622 / 625
57♡⑦※
のぼせる前に上がって、ちゃんと自分の気持ちを伝えることに決めた。
たぶん聖南は俺がいちいち言わなくても分かっててくれることなんだろうけど、結論だけじゃなく、「すみません」の理由から……話そうと思う。
聖南がこんなド新人の俺に頼み込むつもりだったなんて、信じられない。横暴な口調で「やれ」の一言が許される立ち位置に居る人なのに、俺や他の人にも絶対にそんなこと言わないんだもん。
優し過ぎるんだよ。聖南……。
さらに面倒見もいいから、俺の下手くそな話を一から十までぜんぶ聞いてくれる。
そっかそっか、ってたまに相槌を打ちながら、俺がきちんと本心を語ってるかどうかまで気にしてくれるんだ、きっと。
俺の恋人は、常にカッコいい背中を見せてくれる。
待ってるからゆっくりおいで、とヤンチャな八重歯を覗かせて優しく微笑んで、俺の成長をすぐそばで温かく見守ってくれる。
プライベートでは困っちゃうくらいヤキモチ焼きで甘えたがりだけど、そこがまたいい。
俺はいつもそのギャップにやられてしまう。
俺の体をむぎゅっと包み込むように抱きしめて甘えてくる、大きなワンちゃんみたいな聖南は可愛い。
オンとオフを使い分けつつ、俺との接し方は常にブレないところも大好きだ。
──なんてことを、ぐるっと一人で考えていた俺は、聖南から忠告されたのにのぼせそうになった。
ざぶんとお風呂から上がってまっすぐ脱衣所に向かったものの、ふと〝これから〟のことに思考がいって立ち止まる。
大事な話でその気がなくなっちゃったかもしれないけど、もしかしたら……がある。
聖南の許しを得てトイレで綺麗にはしてる。
だけど慣らしてはいない。
どうしようかな、と迷ったのは一瞬で、回れ右した俺はその一分後にはボディーソープを泡立ていた。
自分で出来る最低限のことをしてれば、聖南の手を煩わせないで済むと思った。
一人で慣らしたら、いつも聖南は『俺がするって言ってんのに』と膨れるんだけど……それは俺が一番気にしてるところだから、出来るだけ自分でやらなきゃって毎度意識している事だ。
そう。いつものように。
ヘンな声が漏れないように息を詰めて、右手を壁につく。左腕を限界まで伸ばして、短い指が届く範囲までがんばって拡げていく。
ボディーソープだと滑りが足りないけどしょうがない。
むにゅっと指を入れると、最初は抵抗感があるからじわじわ進めていくしかなくて、ちょっとだけ億劫に思うことがある。
こんな狭いところに聖南のものが入るんだから、せめて指が三本入るようになるまで……スムーズに動かせるようにしなくちゃ……と、五分くらい一人で必死にそんなことをしていた。
ところが、──。
「……っ、聖南さん……っ、聖南さん……!」
俺は、ヨタヨタと移動して脱衣所の手前で聖南を呼んだ。
だんだん、いじってたお尻がおかしくなってきたんだ。
指を出し入れしてるからじゃない。
なんかこう……どう表現していいのか分からない、自分じゃどうにも出来ないことが起こっていそうな不安が押し寄せてくる。
とにかくヘンなんだ。
太ももをすり合わせてモジモジしてなきゃ落ち着かない、ジッとしてられないむず痒さがどんどん強くなっている。
うわ言のように、ただ聖南を呼んでるわけじゃない。
はっきり言って助けを求めていた。
「聖南さん……っ」
反応が無い。
夜中だしあんまり大きな声を出しちゃダメだからって、控えめに呼んでるから聞こえないのかも。
いや、それとももう……寝ちゃった……?
俺があれこれといろいろ考え過ぎて、どれくらい時間が経ったのかも分かんないし……。
起きててくださいとは言ったけど、忙しい聖南をあんなにも静かで落ち着いた寝室に置き去りにしちゃったから、あり得なくはない。
で、でも、じゃあこのムズムズ、どうしたらいいの……。
俺はお尻に泡がついたまま、妙な格好で扉にもたれ掛かった。
聖南……っ、俺のお尻が……お尻が……ヘンだよ……っ。
助けて……!
