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第3話 意味が分からない

 暫くその場に佇んでいたが、警官に少し外へ出てくると言い残し、俺は警察署の入口横のブロックに腰を降ろした。足元の小さな花壇に目をやると、色とりどりの花が咲き誇っている。少しでも俺の乱れた心を癒してくれないものかとじっと眺めていると、向こうの方から慌てて走り込んでくる青年が見えた。  事件?  気になった俺はカレに視線を注ぎ、自分の眼の前を走り過ぎるその背中から目が離せないでいた。背格好は自分と同じか少し小さめか.....。でも歳はそう変わらないと思う。 そう思いながらも、カレの背中が視界から消えると、今度は晴れた青空に顔を向けた。 こんな気分の俺を置き去りに、空は何処までも青く大きく、見知らぬ場所に繋がっている。 「尾道さーん、」  ふいに声を掛けられて、顔を向けるとさっきの警官。 俺の事を呼びに来たのだろう。もう一人の遺体の家族は来たんだろうか....。重い腰をあげると尻のホコリをサッサと払って警官の方へ向かった。 「お待たせしました。もう一人の親族の方がみえたので事情をお話します。また安置室へお願いします。」  頷きながら警官についてあそこへ戻って行くが、やはり俺の感情はどこか遠くを彷徨っている様だった。別人の様な母の顔を見たせいなのか、やっと見つかったという安堵感なのか、自分でもよく分からない。 「どうぞ。」  促されて部屋に入ると、もう一人の遺体にしがみ付くように泣き崩れている男性が居た。  その背中を見て、ハッとなる。さっき、走って警察署へ来た青年じゃないのか? 「あの、.....本庄さん、こちらが、......」  若い警官は、本庄という青年の肩に手を当てると俺の方を向くように云った。 「.........はい、」  振り向いて俺を見上げる青年。その目は泣いていたせいで赤く血走っていたが、俺を見ると急に掴みかかって来た。 「わっ!!......何を......」  咄嗟に身体を避けると、俺は壁に背中をつけて身構えた。 「ちょっと、落ち着いてください!こちらの方は、.....」  青年を羽交い絞めにする警官。その腕を振りきれないと思ったか、青年もやっとうな垂れて下を向いた。 「な、何なんです?.......」  俺は警官に早く説明を訊きたいと思った。十年以上待った母の最期がこんな形になって、訳も分からず俺はこの青年に感情むき出しの敵意を向けられて。いったい母は何をしていたんだ?

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