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第32話 同居決定か

「橋本さん、楽しい人だね。」  ポツリと雅也が俺に向かって云う。  カレーを食べながら、ほんの少し緊張が走る。橋本が俺の元カレだと話していなかったけど、なんか気付かれた? 「アイツ、大学の時からの付き合いで。金融関係の仕事の割にヒゲなんか生やしちゃってさ、ちょっと変わってるよな。まあ、楽しい男だけど.....」  橋本を褒めるのもなんか恥ずかしくて、そんな風に云ってしまうが、雅也は気に入っているみたいだった。 「橋本さん、部屋を探しているって云ってたけど、まだ資金が貯まらないから引っ越しは当分先なんじゃない?」 「ああ、多分な。......ああやって上司の付き合いとかしてたら金も掛かるだろうしな。全部奢って貰う訳じゃないし、貯金出来ているのか.......まあ、ここは部屋もあるし、居てくれてもいいけどな。」  俺は雅也に云った後で、この家で三人で暮らす想像をしてみた。 特に不都合はない様に思うし、雅也も一緒に住んでくれたら嬉しいと思っている。 「オレ、ここに住もうかな。」 「えっ?.....ホントに?」  考えると云っていた雅也が、突然ここに住むと言い出して驚いた。 「うん、......なんか、お世話になって悪いとは思うけど、人と一緒に暮らすって今まで考えた事なかったし、ひとりで静かな日々を過ごしてるのが当たり前だと思ってた。でも、楽しいよね。」  雅也の顔付きがパアッと明るくなった気がして、俺は心が躍った。 「そうだよ、楽しいって。......まあ、仕事がら時間帯がバラバラで顔を合わせる事は少ないのかもしれないけど、でも、ひとりじゃないって思ったら気も休まると思う。」 「そうだね。気配がするだけでも安心するかも。.....オレ、体調良くなったら荷物持って来ていい?身の回りの物だけ。」 「いいよ、いつでも持ってくれば。俺が車で取りに行ってやるし。」 「ありがとう。」  急に話がまとまって、凄くワクワクしてきた俺は、気分が良くなってカレーのお代わりをすると、その晩は腹がパンパンになって寝苦しい程だった。  雅也の熱中症も良くなって、朝になると一旦自宅に戻ると云うので俺は車で送って行く。  あの重厚な門構えが見えてくると、少し前のあの日を思い出した。 母親の事を知りたいと思って、ここを訪れた日。不機嫌極まりない顔で俺を睨みつけた雅也の顔。あの眼差しは今でも脳裏に焼き付いている。そして、力任せに倒されて、なんか......キスされた様な気がするが.....。そこはイマイチ思い出せなかった。 「和人さんの所に行くにしても、この家ももう少しなんとかしないといけないから。片付けたら行ける日を知らせます。」  雅也は、車を降りるとにこやかに笑って云った。 確かに、廃墟の様になったらそれは申し訳ない。維持するのも大変だろうが、そこは相談する親戚もいるだろうし。 「ああ、分かった。あんまり無理しないで。うちはいつでもオッケーだからさ。」 「はい、じゃあ、ありがとうございました。お世話になりました。」 「あ、うん。......じゃあ、また。」  雅也を残して車を走らせると、少しだけ寂しい様な、心に隙間が出来た様な気がした。  

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