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56♣⑦
まさかハルポンの口から、「煽ってる」とかいう否定的なセリフが出てくるとは思わんかった。そんでめちゃめちゃしかめっ面しとるし。
俺がレイレイの事を嫌いかどうか聞いた時も、ハルポンはお人好しを発揮しとったんか「良くは思ってない」とだけ言うて、ダイレクトな言葉は避けとった。
そやけどこうも立て続けやと、ハルポンも黙っとられんらしい。
口にはよう出せへんけど、ほんまは〝嫌い〟ゾーンに入ってもうてるの分かってしもたがな。
「葉璃の耳に入れるか、迷ったんだけど……。後々の事を考えると、話しておいた方が、いいかなって。嫌な気持ちにさせたよね、ごめんね」
「いや、大丈夫! 恭也が謝ることないよ!」
そうや、なんで恭也が謝るん。
諸々について謝罪すべきはレイレイの方やろ。
好き好きアタックし続けてセナさん困らせてんのに、ハルポン見つけたら鬼の形相で牽制かけよる。
嫉妬に狂うた女は怖い。
Lilyの件思い出すと寒気してくるが、レイレイはその上をいっとる。
どんなツラして、どういう意図で恭也にハルポンの魅力なんぞを聞き出そう思たんか、俺やったらその場で質問返しのオンパレードやったと思うわ。
「それ……恭也はなんて答えたん」
恭也は俺みたいに一瞬で噴火するようなタイプやないから、きっと当たり障りなく答えたんやろうが……気になる。
他人との壁を作りがちな恭也が、レイレイ相手に会話したやなんて信じられん……いやハルポンのためなら瞬時に俳優のお面被って対峙するかもしれんけど。
「俺は、一つしか、答えられないって。葉璃は、何も考えてないからこそ、みんなから好かれるし、俺も好きなんですって。もちろん、こんなに直接的には、言ってないですけど、……そういう風なことを、言いました」
「おぉ……」
「恭也……っ」
当たり障りないのに確実にレイレイにダメージ与えられる、まさに的確過ぎる答えやん。
たしかにハルポンは、好きな人を振り向かせようとなんやかんやと取り入ろうとする女達には無い、素の魅力がある。
飾らんところがいい。
たまに言動があざとく見えんこともないが、それが計算の上やったらキショくてしゃあないのに、ハルポンみたいなド天然がナチュラルにやってのけるからこそ惹きこまれてまうんよな。
はじめはハルポンの粗探しと裏の顔暴きしたるつもりでおった俺が、今や「カッコいい」と言われたいがために精進するとまで言うてんで。
俺のために流してくれた涙も、一番心細い時にそばにおってくれた恩も、一生忘れん。
軽口叩き合える仲間になれてほんまに良かったって毎日思えてんのは、ハルポンがずっと自然体でおるからやねん。
レイレイが恭也から聞き出せたんは、ただの惚気。そんなん言われてもどないしたらええのよ〜な、深い絆を知らしめられただけ。
「恭也くんねぇ、凛と答えていてカッコ良かったんだよ! 僕も多少は情報知ってるから、助け舟を出そうとしたんだけど。何せ彼女は恭也くんのことしか見てなかったもんな。僕は空気のようだったよ、空気」
「そうなんや。てか林さんもレイレイの事情ある程度知っとん?」
「レイチェルさんが社長の姪っ子で、セナさんにお熱だって事? 知ってるよ、もちろん」
「なんで知ってんの?」
「見てたら分かるじゃないか。それに彼女は、二人の別居理由の一つにもなってる。成田さんから直々に、他言無用を条件に掻い摘んでの説明を受けたんだよ。君たちの会話でも、何となくは把握してしまえるしね」
「成田さんは分かるけど……俺たちの会話? レイレイの話してる時、林さんおったっけ?」
「ヒドイなぁ、僕は君たちの前でも空気なの?」
「いやそういうわけやないけど」
そうか、セナさんとハルポンが急に別居するてなったら、林さんは訳分からんもんな。
密着取材の仕事を持ってきた成田さんが、林さんを信じてレイレイの事まで語っとったんなら話は早い。
そやけどセナさん本人が実行しようとしとるプランについては、話さん方がええんやろう。
恭也も、それに関しては話題を避けとるように感じた。
