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56♣⑥

─ルイ─ 「なぁ林さん。俺なうで妬いてるんやけど」  さっきから、俺はいったい何を見せられてんの。  店員さんよ、口寂しいからはよドリンク持ってきて。……って、あかん。  今来たら完全に誤解されてまう。  ETOILEの二人ってホントにデキてたのぉ!? て大騒ぎになる。  呆気に取られとるのは俺だけやなく、顎が外れそうな勢いで呆然としてはる林さんもお仲間や。  恋人同士でもなんでもないのに、第三者の前で堂々とイチャイチャすなよ。  新参者の俺は二人の世界を指くわえて見とるしか出来んのやから。 「ルイくんにも褒めてもらいたい願望があったんだね」 「あるわけないやん。褒めちぎられたところで嘘くさいとしか思えへん人間やったよ、俺は」 「過去形だ」 「ハルポンは例外。あんな風に真正面から「カッコいい」言われてみたい」 「そういうものなのかい?」 「さぁな」  二人にあてられた俺は、半ばふてくされ気味にサラダにがっついた。  あーあ。いいなぁ恭也。  デビュー以後どんどん垢抜けて色気まで漂わせだした恭也は、ハルポンの怒涛の褒めちぎりに悶絶しとる。  そらカッコええよ、恭也は。  アイドルいうより俳優とかモデルで食っていけそうなくらい、クールな仕上がりになられて。  でも俺もそこそこやと思うんやけどなぁ。  バチクソにイケメンいうわけやないけど、オーディションでも『負けた』と敗北感味わわせてくるヤツおらんやったぐらいには、自分でイケてる思てんけど。  えぇなぁ、えぇなぁ。  ハルポンからの『カッコいい』、欲しいなぁ。 「あれ、俺ルイさんにカッコいいって言ったこと……?」 「無い」  あるわけないやろ。あったらこないに妬いたりせんわ。  てかハルポン、俺にはあんなにしっとりうるうるな目で見てくれた事すらないやん。  あったとしても、あそこまでムード全開で俺に接した事なんかないやろ。  不満タラタラでジロ〜と斜め前のハルポンを見ると、珍しく思いが伝わったんかちょっと慌てだした。 「えぇ〜ありますよ、ほら……えーっと……あれ? でも言ったことある気がしますよっ?」 「ワンちゃんとは言われたことある」 「あぁ……!!」  あれはいつやったかな……とーんと昔のことやから記憶が砂みたいにサラサラーッと消えてもうてるわ。  朧げに覚えてんのは、ハルポンが俺はワンちゃん顔やと得意気な顔して言うてた事。  そんなん褒めてるうちに入らん。  俺は『カッコいい』がいい。  ああして恭也みたいにナチュラルに言うてもらえるまで、どんだけかかるんやいう話やけどこればっかりはすぐにはどうも出来んやん。 「お待たせしましたぁ〜!」  そうこうしとるうちに、料理が巧そうな気の良いおばちゃん店員がぎょうさん肉を運んできた。  ハルポンお得意のぐるぐるをかましてた俺は、すぐさま頭を切り替えて大皿四つをホイホイと受け取ると、「ありがと」とおばちゃんに笑顔を向ける。  するとおばちゃんは、めちゃめちゃ分かりやすくポッとなった。 「まぁまぁ♡ あなたイケメンねぇ♡」  おまけにこんなセリフを残して去って行った。  ほら、世間では俺もそこそこなんやって。  おばちゃんは俺がニコーッと笑っただけであんな反応してくれんのに、ハルポンはああいうの一切無いやん。  ……あークソッ。俺はいつまでも何をぐるぐるしてんねん。  らしくないやろ。 「……ま、ええわ。腐っててもしゃあない。精進あるのみや」 「えっ、えっ……?」 「じゃんじゃん焼くで。しっかり食いや」 「は、はい……っ」  一緒に運ばれてきた大盛りライスをハルポンに手渡して、今から見事という他ない食べっぷりを拝ましてもらわなあかん。  ハルポンの『カッコいい』をいつか聞けるように、自分磨きを頑張るしかないという結論に達した。  我ながら早い。