3 / 4

第3話

「たのもーーー」  桃太郎の声変わり前ソプラノボイス。この体格だと永遠に声変わり来ないかもしれないけど。で、働いてた鬼たちが一斉に振り返る。 (うわー目がギラギラ。こっわーー)  内心ガクブルですが、そこは平静を装う桃太郎。しかも鬼たち、何気にイケメン率高い気がする。当たり前にマッチョです。 「鬼の大将さんいますか? お話があるんですけど!」  怖いので、船からは下りずに力いっぱい叫ぶだけにしておく。子鬼が1人、屋敷の中に走りこんでいく。桃太郎に釘付けの鬼たち、目がますますギラついてる。だんだん上気してきて、どの鬼のほっぺも桃色になってきた。わー青鬼も桃色になるんだ~!ていうか紫? 「皆さんにはお土産がありますよ!なんときびだんごです!めしあがれ~~」  ニッコリ微笑んで首をかしげると鬼たちがどよめきながら集まってくる。 「さあ!犬さん猿さん雉さん。このきびだんごを鬼たちの口に入れてください!」  風呂敷を広げると、桃色だんごは袂にしまって、緑だんごだけ山積みにした。  犬と猿は緑だんごをつかんでは投げ、つかんでは投げ、鬼たちの口にストライク投入。あまりの剛速球に「んがぐぐっ」って、だんごを飲み込んじゃう鬼もいるね。雉はマッチョ二の腕まで翼になってるから、空から鬼たちに緑だんごをお見舞い。船から影になってる鬼たちをフォロー。便利便利。  鬼屋敷の扉が開いて、わらわら出てきた鬼たちにも次々緑だんごをお見舞い。よくこんな怪しいもの食べてくれるね。食べ物だからつい口開けちゃうのかな?  そうこうしてるうちに緑だんごが効きだして、鬼たちは目がうつろになってきた。座り込んでるのや寝っ転がってるのもいる。宴会の翌朝みたい。 「ばあちゃん!緑だんごすごいよ!ありがとう!」  ばあちゃんに感謝をささげていると、扉にユラリ、と特大の影。鬼の大将だ!猿が投げた緑だんご剛速球が鬼大将の顔面に迫る。 ビシッ―――  鬼大将がだんごを手で払った!  扉から出てきた鬼大将の姿があらわになる。桃太郎の背丈の倍以上はある偉丈夫。赤銅色の肌、切れ長の金色の目、男らしい太眉に筋の通った立派な高い鼻。艶々の黒髪はカールしてるんだけどそれが頬や首元にかかってセクシー。この場の誰よりも大きく引き締まった体には、ガッチリ隆起した筋肉がついて、二の腕や大胸筋が衣の上からもわかるくらいパンパン。  ギンッと桃太郎と鬼大将の目が合ったとたん、二人の目線の間で火花が散った。  桃太郎は一瞬めまいを感じた。  ぶわっと一瞬で体温が上がる。  耳が熱い。  心臓が早鐘を打つ。  目が潤んで、唾が湧いてくる。  全身鳥肌。  後ろ髪が逆立って首が熱い。  項の一点が焼けるように熱くチリチリしてきた。 (何?なにこれっ!)  自分の吐く息が熱い。視界が金のチカチカで一杯。 「見つけたぞーーー!お前だ!お前が俺の運命だぁぁぁ~」  鬼大将の雄たけびが桃太郎のお腹を直撃する。なんか、なんか下腹が熱い…。ジクジクする…。桃太郎はふらふらと舳先へ。  ダンダンダンッ、ガズン あ、鬼大将階段踏み抜いた。お、くじけない。  ダダダダダダダダダダ…   駆寄る鬼に、桃太郎は舳先から手を差し伸べる。鬼大将は桃太郎の面前で急停止し、今度はゆっくりと、ゆっくりと桃太郎の脇に手を差し入れると、そっと優しく目線が合う高さまで持ち上げて船から引きあげた。  瞳を合わせることしばし、桃太郎の口から熱いため息が漏れる。 「はぅっ…」  目のチカチカがひどくなる。視界一面金色が広がって、その瞳に吸い込まれそう。ついに涙がこぼれ、なぜがどんどん唾が湧いてくる。目を見開いたまま、鬼の頬に手を伸ばす。 「結婚してくださいぃぃぃぃーーーーーーー」  叫んだのは鬼大将。桃太郎を掲げた手を伸ばしたまま、片膝をつく。桃太郎は鬼の手からぶら下がったまま、足がつかない。見つめあったまましばし茫然… 「ははは、はいっ!はいっ!お願いしますーーーーー♡」  桃太郎は抱きつきたくて手を伸ばし脚をばたつかせる。すると、鬼大将は壊れ物を触るように抱き寄せ、潰さないように、でもぎゅっと桃太郎を囲い抱きしめた。桃太郎が鬼の太い首に顔をうずめると、鼓動がすごい伝わってくる。大きいし早いし。一緒にドキドキしちゃう。 「かかか、かっこいい~~~~~~~」 「かかか、かわゆ・・・・・・くぅー」  もう一度見上げると、目線が外せない。頭がのぼせてゆだりそう。と、もうほとんど働いていない頭の隅でかろうじて思い出した。ゴソゴソ・・・・目線を外さないまま袂から取り出したそれは、桃色のだんご。桃太郎はぱくりとそれを口に入れた。  そのとたん――  項が爆発した?ってくらい、桃太郎の項から濃厚な甘い香りが広がった。完熟桃が降り注いでいるような…。ああ、目のチカチカが止まらない。意識が霞む。桃太郎の視界がゆがんできたその時、鬼の大きな厚い熱い唇が桃太郎の口を覆った。  桃太郎の記憶はそこまで――

ともだちにシェアしよう!