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第6話 再会

   その日、父方の親戚には母の事を電話で伝えた。 皆、一応に驚きを隠せないでいたが、十年という歳月は皆の記憶を曖昧にしてしまい、お悔やみを云う言葉に憐みは感じられなかった。それよりも、生死がはっきりした事の方が重要だと云わんばかりに、俺の身が軽くなって良かったと言いたげだった。  仏壇に母の位牌を置いてもいいのだろうかと、一瞬ためらったのは父が事実を知っていたかどうかが分からなかったからで。今となっては誰に訊ねる事も出来ない。 でも、昔見た事のある写真には、生まれたばかりの俺と父と母が映っていた。だとしたら、父は俺を自分の子供だと思っていたのではないか? でも...............。  天涯孤独と云っていた母を疑いもなく信じた父の気持ちが分からない。 実際には兄が居たんだからな。そして、実家もあったはずだ。今もあるのだろうか.....。 と、ひとり思いを巡らせていたが、ふと気づいた事がある。 あの異母兄弟の本庄。カレはまるで母の事を知っていた様な口ぶりだった。俺を見たあの目はまるで、汚らわしい物でも観る様な目つきだった。あの時は何がなんだか分からずにいたが、きっとカレは知っていたんだ。  気になりだしたら居ても立っても居られない。直ぐに警官から聞いていた住所の書かれたメモを取り出すと、俺はジャケットを羽織り玄関の扉を開けた。  春の柔らかな日差しとは裏腹に、俺の心はささくれ立ってまるで凍てついた枯れ枝の様に外部の空気を遮断していた。 電車を乗り継いで向かった先は、本庄家のある街。タクシードライバーに住所を告げて向かってみれば、皆が知っているという程の大きな邸宅がそこにはあった。  立派な門構えの前で、しばし立ち尽くす俺に後から声が掛かる。怪しい人物と思われたのでは、と振り返って「あ、すみません。」とお辞儀をすると、そこに居たのはあの日のカレだった。 「こんな所で何を......?」  またあの目で俺を見る。蔑むような冷たい眼差しが、俺の身体を突き刺した。 「そんな目で見るなよ。これでも俺たち兄弟だろ?......知らなかったけどさ.....。」 カレの眼差しにウンザリすると、俺がそう云った。が、その言葉は余計にカレの心をざわつかせた様で、「話があるなら中へどうぞ。こんなひと目のある所で話す事でもないでしょう。」と云って門扉を開ける。 「ひと目が気になるのか.....」 呟くように云うと、俺はカレについて玄関まで続く石畳の上を踏みしめて歩いた。

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