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第6話
「モモ!モモなのだな!」
女は俺に素早く抱きつくので、条件反射で俺も背中に手を回した。残念なことに大好きなふっくらおっぱいはなく、痩せすぎていて正直抱き心地が悪かったが、ここぞとばかりに肩口に鼻先を押し付けてすんすんと匂いを嗅ぐ。
いや、その前に。なぜこいつは俺の名前を知っているんだ?
問う間もなく女は続ける。
「やっと迎えに来てくれたのだな」
「ん、やっとって?」
「長かった……ずっと閉じ込められていたのだ。早くキスを。モモ」
妙に硬い言葉遣いをするなと思ったのも束の間、女は今度は目に涙を溜めて、強引にキスをせがんでくる。
いくら手を出すのは早い俺でも、訳も分からないうちに適当なキスはしたくない(謎のポリシー)。
俺はその子の溢れる涙を指先で拭ってやり、甘いマスクで囁いた。
「おいおい、随分と積極的なんだな。けどそんな強引な女も嫌いじゃないぜ」
「女?……まさかとは思っていたがモモ、やはりぼくの事を覚えていないのか……」
ふと見ると女は俯いて寂しそうな顔をしていた。自分を「ぼく」って言ったり、いろいろとツッコミどころ満載な人だなと思っていると、急に手を取られて女の股間に持っていかれる。
手の甲にゴリっと当たるものがあり……女には無いはずのイチモツがそこにあったのが布越しにハッキリと分かった。
「えっ……お前、男なの?」
「そうだ。ぼくは男で、名は凛音 。モモの昔の名前は、モモランド。昔、ぼくとモモは愛し合っていたのだ。もう十八年も前の話だが」
「はい?」
「きっと記憶が消されたのであろう。ぼくとモモは禁忌の愛を犯していたのだ。ぼくは鬼で、モモは天使だった。そなたの背中の肩甲骨に産まれた頃から二つ痣がないか?」
「えっ、あるある!桃の中で丸まっていたから蒙古斑みたいなものかなと思ってたけど、なんで知ってんの? ていうか天使って?」
「その痣は紛れもなく天使の羽があったという証拠だ。ぼくらが愛し合っている事に気付いた天神さまは烈火の如くお怒りになった。そしてそなたを胎児に戻してから桃に閉じ込め川に流し、ぼくと離れ離れにしたのだ。待っていろ、今記憶を呼び戻してやる」
凛音は俺の頭に手を乗せた。すると頭の中に映像が自然と流れてくる。昔の記憶だ。俺と凛音が出会った頃の記憶。
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