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第2話 この人は誰?

 尾道 和人(おのみち かずと)28歳。 母と別れたのは、まだ俺が高校生の頃。確か、夏休みもあと少しで終ろうとしている頃だった。  友人と遊んで戻って来た俺は、玄関のドアを開けるなり正面に居た母とぶつかりそうになった。一瞬仰け反る二人。でも、すぐに買い物へ行くのだと思った俺は、「アイス買って来てくれよな。」と、今思えば小学生の様な事を母に云った。 「分かった。」と微笑んでくれたが、結局その時を最後に母の姿を二度と見る事はなかった。  あれから10年以上。 失踪から7年で、俺の知らない色々な事が処理されていった。 生きているのか死んでいるのかすら分からない。 でも、父は諦める事はしなかった。 何度も警察へ出向いては捜索をお願いしたが、事件性はなく自分の意志で出て行ったのだと云われ、結局心労が祟って一昨年前の冬に亡くなってしまった。  どうして今頃? せめて父が生きている間に会わせてやりたかったな。 深く沈んだ心を引きずって警察署に着くと、係の警官が案内してくれる。  「こちらです。」 そう云われ、空いた扉の奥に横たわる白い布のかかった寝台を見せられた。 「.........、あの、.......母はどっちですか?」  そう訊いたのは、目の前にある遺体が二体だったから。 どちらも白い布で覆われているが、男女の区別がつかなくて・・・ 「尾道さんはこちらです。」 そう云って少しだけ布をずらすが、俺の記憶の中の母とはまるで違っていて、今一つ感情が湧いてこない。 「こちらの方は?母と一緒に事故にでも合われたんでしょうか。」 気になるもう一人の方へ顔を向けると訊いてみた。 「そちらの方は、.......もうすぐ息子さんがみえますので、その時にお話しします。」 「......そうですか、.......」  なんともいえない気持ちになる。 目の前の母の顔が、俺の中の母と違っていて、あんなに探したのに見つからなかったのはこういう事かと思えてきた。まるで別人。眠るような死に顔だったけれど、頬は痩せこけ瞼は窪んでいた。あんなに綺麗な女性だったのに.........。

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