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第7話 父と母と父と。

 中へ入ってみると、玄関こそ広いが表の様子とはガラリと違って見えた。 日本家屋の古い邸宅の中は、調度品の少ないだだっ広いだけの古びた日本間が襖で仕切られていて、カレの他に人気を感じる事もなかった。 「驚きましたか?こんな古びた家で。」 「..............ぁ、..........いや。」 なんと返事をすればいいのか.....。 「ここは先々代が建てた屋敷で、僕で4代目になるそうです。まあ、今となっては何の価値もありませんけどね。」 そう云ったカレは、居間へと案内してくれると座布団を差し出す。 「名前、.....聞いてなかったけど。本庄、なに?」 「....雅也(まさや)。」 「俺は和人(かずと)。28歳だ。塾の講師をしている。」 「僕は建設会社の社員です。27歳。.....僕とあなたは半年違いですよ。」 「え?.....俺の事知っていたのか?」  驚いた。もしや、とは思ったが自分の事を知られていたのは想定外。誕生日まで知っていたなんて.....。 「この家の人は?.....あの、キミの母親とか。」 「アナタは何にも知らないんですねぇ。全くどれだけおめでたいんだか......」 また、あの目で云われて、流石の俺もムカついた。 「知る訳ねぇだろっ!あの日まで、俺の中の母親はずっと父と仲のいい夫婦で。突然姿を消して十年、何がなんだか分かんないまま暮らしてきたんだ!お前は知ってたってのかよ!?」  つい声を荒げてしまったが、感情を抑える事は出来なかった。 俺がこんなに声を荒げても、雅也はまるで関心がない様な態度でゆっくりと畳の上に腰を落とす。そして静かな笑みを浮べるとこう云った。 「知ってましたよ。祖父の葬儀の時にあなたの母親が来て、それ迄は噂でしか聞いた事がなかった人が目の前に現れて驚きました。」 「噂?.....俺の母親の?」 「そう、昔からこの界隈では有名な話。父とあなたの母親は兄妹ながらに仲が良すぎて、出来てる、って云われてたそうです。」 「ぇ?.........」 「父と僕の母との結婚が決まって、叔母さんは突然家を出た。でも、その後で尾道という男性と結婚したって聞いた祖父が会いに行ったそうです。その時には既に妊娠していて、ビックリしたって云ってました。でも、それは父との間に宿したあなただった。」 「.............」 「父は気付いていたんですよ。でもそのままにしていた。なのに、祖父の葬儀であなたの母親と会って、また昔の気持ちを思い出したんでしょう。っていうか、本当は僕の母なんて眼中になかった。」 「.........そんな、......そんな事。母さんは尾道の父を愛していた。俺たちは周りから見ても仲のいい家族だった。お前の父親がたぶらかしたんだろ?!」 「あなたの、和人さんの実の父親ですよ。たぶらかしたと云うんなら、そっちこそ。音信不通だったくせに、のこのこと現れて。財産でも貰えると思って出てきたんですかね。」 「ってめぇ!!よくもそんな事....」  勢い余って掴みかかろうとした俺をひょいとかわした雅也は、逆に手首を掴むと俺を畳に押し倒す。 「っくぅ......、離せ!」 「こう見えても僕、現場監督とかしてるんで力はあるんですよネ。建築現場じゃ優男は笑われるだけなんで、力があるって所は見せておかないと。」  苦痛に歪む俺の顔を上から見下ろすと、雅也はニヤリと笑った。

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