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第5話 湧き起こる疑問

 遺書にしたためられていた事実。 二人は決して侵してはならない道を歩んでしまった。 血を分けた兄妹で愛し合い、子供まで宿してしまう。そして、その子供というのが俺だという。今まで父と思っていた人は、いったい・・・・・  呆然とする俺を他所に、本庄という男は「遺体を引き取ってもいいですか?」と冷静な口調で警官に訊ねた。 「もちろんです。直ぐに手配をお願いします。色々と大変でしょうが.......。」 そう云うと警官は部屋を出て行く。 「いったい何時迄そうして呆けているつもりですか?僕は帰ります。色々手配があるんで。」 「................ぁ、............ああ。」  本庄に云われ返事はしたものの、俺は途方に暮れていた。 母の亡骸を前にして、じわじわと沸き起こる怒りの様な感情を何処にもぶつける事が出来ず、ただじっと美しかった昔の母を脳裏に焼き付ける事に集中した。 ___とにかく家に帰ろう__  見送る者が俺ひとりしか居ないという寂しい葬儀を終えて、自宅に戻った頃には意識も限界に来ていたのか、玄関を開けるとそのまま倒れ込むように上がり框に突っ伏した。 泣きたくもないのに自然と涙が零れる。この十年、俺がどんな気持ちで母を待っていたか。  帰る筈もないと思いつつ、それでもどこかで幸せに暮らしていればそれでよかった。 なのに...................。あろうことか実の兄と駆け落ち?! しかも、俺は..............そんな二人の子供だというのか? 血を分けた兄妹の子供なんて............。神を冒涜するにもほどがある。  でも、...................これが事実。  何時間ぐらいそうしていたのか、気付けば辺りは暗闇の中。 玄関の小さな常夜灯だけがほのかに床を照らしていた。 玄関の扉も開いたまま、微かに入り込む夜風がこの身を震わせて、俺は自分の手で肩をギュッと抱きしめると立ち上がりドアに鍵を掛けた。  その後の記憶は殆どない。 朝の光を瞼に受けて、ゆっくりと開いて見えた景色は住み慣れた自宅の和室だった。 父の遺影が見える。静かに微笑むその人は、俺の事を知っていたんだろうか。母を愛していたのは間違いないが、何処まで知っていた? そんな漠然とした疑問が俺の中に小さな泡となって湧きだすと、ハッと気づいて昨日会った本庄の事を思い出した。  ____って事は、俺とアイツは異母兄弟?___

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