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第2話
鬼ヶ島に行ってみたーい。なんて桃太郎の気は知らず、じいちゃんは泣きたいのをこらえて、桃太郎に剣術や体術を教え込もうとする。走り込みと筋トレも一緒にする。ちょっと体力がついて受け身を取るのは上手くなったけど、ヒョロヒョロなのは相変わらず…剣術の腕は推して知るべし…
ばあちゃんは泣きながら出立のための衣装を縫った。神託に衣装の細かい仕様指定があったらしい。村長さんから見たことないような綺麗な布地が届けられた。
さて、いよいよ出立の日。ばあちゃんに鬼退治衣装を着つけてもらう。
「へっ? ばあちゃん、なにこれ…。なんで袖こんなに長いの?袴はなんか短いよ?素足? 脚絆とか無いのーー?」
袖は指の第2関節まで。袴の裾は膝上10cm。袴じゃないでしょう、これ。なんで生足?
「ももたん、ご神託で形が決められておってなぁ。その通り作ったんよ。」
「ご神託…変だよ!もう子供じゃないのに!」
膝小僧丸出し、すべすべのおみ足が丸出し。心許なくて膝をすり合わせてしまう。なんか腑に落ちないけど。ご神託なら仕方がない。観念して家から出ると見送りの村人が集まっていた。
「「「かっ、かっわいいぃぃぃ~~~」」」
「んブッ―」「ブフッ」「んぁ…」
あ、鼻血。あっちも。なんか、前かがみの人とかいるんですけど。
じいちゃんは泣きながら刀を差してくれた。重い。これ、桃太郎には抜けないと思う。
ばあちゃんは風呂敷を差し出した。
「これもご神託のとおり準備しただんごじゃ。」
ばあちゃん謹製のきびだんご。風呂敷包みを開いて中のだんごを見せてくれる。中には桃色と緑、2色のだんごが並んでいる。なんと、桃太郎が生まれるきっかけになった桃の食べ残しを乾燥させたものが入っているらしい。緑だんごには桃に付いていた葉っぱが、桃色だんごには果肉と皮が入っている。よくそんなもんとってあったなぁ。
「まずは、緑のだんご。鬼ヶ島に渡るまで、緑のだんごしか出しちゃぁいけん。これはな、ももたんが家来にしてやっても良い、という輩が現れたら食べさせるんじゃ。襲い掛かってくるような不埒な奴らにも食べさせて良い。」
「はぁ…。で、桃色のは?」
「こっちはな、最後の最後、ももたんが “こいつだ” と思った鬼と向き合ったときにな、ももたんが食べるんじゃと。」
「え…。僕が食べるの? 強くなったりするのかな…。それにさ、こいつだ!ってなんでわかるの?」
「ばあちゃんにも分からん。ご神託にそうあったんだと。ううう…」
最後はもう涙声だった。ばあちゃんとじいちゃんにぎゅっと抱きしめてもらって、桃太郎は出立した。船着き場まで見送るって言ってくれたけど、ばあちゃんが泣き崩れそうだったから家の前で見送ってもらった。
気持ちのいい陽気にスキップしたい気分だったけど、足はスースーするし、刀は重いし。家来を見つけないといけないらしいので、顔を引き締めて神妙な面持ちで歩く。
船着き場へ向かう道の先から、なにやら騒がしい声がする。
「…可愛いっていや、この村の桃太郎がクッソ可愛いって噂だぞ!」
「その辺の女とか目じゃないってな!」
「ヒヒヒ…攫ってきて手籠めにしちまいてぇな!」
(うっわ! 僕のこと? なんか下衆い人たちっぽい~隠れた方が良いかな。)
舟の方を窺っておろおろしてる間に、下衆いお兄さんたちと目が合っちゃいました。
(猿、犬、雉… さる、いぬ、きじ? だよね? なんか、ものすごいマッチョなんだけど。モッフモフのぶっとい首の上に猿と犬と雉の顔が付いてるーーーーきゃー獣人さんだ~~!)
初めての獣人さんとの出会いに、奴らが下衆い話してたのが頭から吹っ飛んで、つい、つい、着物から溢れるモフモフを熱い眼差しで見つめちゃった桃太郎。3人がすごい勢いで寄ってくるのに…
「も、ももも、モフっても良いですかーーー?じゃない! いや、やっぱいいですーーーー。」
「は? 何? うっわ!お前うまそうだな~なんか、いい匂いしねぇ? なんか持ってんの? 食い物?お前の匂い?」
犬獣人がスンスンと嗅ぎまわり、長い舌でぺろりと口の周りを舐める。
(体大きい~! 肩とか僕4人分?)
「脚がおいしそ~~すっべすべじゃん!」
(サル、触るな! 腕ごっついくせに手つきやらしい! この人は首ふっといな!)
急いで後ろに飛び退る。
「ん~穀物の臭い? いいもん持ってんなら俺にも分けてくんねぇかなぁ。その前にお前を味見しちまおうかな~。」
(嘴なのにニヤリってした! 何気に目が一番怖いのこいつだ…嘴も怖い~~。胸筋とか半端ないんだけど!)
顔の前で萌え袖になってる両手を合わせると、3人が頬を染めて包囲網を狭めてくる。
(三方から囲まれちゃったよーーー! ダメだ、ダメダメ。こいつらヤバい。目がぎらついてきた。顔寄せないで―――あ!)
「ちょ、ちょちょちょっと待ってね。これこれ!ばあちゃんの特製きびだんごあげる!はい、あーん!」
コテンと首をかしげてウルウルお目々で見上げながら、大急ぎで3つの口に緑のきびだんごを押し込んだ。
もっきゅ もっきゅ もっきゅ… ごくん。
とたんに、3匹の目がドロンと濁って、口がポカーンと開いた。涎、涎垂れてる~この団子大丈夫?
「だ、大丈夫ですかぁ~?」
返事はない。あ、もう襲ってこなさそう。せっかくだから家来になってもらおうかな。強そうだし。
「僕、桃太郎といいます。僕と一緒に鬼ヶ島に行ってくれる人~?」
一応誘う形にしよっと。あ、こくこくしてる。OKね。
「俺たちはぁ~・・・桃太郎しゃまの下僕です~~」
なんか、幸せそうだから良いことにしよう。
「よーし、付いて来いよ!」
号令をかけると3人は桃太郎の後ろからおとなしくヨタヨタ付いてくる。家来ってよりは酔っぱらいのおっさん連れてるとしか思えないけど。
船着き場で、準備してあった船に早速乗り込んだ。獣人さんたち、さすがマッチョ。櫂を漕ぐ手はめちゃくちゃ早くて、船は飛ぶように進む。波がガツンガツンとスゴい勢いで当たるものだから、桃太郎はすっかり船酔い。
「う・・・う、うぅ・・はぁはぁ・・・うぶっ――おえぇぇぇ――」
口を拭いながら3人を見ると手が止まってる。こっち見てなんか上気してるんだけど。目も心なしかギラつきが戻ってきてる?これはヤバイ――
「酔っちゃったからぁ・・早くして! ほら、これあげるから!」
桃太郎は急いで風呂敷包みから緑だんごを取り出し、3匹の口にムギュムギュムギュっと押し込む。とたんに、ギラギラしてた3匹の目がドローンと濁って焦点が定まらなくなった。ふぅ、危ない危ない…
無事、高速漕ぎが再開されて、あっという間に鬼ヶ島に漕ぎ着きました。
鬼ヶ島にも小さな船着き場があって、その正面に立派な屋敷が建っていた。たくさんの鬼が働いていて、ここが鬼たちの根城ってことでいいみたい。
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