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第7話
そうだ。凛音は鬼、俺は天界で大天使になる為に日々修行していた身だった。けれどある日、運悪く雲の狭間から地の果てまで落ちてしまい、助けてくれたのが凛音だった。その時はたしかお互い二十五歳くらい。俺は優しい凛音がすぐ好きになったが、これはしてはいけない恋愛なのだというのはお互いちゃんと分かっていた。けれど気持ちは止められなかった。
俺は天神様の目を盗んではしょっちゅう地の果てへ降りていき、逢い引きをしていた。
『今日も隣村の作物を荒らして、盗みもして来いって言われてさ。ぼく嫌だよ。鬼に産まれたからって鬼っぽく悪さしろだなんて。なんでやりたくもないことをしなくちゃならないんだろう』
『凛音は本当に優しいんだな。お前の方が俺なんかよりもよっぽど天使みたいだよ。凛音も早く天界に来られたらいいのに』
待ち合わせ場所の鬼ヶ島の暗い洞窟の中で、キスをしたりエッチをしたり。本当はフカフカのベッドのうえが良かったけれど、凛音と一緒にいれるのなら贅沢は言わない。ずっとこのまま二人でいられたらいいなと思っていた。
けれどある日、天神様にバレてしまった。
天界からしょっちゅう姿を消す俺を不審に思った神様に、こっそり後をつけられていたのだ。
『信じられん。モモランド、お前は破門だ。貴様は胎児からもう一度やり直すがいい』
まずい!と瞬時に思ったが遅かった。閃光が走り、俺はあっという間にオレンジ色の光に包まれる。するとみるみるうちに体が縮んで小さくなっていくのが分かった。
このままでは消される。そう思った俺は必死に目の前の凛音の手を掴んだ。凛音はボロボロと泣きながら俺にキスをした。
『モモ!消えてはダメだ!』
『凛音』
『安心しろ、殺しはしない。次は真っ当な人生を送れるようにチャンスを与えているだけだ』
神様は手のひらを天にかざし、そこから果物の桃を出した。そして実を割って、俺の体をフヨフヨと浮かした。
すでに五歳児程度の身体になっていた俺は、なんども凛音の名前を呼んだ。
『凛音っ、凛音っ』
『必ず迎えに来て。いつか、必ず』
必ず会いに来る。例え何が起ころうとも、お前の事は絶対に思い出す。だから俺は力強く頷いた。
『あぁ、行くよ。だから忘れるな、絶対に』
最後のキスをすると、凛音は口の端を上げてくれた。それを見て、大丈夫だと思ったんだ。俺たちは大丈夫。きっとまた会える。そう信じて、胎児になった俺は大きな桃の中に入った……
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