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第4話 出生の秘密
まだ俺の心臓音は平常でなかった。突然のカレの行動が分からないまま、仕方なく横に並んで各自の遺体と対峙する。
隣の本庄とかいう男の見下ろす位置には、母と同じようにやつれ果てた顔をした男性が眠っていた。胸まで白い布に覆われて、顔しか見えないが背の丈は母よりも少し高いくらいか。
母は女性の中では身長が高い方で、顔立ちは端正。口元の小さなホクロが妙に際立つ綺麗な人だった。子供の頃はそんな母の容姿が俺の自慢でもあった。なのに...............
コホン、と一つ咳ばらいをすると、警官は資料の様な紙を手元で見ながら話しだす。
「男性は、本庄工 さん。年齢は55歳で血液型はB型。女性は、尾道亜矢 さん。年齢は53歳で血液型はO型。お二人とも各自持っていたパスポートと免許証から分かりました。もちろんパスポートの期限は切れていましたが、それを身分証の代わりにしていたのか。兎に角ご家族に確認をして頂きたいと思いまして、こちらに来て頂きました。」
そんな説明が終わり、漸く俺が質問を切り出そうと身を乗り出した時。横にいる本庄という青年が先に「二人は何処で亡くなったんですか?」と訊いた。同じ事を訊こうとした俺は出し抜かれた気持ちでじっとカレの横顔を見る。
「青梅市の小さな宿があって、そこに暫く滞在していたようですが、お二人の遺体は近くの道路脇に停めた車の中で発見されました。自殺です。」
”自殺”と聞いてやっぱり、という思いが頭をよぎった。
「車の中に大量の睡眠薬とお酒。それから遺書がありまして.......、お二人に来て頂いた次第です。死因は服薬と飲酒によるもの。それと、これは検視官の見立てですが、女性の方は癌を患っておられたと思います。」
「...........癌?」
俺は訊き返した。が、母の状態を見れば納得せざるを得ない。口元の小さなホクロ以外、まるで別人のように映る顔だけ見ても、かなりの進行状態だったのだと思った。
「遺書ですが、...............これはお二人にお渡しします。」
そう云うと一通の封筒を渡される。
「え?.....それぞれの家族にではなく一通だけ?」
俺は差し出された封筒を見て訊いた。普通はそれぞれの家族に残す物だろう?どうして一通なんだ?
「拝見します」
俺が考えている間に隣のカレが封筒を鷲掴み、胸元で乱暴に封を切った。
「お、おい、......」
慌てて覗き込む俺。真剣に文字を目で追って確かめる。と、そこに書かれていたのは......
「兄妹?!」
その文字が目に入ると、すぐに問いかける。
「え、二人は兄妹なんですか?俺は聞いた事ないんですけど.....、母は天涯孤独で親兄弟、親戚もいないと云ってました。」
俺はすぐに警官に云った。でも、隣の彼は「マジか、ぬけぬけとそんな事を」と云って俺を横目で見る。
文面を読み終えたカレが、便箋を俺に寄越した。
クシャリと掴んでじっと読んでいくと、次第に俺の鼓動が強く脈打ち出す。
「兄妹で駆け落ち........?いったい、どういう............」
「そこに書いてあるでしょ、あなた、この二人の息子だって。」
「.........え?!」
そう云われた途端、俺の足元が緩んで沼の底へ落ちて行くような、そんな気分になった。
訳も分からずどん底へ突き落された気分だ。疑ってもいなかった俺の出生が、今こんな形で明らかになるとは.....。
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