同じことをずっと考え込むのは性分やないし。  そもそも俺は、恭也と同じ土俵には立てんのやから高望みが過ぎたんや。  今まで通り世話焼きまくって、とりあえず嫌われんようにだけ気を付けとったらええやろ。  あ、そうや。大事なこと聞き忘れとった。 「なぁハルポン」 「ふぁい?」  いや肉がまだ焼けてへんからって、我慢できんでもうご飯だけで食べてもうてるやん。  ク〜ッ……ハルポンめ……出鼻を挫きよる……。 「メシだけ食うて美味いんか?」 「はい! お米ってほんのり甘いんですよ〜」 「そ、そうか……。ところでハルポンは犬派か猫派、どっちなん?」 「えっ? うーん……そうだなぁ……どっちも可愛いと思いますけど……強いて言うならワンちゃんかなぁ。でもやっぱりどっちか選ぶのは難しいですよ」 「そうかそうか! ほら肉焼けたで! いっぱい食べぇ!」 「わーい! いただきます!」  よっしゃ。ハルポンは犬派……と。メモメモ。  今はそれだけで充分や。  〝ワンちゃん顔〟の俺はたったそれだけで気を良くした。ほんまにお手軽な性格やと思う。  トングは俺と林さんが自然と握って、焼き担当を勝手に担った。  焼けたそばから別皿に肉をよそっていって、それを恭也がハルポンに渡していく。そんで空になった皿をまた恭也が俺のとこに置いて待つ、てな流れ作業を阿吽の呼吸でこなしていく中、トング仲間の林さんは呆然としてはった。  まるでフードファイターなハルポンの食べっぷりを初めて見たんやもんな。驚かん方がおかしい。  でも林さん、ボーッとしてたらあかんで。 「……すみません、林さん……ごはんのおかわりを……」 「えっ!? あ、うん、小盛りでいい?」 「あっ……小しか無いですか?」 「いや……あるけど……大中小、特盛りまで……」 「特盛りで!」 「えぇっ!?」  ほらな、腹ぺこハルポンを侮ったらダメなんよ。しかも肉がお供やと特盛り三杯は食べよるやろ。  声がひっくり返ってもうた林さんは、なんや恐る恐るハルポンをチラ見しながら卓にある注文端末を操作した。  いつ見ても気持ちええ食べっぷり。  『私もうお腹いっぱい』言うて出てきた料理を半分は残してた女達と比べると、やっぱ俺はモリモリ美味そうに食うてる子を見てるんが好きや。  ハルポンはちょっと食べ過ぎやけど、一応満腹にもなるらしいし、一日中食べとるわけでもないし、健康なら何でもええ。  初見やとかなり心配になるレベルなのは違いないが。 「あ、そういえば……」  モグモグハルポンの隣でゆっくり食事を楽しんどった恭也は、空になった皿を俺に手渡してきた。……これもう何往復してんねやろな。  恭也が口火を切るんはあんまない事やから、気になった俺もわかめスープをちびっと飲み、「どしたん?」と返す。  わりと上等な店やから、何食うても美味い。 「取材前、レイチェルさんに、会ったんですよ」 「えっ!? レイチェルさんにっ?」 「それほんま? 最近よう出没すんなぁ」 「ですよね」 「そ、そ、それで? 何か話した?」  天敵とも言うべき名前が出た途端、重そうな丼を左手で持つハルポンが俊敏に動いた。  大っきくてキラッキラな目を恭也に向けとるが、表情は固い。  先週の楽屋突撃からそんなに日が空いてへんのに、またレイレイが事務所におったと聞いて俺も口が曲がる。  ハルポンを睨みつけるレイレイの事が、俺は好かんからや。  いったん箸を置いた恭也は、事の顛末をじわじわと話し始めた。その場には林さんもおって、なんと恭也はレイレイと二言三言会話をしたらしい。  すれ違っただけとかその程度かと思いきや、よう分からん質問をされたとかで……。 「お、俺の、魅力……? そんなこと聞いてどうするんだろ……。その前に俺に魅力なんて無いのに……ていうかそれ、逆に煽ってる……?」

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