「何、なんだ、呼んだ?」
泣きべそをかく寸前、足音が聞こえた。
聖南だ! と顔を上げると、ガラッと引き戸が開く。
不思議そうに首を傾げながら脱衣所に入ってきた聖南は、俺の声が空耳だと思ったみたいで「呼んだよな?」ともう一度聞いてきた。
「よ、呼びましたっ。うぅっ、聖南さんーっ!」
「……っ、どうしたの」
「聖南さんっ」
近寄ってくる聖南に、半ベソで助けを求める。
だけど聖南は訳が分からないから、全裸の俺を食い入るように見てニヤついた。
違うんだよ聖南、今俺は、それどころじゃなくて……!
「聖南さん、俺、お、お尻が……っ」
「お尻? ……んーっと……これどういう状況?」
「お尻がっ、ムズムズするんですっ」
「はっ? ムッ、なっ、どっ、えっ?」
「何とかしてください!」
「ンなこと言われても……!」
どういう事だ、と言いながらさらに近付いてきた聖南が、やっと俺の必死さに気付いて慌て始めた。
たぶん、たぶんだけど、聖南は俺が誘ってると思ったに違いない。
全裸だし、お尻お尻言ってるし、ムード満点なシチュエーションだし、勘違いさせちゃったのは悪いと思う。
けど、違うんだよぉ……っ。
「何なんだよ! これは据え膳なのか!? それともガチっ?」
「ガチのやつです! わーんっ、ムズムズー!」
「分かった、分かったからちょっと見せてみろ!」
「はいぃ……っ」
俺も必死だった。
どういう状況でも、こんなところ聖南に見られたくなんか無かったよ。
一人で考えたいからってカッコつけてお風呂にきたっていうのに、泡だらけのお尻を突き出してモジモジしてたら、何してたかなんて一目瞭然で。
恥ずかしいったらない。
ものの五秒で浴衣を脱いでシャワーヘッドを掴んだ聖南が、俺の背後でスッとしゃがんだ。
聖南……いつも以上に頼もしく見える……。
状況の把握が早くて助かる……。
「ムズムズって? 痒いの?」
「か、かゆい……? いや、そんなにかゆくは……とにかくムズムズです!」
「分かった。とりあえず流すぞ、いいな?」
「はい……っ」
「お尻プリッてして。……指は入れて大丈夫? ムズムズするんなら泡かき出した方がいいだろ」
「好きにしてください……っ」
「そのセリフもうちょい別のシーンで言ってほしかったんだけどなー!」
「は、早く……っ、お願い、早く……っ」
「分かったって! チクショー、股間が痛てぇっ」
聖南の言う据え膳を前におあずけ状態だから、凶器が我慢を強いられてるんだ。可哀想に……じゃなくて。
俺がイジってた穴に、聖南はわざわざ温度を確かめてからシャワーのお湯をあててくれた。
さっきより窄んでしまったけど、泡をかき出すために入ってきた聖南の長い指が、ゆっくりゆっくり慎重に蠢いている。
……っ、ヤバイ、声が出ちゃいそうだ。
聖南がお尻をいじってるってだけでよくない。
滑りがなくなるまで中指を使って丁寧に泡をかき出してくれてる聖南は、我慢してるんだから。
両手で口を塞いで声を遮らなきゃ、聖南の我慢が台無しになっちゃう。
そもそも俺のせいでこんな事になってるのに。
「どう? まだムズムズする?」
「……ちょっとだけ……」
「考えはまとまったの?」
「……一応、……」
「じゃあもう風呂はいいな。出るぞ。お尻見てやる」
「はい……すみません……。お騒がせして……」
俺は聖南から脇の下に腕を入れられて、脱衣所に運搬された。
「何事かと思った」と言う聖南は半笑いで、大きくてふわふわなバスタオルで俺の体を拭きあげてくれる。
大騒ぎしたのに、聖南はイヤな顔一つしない。
大事な話の最中なんだぞって叱っても良さそうなものなのに、相変わらず甲斐甲斐しい聖南はさっきの重たい空気を引き摺ってなかった。
これもたぶん、俺を気遣って。
ともだちにシェアしよう!

