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第8話
「……思い出したよ、凛音」
凛音は俺の髪を梳き、微笑した。
「あの時、忘れるなと言ったのはモモだったのに、すっかり忘れていたのだな」
「あぁごめん。凛音はずっと、俺のことを想っていたのか?」
「そうだ。毎日毎日、この鬼ヶ島でモモのことを想っていた。モモが胎児に戻って川に流された後、ぼくは天神様に魔法をかけられ、自力ではこの島から出られなくなった。『もしもモモが迎えに来てくれたのなら一緒にここを出るがいい』、そう言ったのだ」
「えぇ……ごめんね凛音。もっとはやく迎えにきてあげれたら」
「もういいのだ。こうやって会いにきてくれたのだから。今だったら他の鬼たちも仕事でこの島にいない。早く逃げよう」
咄嗟に俺の手を引いて走り出す凛音だったが、自らの長い髪の毛を踏みつけてしまい、顔から地面にビタンッと思いきり突っ込んでしまった。
「えー大丈夫? ていうかなんでそんな髪長いのさ。服もなんか女っぽいし」
「鬼たちの趣味だ。ここには男しかいないからな。女のように振る舞うと皆なぜか喜ぶ。しかしもうそれも終わりだ。この長い髪を切ってくれ」
まさか鬼たち、こいつを見て変なことしてたんじゃねーだろうなぁ、とちょっともやっとしながら、渡されたナイフで髪を肩ぐらいでザクザクと切ってやった。
と、その時、壁の向こうから大きな音がした。
「わぁぁ!」
「ハルヤッ!しっかりしろ!」
ハルヤの叫び声の後、友流の切羽詰まるような声が聞こえた。何事かと焦っていると、凛音は壁に手をかざして穴を開けた。そこから二人で向こう側に行くと、うつ伏せで倒れているハルヤの姿が目に入った。脇腹から血を流している。
二人の横には、頭のてっぺんに角を一本生やした男の子がいた。その体は小さく、五、六歳に見えた。その手の中には鉄砲のようなものが握られている。――まさか、それで撃たれたのか?!
「ハルヤッ!ハルヤ、目を開けろ!」
友流はハルヤの体を仰向けにし、揺さぶり続けている。ハルヤはぐったりとしたままだったが、しばらくしてからゆっくりと目蓋を持ち上げた。
「友流、ごめんね。友流の言う通りだったね。自分の身は自分で守れって」
「もう喋るな!今、医者に連れていくから」
「いいよ、そんなの。俺、何となく分かる。もうすぐ俺の命は終わるんだなって」
――俺のせいだ。
俺が安易に連れてきたりしたから。
悔やみきれずに膝から崩れ落ちて手をつくと、凛音も同じようにしゃがみこんで俺に耳打ちをした。
「いや、あれ嘘だと思う」
「は? 何が嘘なんだよ」
「あの小さな鬼は悪戯鬼なんだ。しょっちゅう大人をからかっている。あの鉄砲の中身はケチャップだ」
「へっ?」
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