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2 執事の誘惑
銀髪の間から、黒い耳がピコンっ……と震えた。
「ロルフ」
頭を撫でるのはためらわれて、頬を撫でる。
「お前は犬として、幸せな生涯を送る筈だった」
お前は幸せな天寿をまっとうした。
残された俺は悲しみの中、火葬したお前の灰を一握り。
空へ投げた。
灰は、白い雪となって舞い降りて、森の梢に樹氷の花を咲かせたな……
冬の終わりに。
天に還ったお前をねじ曲げたのは《鬼導衆》だ。
理をねじ曲げた奴らが、お前が逝くべき天への道を歪ませた。
さ迷うお前の魂は、再び地上へ舞い戻った。
人のカタチになって。
仮初めの体で、お前は執事として俺に仕えている。
「安らかな死を取り戻すために、俺は《鬼導衆》を潰さねばならん」
あるべき姿
摂理を取り戻すために……
ほんとうは、お前と別れたくないけれど。
(苦しいだろう。人の姿で生きるのは)
「キビクネーデルは、どうするのです」
「それはっ」
「キビクネーデルがない以上、儀式は成立しません。アッフェもファザーンも従いませんよ」
《クリュザンテーメ》は脆い。
砂上の楼閣だ。
「ひとつ……」
吐息が耳のひだを撫でる。
「私に提案がございます」
長い指が顎を持ち上げた。
「あなたのキビクネーデルを用いればよろしいかと存じます」
「だがっ」
俺にはキビクネーデルの作り方が分からない。
「あるでしょう。あなただけのキビクネーデルが」
ここに…………
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