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第1話

桃太郎はかわいい。  色白のほっぺはうっすら桃色がのって、しっとりやわらか。お口はちっちゃいけど、唇はふっくらしてツヤっツヤのプリプリ。で、桃の花みたいな濃桃色。まん丸で真っ黒なお目々はいつも濡れたようにキラキラ光を映してる。睫毛も長くってパサパサ音がしそうだよ。隠れてるけど、小さなおしりだってまあるくてしりっぺたが薄桃色で桃にそっくりなんだ。  桃太郎はね、ばあちゃんが65歳の時の子供なんだ。ばあちゃんが川で巨大桃を拾ってね、それを食べたら、じいちゃんもばあちゃんもなんだが元気になっちゃってさ。ばあちゃんが桃太郎を産んだときは村中大騒ぎだったよ!  そんな桃太郎は、生まれた時からずーーーっと、食べごろの桃みたいなかわいさなんだ。 ばあちゃんが一生懸命ご飯を食べさせるけど、桃太郎はちっとも太らない。首も二の腕もほっそり、太ももや足首もキュッと締まって細い。おなかだって薄いまま。  じいちゃんが剣術を仕込もうと頑張ったけど、木刀の先がなかなか持ち上がらない。ようやく持ち上げても木刀に振り回されてる感じ。じいちゃんは筋肉ついてガッシリ体形なのに。細いばあちゃんに似ちゃったんだね。  水汲みに行けば桶が持ち上がらない。畑仕事で鍬を振り上げれば後ろにひっくり返る。もう、力仕事はどうにもならない。あまりの非力さに、桃太郎の真っ黒な濡れた瞳がウルウルしてあふれそうになる。ふにふにのモミジみたいなお手々は赤くなってヒリヒリして痛そう。励まそうと思って近くによれば、ふわりと熟れた桃みたいな甘い香りまでしてくる。 「ももたん! 桶、貸して貸して。持ったげるからね!」 「ももたん~!! 大丈夫かぁーーー!」 「お尻ぶたんかったか~?」 「手え見してみ。油塗っといてやろうなぁ。」  じいちゃんばあちゃんだけじゃない。となりのカヨさんも、向かいのシゲちゃんも、なんなら裏手のシノ婆だって、もう見ちゃいられない。桃太郎を見かければみんな寄ってたかって甘やかす。  それは桃太郎が大きくなっても変わらなかった。背はちょっと伸びたけど、相変わらずのスレンダー。小股の切れ上がった美人にみんなメロメロ。桃太郎は不甲斐なくて悔しがったけど、どうにもこうにも体は逞しくはならなかった。  桃太郎が15歳になるという頃、じいちゃんもばあちゃんも暗い顔してため息ばかりつくようになった。心労で胃は痛くなるし、夜も眠れない。  なぜって…  最近下されたご神託のせい。この何年か、海の向こうから鬼がやってきて、せっかくできた野菜を荒らしたり、年貢米を盗んだり。若い娘も連れ去られてしまったって。村人みんなが震えあがってる。  そんな鬼が住んでいる鬼ヶ島に、桃太郎を向かわせろっていうご神託が下されてしまった。じいちゃんもばあちゃんも、それだけは許してくださいって、村長さんや神託を受けた神主さまにお願いしに行った。けど、ダメだった。今、桃太郎を鬼ヶ島に向かわせないと、村に未来はないんだって… 「僕、みんなの役に立てるんなら鬼ヶ島に行きたいよ!」  じいちゃんばあちゃんは、桃太郎をこっそりよその土地に逃がそうとしたけれど…男仕事でどうにも役に立たないことを、実は結構気にしていた桃太郎。優しくしてくれた村のみんなに恩返ししたい!と鬼ヶ島に行くことにした。 (これでやっと役に立てるよ! ん~~なんかさ、なんでか分かんないけど、鬼ヶ島行くのあんまり怖くないんだよね~♪)  鬼退治なんかできる気が全くしなかったけど、なぜだか…鬼ヶ島に行きたい気分の桃太郎だった。

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