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第1話 見つけたよ・・
長い冬が終わって、春の日差しが心地良いと感じ始めたある日の朝。俺の心もどこか穏やかで、長い沈黙にそろそろ終止符を打とうと思い始めていた朝だった。
居間の片隅で、普段はFAXとしてしか使う事のない電話が鳴り響く。
「............はい、尾道(おのみち)です。」
3回ぐらい呼び出しが鳴った後で受話器を取るとゆっくり名前を告げた。仕事以外で、電話で話すのはあまり好きじゃなかった。顔の見えない相手とどうやって意志の疎通をとればいいのか分からない。
『あ、尾道さんですね?良かった。こちらは東警察署です。』
「.....はい?......警察?」
警察というフレーズを耳にすると、受話器を持つ俺の手が震える。
『捜索願いが出ていましたお母様の件ですが、....』
そこまで云うと、電話の相手は急に声色が変わった。が、すぐに
『実は亡くなられました。こちらにご遺体の確認に来て頂きたいのですが。』
と、続ける。
「は?.....遺体の確認?」
『はい、詳しい事はこちらにみえた時にお話ししますが。一応ご家族の方に確認をして頂かなくてはなりませんので。』
「分かりました。すぐに伺います。」
出来るだけ平静を装ってそう云うと受話器を戻すが、心臓の鼓動は徐々にドクドクと脈打ち出す。自分で押さえられない感情が、腹の底から溢れ出そうになるのを必死で堪えた。
胸を押さえながら年季が入った和室に入ると、真新しい仏壇に向かって震える手を合わせる。まだ鼓動は大きく振れたままだが、深呼吸をすると瞼を閉じた。
_____ 父さん、母さんが見つかったってさ。
心の中で亡き父に語り掛けると、瞬間気を失う程の目眩に襲われる。俺はその場で座り込むと、意識の奥で最後に見た母の笑顔を思い出した。
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