林さんを信じてないわけちゃうけど、セナさんからまだ言うなてお達しがあった以上は、俺たちが打ち明けるわけにいかん。
「葉璃の魅力なんて、一言で、言えるわけない」
「いやいや……俺に魅力なんて無いから」
「そんな事ない。俺、本当は、指折り数えて言ってやりたかったよ。葉璃の魅力なんて、いちいち考えなくても、いくらでも言える」
「そんなことないって……」
「ふふっ、そういう謙虚なところも、魅力なんだけどな」
「えぇっ……それは恭也だからそう思うだけだよ。昔から俺に甘いじゃん、恭也は」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
アッ、ちょっと放っといたらまたイチャイチャしてるやん。
恭也のハルポン愛は自分の中だけで留めておけんらしく、すぐにああやって直接垂れ流す。
俺にはなかなか出来ん上級テクを恭也はすんなりこなしてまうから、ハルポンもポッとなりながら真正面から受け止めるんやろな。
そういやセナさんからも、恭也とはちょっと切り口の違う返しされたっけ。
ふとあの時の事を思い出した俺は、空になった大皿を重ねながら言うたった。
「魅力といえば、こないだ俺もセナさんに同じこと聞いたことあったわ」
「えっ!? 聖南さんにっ?」
「そうそう。話の流れでな。ズバリ、ハルポンの魅力は?言うて」
「えっ、そ、それで……っ?」
ドキワクな心境を隠せへんハルポンに気付きながら、林さんから注文端末を受け取る。うちのフードファイターがまだまだ食べそうな気配やから、俺は適当に美味そうな肉を片っ端から注文していった。
「〝ありきたりな事しか言えねぇ〟」
「え……」
「〝だって全部好きだから〟」
「え……っ?」
「そう言うて照れてはりました。あのセナさんが」
「…………っ」
似ても似つかんモノマネをしつつ、セリフを言うごとに表情が変わるハルポンを見つめた。
ハイスペ彼ピが裏でそんなこと言うてたと知って、ドキドキが止まりませんてか。
俯いて悶える真っ赤な顔したハルポンは、やっぱりあざとい。思いっきし照れときながら、丼飯を離せへんとこもあざとい。
どさくさに紛れてこれを見たかった俺も、あんましデカいツラしてられんけど。
それを微笑ましげに優し〜く見守る恭也は、いったいどんな気持ちなんや……と思う俺は、まだいまいち分からんのよな。
〝親友よりも愛してて、恋人よりは愛してない〟
いやマジで……どゆこと?
「セナさん……メロメロだよね。いつ世間にバレてもおかしくないくらいだよ。僕としては、もう少し控えてほしいんだけどなぁ」
「ほんまにそうやで。楽屋でイチャつくのとかな」
「なっ、イチャついてないですよ!」
「イチャついてるわ。二人の周りにバリアでもあるんかいうくらい近寄れん空気になるやん。ほんまにどんな顔しておったらええか分からんから、あんま二人の世界に入らんでほしい」
「えぇっ? そ、そ、そう言われても、俺……っ。恭也、そうなのっ?」
「えっ」
知らぬは本人ばかりなり……とはよう言うたもんやで。なんで気付いてないねん、と注意するんもバカらしなるわ。
俺も恭也も林さんも、セナさんとハルポンが向かい合って見つめ始めたら自然と顔を見合わせんのやぞ。
まさに三人の胸中は『あ、始まりますね』で合ってると思う──。
「ルイさんの言ってること、分かるよ」
「ちょっ、そうなの!? もっと早く教えてよ! 林さんもなんか困ってそうだし、控えないと……っ! ていうかその時に教えてほしい!」
「そう言われても……。俺は、そんな二人を見てるの、ほっこりするし、好きだから……。止めようとは、思わないんだよ」
「それがあかんねん。二人を野放しにしたら秘密ダダ漏れなるって」
ところが、親友以上のラブをハルポンに持っとる恭也はそうやなかった。
ハルポンの魅力を問うた相手に逆にダメージを与えるほどの愛は、俺には理解しがたい慈悲に溢れとる。
いやいや待て待て。そんなええもんちゃうわ。
今度二人きりの時に説教せなあかん。
恭也のそれはただの甘やかしやで、ってな。
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