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第5話

 あんなに晴れていたと思っていた空は、いつのまにか薄曇りになっていた。島はまるで厚く黒い雲に覆われているようで、不気味な雰囲気を醸し出している。  雉に礼を言ってきび団子を一つ嘴に加えさせ、ここで待っているようにお願いをした。帰れなくなっては困るから。  地に足をつけ、霧がかった辺りを見渡す。友流は手首を鳴らしながら笑う。 「ここが鬼ヶ島かぁ。いかにも鬼がうじゃうじゃいそうって感じだよなぁ」 「友流、俺が攻撃されそうになったら絶対に守ってよ。俺、暴力とか嫌いだから」 「んな事と言ってるとすぐにやられるぞ。自分の身は自分で守れ」  注意深くしばらく歩いていたが、鬼どころか、生き物の気配を感じない。もしかしたら鬼がいるなんてのはガセで、無人島なのかもしれない。  洞窟を見つけたので、その中に入ってみた。暗かったのでジッポを頼りに奥へ進んでいく。  すると、暗闇の中で浮かび上がる一つの光の玉が見えた。近づいて行くとそれが何かすぐに分かった。金塊の山だ。目の前に立ちはだかるそれを見て、二人はテンションが最高潮になった。 「凄いよ桃ちゃんっ!これで一生暮らしていけるっ!」 「噂は本当だったんだね。まさかこれ程までとは……」  二人は服の中に金塊を詰め込めるだけ詰め込む。しかし俺は、それに手を出せずにいた。  何かがおかしい。うまく行き過ぎだ。普通はこういうところ、見張りとかいるもんじゃないのか? びっくりするくらいにすんなりたどり着いた。これじゃあいくらでも取り放題じゃないか。  訝しげに周りの石壁に手をあてて、何かないかと注意深く進んでいると、急に壁が凹んで前のめりになり、その中に体が吸い込まれてしまった。どうやら隠し扉のようなものだった。戻ろうと思っても中からは開かないらしく、石壁の向こう側から二人の声が聞こえてくる。 「桃ちゃん!大丈夫?!」 「桃太郎さんっ、無事ですか?!」  大丈夫だから落ち着け、と二人を安心させるために柔らかく言い、さっきの道に戻れる場所を探す為、辺りを見渡した。  するとこの島に来て初めて、気配を感じた。目を凝らして暗闇を見ると、ボウっと浮かび上がる人影。  だんだんと近づいてくるその人は、俺よりも体が小さい……女だった。オーガンジーの真っ白いロングドレスを見に纏い、黒髪が地面につくぐらいに長い。それだけで少々恐怖を覚える。もしかしてこの人が、絶世の美女……? 「あのぉー、ここって鬼ヶ島ですよね? 勝手に上陸しちゃってすいません。鬼とかっていない感じですか?」  あえてフランクな口調で接する俺。俯いていた女は少しずつ顔を上げて、俺と視線を絡ませてニッコリとする。  よく見たら、頭に二本の角が生えていた。鬼だ、とたじろぐが、女は笑っていた。そしてその笑い方にピンときて、誰なのかすぐに分かった。  俺の夢にしょっちゅう登場していた女だ。  何故夢の中の女が、ここに――?  

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