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51♡プランB

─ 葉璃 ─ ♡  俺がどんなにいけない事をして消えて失くなりたいと思っても、みっともなく布団の中に隠れていても、聖南はそんな俺を絶対に揶揄ったりしない。  安心する笑顔で、心と体を丸ごと包み込んでくれる。  優しくてあったかくて、とろけそうなくらい甘い声で、俺が恥ずかしい気持ちを引きずらないようにたくさん話しかけてくれる。  聖南は優しい。ほんとに優しい。  あっさりとムラムラしてたことがバレて、復活した聖南から初めてのことをたくさん経験させられた気がする。  それでも俺は、聖南をとっても優しい人だと思う。  気を失う直前までは何とか覚えてるんだけど……と言っても最後の方はあんまり記憶が無いから、俺がまた余計なことを口走ってないかそれだけが心配だ。  何だかすごく、幸せな気持ちと苦しい気持ちで心が重たかったことは覚えていて。  聖南にぎゅっと抱き締められることも、食べられそうな勢いでかわす熱いキスも、裸で抱き合って恥ずかしいことをたくさんすることもぜんぶ、ひとり占めしたいと思った。  聖南のモノを自分で一生懸命挿れてる時、視線を感じて目を開けてみると、なぜか泣きたくなるくらい優しい表情で俺を見ていた。  こんな風に聖南に見つめられるのは、俺だけがいい。  聖南が囁く「好きだよ」も、「愛してる」も、俺にだけ言ってほしい。  でもちゃんと、聖南に俺は相応しくないって分かってるから。  あともう少しだけ、もう少しだけ……。  時期がくるまでは、一緒にいたい……そう強く思ったことだけは、鮮明に覚えてる。 「……ん……」  頭が少しずつ覚醒していくのが分かった。  全身があったかい何かで包まれていて、暖房も効いてるから暑いくらいだ。  熱を逃したくて身じろぎすると、〝誰か〟の気配にパチっと目を開ける。 「おはよ」 「……っ、あ、……おはよう、ございます……」  すぐそこにあった聖南の微笑みは、起き抜けには刺激が強すぎた。  目が合うと、聖南の笑みが濃くなって瞳が細くなる。  うぅ……聖南、今日もかっこいい……。  今すでに暑いのに、もっと暑くなっちゃったんだけど。 「すごいな。レッスン開始時間に目覚ますなんて」 「レッスン開始時間……? ……って、え!? ウソっ、えっ、どうしよう! うわぁっ、ヤバイ!」  ウソ……っ!? もうそんな時間!?  俺はガバッと体を起こして、昨日散々振り返って見た丸時計に視線を向ける。  うわ、ほんとだ……! 九時……五分前。  レッスンは九時からだから、どんなに今から急いで向かっても間に合わない。  意味もなく掛け布団の中で足をガサガサ動かして、「うわぁっ」と頭を抱える。 「葉璃、落ち着け。俺が林に連絡してるから大丈夫だ」 「だ、だ、大丈夫じゃないですよ! 遅刻なんて俺一度も……っ」 「だよな、知ってる。今日は特別。俺が許す」 「えぇ……っ」  聖南が林さんに連絡したって……そんな事言われても、焦る気持ちは消えないよ。  どうしよう。マジでどうしよう。  俺、年末の事件までほんとに遅刻も欠席もした事なかったんだよ。  それは多分に聖南のおかげでもあるんだけど。  わぁ……なんで。寝坊なんて高校一年のとき以来だよ……。 「それより体は大丈夫? そっちの方が俺は心配なんだけど」 「体ですかっ? あ、……いえ、なんとも……」 「そっか。良かった」  そうだ、そうだった。  なんで寝坊したのかって、そんなの分かりきってるじゃん。  いつ俺が堕ちたのかは分からないけど、夜中までムラムラして聖南を襲って、逆に襲われて、いっぱいやらしいことして……だから、そりゃあ……そうだよ。  体はつるつるピカピカで、お尻も何の違和感も無い。聖南は眠ってる俺を綺麗にしたあと、ちゃんとバスローブまで着せてくれてる。  時間的にもそんなにたくさんはエッチしてないと思うから、体がバキバキでもない。むしろ何だかスッキリしてる。  遅れちゃったけど、寝坊したことを謝ってレッスンに参加する事も出来そうなくらいだ。  でも、のんびりと横になって俺を見てる聖南はまったく動く気配が無い。 「あの……レッスン、ほんとに行かなくていいんですか?」 「今日は特別って言っただろ。一時の収録から合流したらいい。林にはそう伝えてある。俺も午後から仕事だし送るよ」 「そうですか……。すみません、ご迷惑かけて……」  聖南の仕事も午後からで、俺を送るのが〝ついで〟で済むんだったら、もう甘えてしまおう。  レッスンを休んじゃったことはすごくモヤっとしちゃうけど、今ここで慌てたってしょうがない。  はぁ、と溜め息を吐くと、隣で横になってた聖南がやっと体を起こした。 「葉璃ちゃん、どうせならもう少し寝たら?」 「いえ、もう目が覚めました」 「あぁそう? じゃあ……チェックアウトしてドライブでもするか。話もしたいし」 「えっ!」  「なんか食う?」と言いながらベッドを下りた聖南は、全裸だった。  ドライブって単語に反応した俺はというと、目のやり場に困って何気なく窓の外に視線をやる。  早々と着替え始めたらしい物音が聞こえて、俺もいそいそとあったかい布団とさよならした。  一応慎重にベッドを下りてみるも、やっぱり体は何ともない。ちょっとだけ腰に違和感はあるけど、気にするほどじゃなかった。  ……へへっ。聖南とのエッチのあとは大体、体全体がギシギシ鳴ってるような感覚があるからなぁ……。 「嬉しそうだな、葉璃」  一人でニヤついていると、そばに来た聖南からきゅっと抱き締められた。  叱られる気配は無さそうだけど、この状況でニヤニヤしてるのがバレてバツが悪い。  今こうして聖南といられることも、ムラムラを解消できたことも、これからドライブするってことも、ぜんぶ嬉しくて……顔の筋肉が機能してなかった。 「……すみません……。俺……寝坊したのに」 「起こさなかった俺も同罪」 「そんな……っ、聖南さんは悪くないです!」 「ついでに言うと、葉璃が堕ちたあと一回だけイかせてもらった。ごめん」 「…………?」  どういう意味か分からなくて首を傾げる俺に、聖南が茶目っ気たっぷりな笑顔を浮かべた。 「聖南さん、寝てる葉璃を犯しちゃった」 「え、……えっ!? そ、そんなのわざわざ言わなくていいですよ! 俺の体は聖南さんのですから! 好きにしてくださいっ」 「……葉璃……」  そうなの!? ……って、言われなきゃ分かんないことを白状した聖南に、俺は鼻息を慌くした。  だって俺、聖南がイく前に堕ちたんだよね。  じゃなきゃ聖南はそんなことしないもん。  いつもだったら叩き起こされるんだけど、昨日はそれをしなかった……てことは、俺を気遣ってくれたんだと思うから。  ……ほらね、優しい。聖南はやっぱり優しいよ。  いつまでも浸かってたいぬるま湯みたいな、ほっこりじんわりあったかい聖南の気持ちを俺は嬉しく思う。  そう、……。 「……今は、ですけど」

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