愛〟で聖南を苦しめてしまうかもしれないことが、俺にとって一番の恐怖なんだ。  どうやら俺のプラトニックラブの見解は間違ってたらしいから、聖南が俺に「そばにいて」って言って甘えてくれるうちは、隣に居させてもらおう。  もしもの時が来てもいいように地に足をつけて、〝その時〟がくるまで俺は全力で、「大好き」を返していこう。  皮肉な話だけど、レイチェルさんとの会話でたくさんハッとさせられた俺は、自分がどれだけ聖南との付き合いで気持ちが浮ついてたか思い知った。  ──なんて、聖南に言ったら超怒るんだろうけど。  まさに爆睡って感じでぐっすり眠ってる聖南を見つめて、俺は冷静に思った。 「うぅ……カッコいい……っ」  冗談抜きでずっと見てられる。  ほんとにほんとに、カッコいいよ……。  眠ってるだけなのにどうしてこんなに絵になるの。  俺の方が先に寝ちゃうことが多いから、聖南の寝顔はすごく貴重だ。しかもあんまり見つめてたら気配で起きちゃう時もあるし、ショートスリーパーの聖南は一度覚醒したら二度寝なんてほとんどしないし。  だから、かれこれ一時間以上も寝顔を見つめてるのに熟睡し続けてるのはとっても珍しい。  俺と離れて以降あんまり眠れなかったみたいだから、今日いろんな意味で回復できたらいいな。 「…………」  さっきも思ったけど、起きてる時はもちろん寝顔までこんなに綺麗でカッコいい人と、どうして俺は……今まで平気な顔してキスとか、そ、それ以上のことを出来たんだろう……。  当たり前になってた、よね……図々しすぎる。  俺みたいなちんちくりんなんかが、聖南のそばにいられるだけでも天変地異かってくらいの出来事かのに。  なんで聖南は……俺のことが好きなんだろう。  元々は女の人が好きで、しかもめちゃくちゃ面食いだったみたいだからなぁ、聖南。  余計に分かんないや。  この、ふと突然降って湧く疑問は、もう何度となく自分の中でぐるぐるさせている。  不思議で仕方ないんだもん。  なんで、なんで、なんで、なんで?  頭の中が〝なんで?〟で支配される。  考えてもしょうがない事だし、いざこれを聖南に打ち明けるとキレ始めちゃうから軽率には言えない。キレると同時に傷付いた顔をする聖南に、そもそももう言うつもりもない。  プチ遠距離恋愛が楽しみだ、なんて、俺はとんでもなく生意気だった。  離れて過ごす時間が長くなると、いざ会って話すだけでもとてつもなく緊張するんだってことも、卑屈さが大発揮されてぐるぐるしちゃうってことも、コロッと忘れてたんだから。 「はぁ、……もう一回お風呂入ろ」  聖南はダブルベッドをほぼ占領している。  今日くらいはゆっくり深く眠ってほしいと、俺はそーっとベッドを下りた。  もう夜中の二時か……。  いつもなら夢の中なんだけど、まだまだ眠れそうにない。お風呂に浸かれば、自然と睡魔が襲ってくるはず。  ぐるぐるしてたってしょうがないもん。  明日には少しだけ復活した聖南がさっきの録音の解説をしてくれるだろうから、それまで俺は何も考えちゃだめ。  落ちる前に聖南から物騒なこと考えるなって言われちゃったしな。 「ほんと、よく寝てる……」  振り返ってまた、今がチャンスとばかりに聖南の寝顔を見つめる。  この綺麗な寝顔だけを見てると、性欲とかまったく無さそうなのにな……。  実際はイメプレ好きだし、最中はドS炸裂だし、唾液の交換しないと拗ねちゃうし、おまけに……何時間シても足りないとか平然と言っちゃうんだよね……。  甘い声で名前を呼んでくれて、とろけそうなくらい「好き」をいっぱいくれて、心のこもった「愛してる」もたくさんくれる。  もらい過ぎなくらい、めいっぱいの愛情を伝えてくれる。 「…………っ」  聖南とのエッチを思い出すと、濃厚なあれこれが鮮明によみがえってきて顔から火が出ちゃいそうだ。  ……俺、欲求不満なのかな。  はだけたバスローブから覗く聖南の肌に、触りたくて仕方なくなってきた。  いや……それだけじゃない。  これだけぐっすり寝てるなら、聖南のアレをちょっとくらい舐めちゃっても起きないかも。それでもし、もし、アレを勃たせることができたら……今日はもう諦めてた本番、しちゃえるかな……?  ……なんて想像ばかり膨らませてたら、頭と体がどんどんエッチな方向に流されていった。  そうなると行動を起こすのは早い。  俺は出来るだけ物音を立てずに、トイレとお風呂で準備をする事にした。デキるかデキないかは置いといて、綺麗にしとくにこしたことはないよね。 「あ、でもローション……」  お風呂場で仕上げてる時はボディーソープでいいけど、ナカを慣らすのはローションじゃないと厳しい。  聖南のアレはほとんど凶器だから、いざという時にちゃんと慣らしとかないと絶対痛いよ。 「あ、そうだっ」  諸々をダッシュで終えて、すごく低俗な「うーん」を何度も零した俺は、バスローブを羽織りながらひらめいた。  そーっとベッドに向かうと、聖南はさっきと変わらない態勢で綺麗に寝てる。  ── うんうん、そのままぐっすり寝ててね、聖南。  足元からゆっくりベッドに上がって、悶々としていた俺は初めて自分から行動を起こした。  少し開いた聖南の足の間にシュタッと陣取って、バスローブをチラっとめくってみる。 「…………っ!」  えっ、待って、聖南パンツ履いてなかったの!?  めくってすぐに目的のモノがあって、俺は自分でそうしておきながら驚きを隠せなかった。  ど、ど、どうしよう……っ。  舐める気満々だったのに、いざ目の前にあるとどうしていいか分からなくなる。  熟睡中だから当然、聖南のモノはギンギンじゃない。雄の目で俺に迫ってくる時、いつもこれは凶器に変わった後だ。  わぁ、触ってみたい……と手を伸ばしかけて、ピタッと止まる。ドキドキうるさい心臓の音が耳のすぐそばで聞こえた気がして、なんとなく辺りを見回した。 「…………」  午前三時。きっと宿泊してる人みんな寝静まった、ホテルの静かな部屋。  俺たちの部屋ももちろん空調の音だけが微かにするだけで、とにかくシーンと静まり返ってる。  ちょっと音を立てたら響いちゃいそうで、いつ聖南が目を覚ますか分からないのに……俺は今まさに、恋人のアソコめがけて手を伸ばしてるなんて……。  い、いや、でもこんなことめったにないし、ていうか初めてだし、約二週間ぶりに会えたの嬉しかったし、期待してなかったと言ったらウソになるし、触ってみたい、舐めちゃいたいってムラムラしたのは、聖南があまりにも綺麗に眠ってるからで……!  ……って、はしたない行動を聖南に責任転嫁してまでヤりたいの、俺……。 「…………」  やりたい。俺だっておとこだもん。  この状況は、聖南が言うところの据え膳ってやつでしょ。  聖南が何時間も爆睡してるなんて普段じゃあり得ないことなんだから、少しくらい……少しくらい……いいよね。 「ん、む……」  ムラムラしたのを聖南のせいにして、勝手な言い訳で無理やり自分を納得させた俺は、あろう事か恋人であるトップアイドル様の寝込みを静かに……襲った。

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