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第9話

 小さな鬼は虫の居所が悪くなったように、ビュンと駆け出してその場を後にした。ハルヤにちょっと攻撃をしてみたが、予想していた反応と違って驚いたのだろう。  俺はキョトンとしたまま二人のやりとりをじっと見る。 「何諦めてんだよ!喧嘩の仕方教えてやるってこの間言ってただろ!死ぬなよ!」 「うん、でも、なんか呼ばれてる。死神に呼ばれてるんだ。もう無理、いかなくちゃ」 「ふざけんなよ!お前の事うざってぇって思った事も正直あったけど、でも何だかんだで後を追ってきてくれるお前をずっと気に入ってたんだよ!俺、ずっとお前のことが……っ」 「ゲホゲホッ!えっ、な、何? 俺の事が……ゲホゲホゲホッ!!何なの? ハッキリと言ってぇ……」  あ、ハルヤの目的はこれか。  俺はもう二人からは目を逸らし立ち上がった。凛音と視線を絡ませてから目を閉じ、濃厚なキスをする。それは人生で初めて……というか、桃太郎になってから初めて心から気持ちいいと思えた。今までの女はなんだったのってぐらい。 「……凛音とのキス、気持ちいい」 「ふふ。モモは昔もそう言っていた。変わらないな」  俺はすぐさまポケットからスマホを取り出し、「巨乳♡」「顔がタイプ♡」「エッチがパネェ♡」などとカテゴリー別に登録されている女達の連絡先を全て消去した。 「俺、決めた。凛音の為に働く。働いて、お前を幸せにしてやる」 「モモ……」 「帰ったら、結婚式を挙げよう。親父とお袋もきっと喜んでくれる。まずは俺が桃太郎としてどんな生活を送ってきたのか包み隠さず話すよ。ドン引きされると思うけど、凛音には全部知って欲しい」 「あぁ、聞こう。モモの話だったらいつまででも」  ハルヤと友流が互いの気持ちに素直になったようだ。犬猿の仲だったのになんだかいい感じになっていた。そのすぐ側で、俺は凛音といつまでもお喋りを続けた。  日が暮れたら鬼が帰ってきてしまうと言うので、その前に島を出ることにした。  何時間も待たされっぱなしだった雉は少々イラついていたので、持ってきた金塊を分けてやると少し機嫌が収まった。四人でその背中に乗って俺たちの住む村へ帰り、ハルヤと友流とは途中の道で別れた。 「あの二人も、恋仲になったのだな」 「と言ってもハルヤはまだ十四だからな。あともう少しだけ大人になったらそういう事もしようって友流は言ってたけど」 「……ぼくとは、すぐにでもそういう事をしてくれるか?」 「もちろん。帰ったら速攻」 「モモは昔よりも随分とエロくなったのだな」  ふふ、と笑みを零して、凛音と手を繋いだ。これから頑固親父に何て言おうかなーと思いながら。 ☆おしまい☆

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