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第4話
桃太郎と鬼大将が屋敷の奥にこもった後…
あてられた家来の鬼たちとイヌ・サル・キジの3人は、死屍累々と屋敷前に転がっていた。緑だんごの効き目はだんだんと薄れてきたが、桃太郎の甘ったるいフェロモンと鬼大将の威圧フェロモンに翻弄されてみんなぺしゃんこだ。体が重いし目が回る。なんか、疲れた。屋敷の中からはずーっとなんか聞こえてくるし。ギシギシギシギシうるさい…床抜けるんじゃ?喘ぎとか甘い悲鳴とか途切れませんけど…みんなうずくまったまま、しばらく立てなかった。
たっぷり3日経ったころ、鬼大将がようやく奥の部屋から現れた。
ちょっとけだるい雰囲気。鬼ヶ島に湧き出る温泉に浸かってきたのだろう。水滴を滴らせる鬼大将の真っ黒うねり強めヘアーがセクシー。赤銅色の頬もつやつやして満ち足りた感じ。
開いた扉からは充満していた空気が流れ出てきた。桃の100%ジュースみたいに濃厚な空気。またあてられそうになる。
さらに半日経ってから、鬼大将に抱えられて現れた桃太郎の項には大きな咬み痕が付いていた。桃太郎は着替えなんか持ってきてないから、鬼大将のぶっかぶかの衣にくるまれてる。
「ももちゃん~、お腹すいただろう。」
鬼大将の目じりは下がりっぱなしだ。蜂蜜みたいに甘い声を耳に吹き込まれて桃太郎はぶるっと震えた。それを振り切るようにふるふると頭を振る。
「大将(ひろまさ)くん…あのね、お話があるの。」
桃太郎がウルウルのお目々で見上げれば、大将君はつい。
「んちゅーーーーーーーぅぅぅ」
「ぷはっ、違うーーーー!聞いてほしいのーーーーー!」
大将君の両頬に手を押し当てて怒っても、バッキバキの大胸筋をポカポカしても、大将君のニヤニヤは止まらない。
「ごめんごめん~~ももちゃん何なに?」
桃太郎を膝の上に抱えるように座らせて、やっと話を聞く姿勢になる。それでも桃太郎のほっぺや唇、髪の毛なんかをさわさわとしつこくいじるので、桃太郎に手を叩き落とされてた。
桃太郎は村のことを話した。どうやら全部が鬼たちのせいではなかったようだが、大将君は平謝り。
鬼ヶ島は溶岩でできた割と新しい島だから米も野菜も作るのが難しいんだって。だからって盗むのはよくないよね。でも、島が陸地から離れた沖にあるから、獲れる魚のサイズは段違いに大きい。潜れば珊瑚や真珠もとれるんだって!
「う~ん、村ではいっつも小さい魚しか食べられなかったんだよね~…よしっ!」
桃太郎は、鬼ヶ島産大物海産物や海藻を鬼の速舟で新鮮なまま村に届けたら、米や野菜と物々交換してもらえるんじゃないかなって提案した。
ちなみに、攫われた娘さんたちは鬼の家来たちと結婚してた。嫌だっていう子は村に返してあげてって、桃太郎は言ったけど、帰るっていう子は一人もいなかった。鬼ってさ、けっこうイケメン揃いなんだよね。まあ、マッチョだし。しかもさ、暑苦しいの。愛情表現が!
「愛してる」 とか
「もう離さない」 とか
「一生お前だけだ」 とか
「愛しくて食べてしまいたい」(え、本気?)とか。
暑苦しくってうるさい。好きな子には珊瑚や真珠プレゼントしたり、姫抱っこも普通にするしね。村の男はもちろんそんなこと言わないし、プレゼントっていったら木彫りとか食べ物くらいかな。言われ慣れてないこと言われて、甘やかしてもらって、娘たちものぼせちゃったわけ。
「まあ、仲良くやってるんなら許すけどさ、攫うのはダメ、絶対!ちゃんとプロポーズして連れてきなよ!親御さんにもあいさつして!大将くんはちゃんとプロポーズしてくれたもんねっ!」
桃太郎が振り返れば、
「分かったか野郎ども!今後人間の村に無体を働くような奴ぁ、俺が、許さねぇ!」
響き渡る大将君のバリトンボイスに、桃太郎の背筋はゾクゾクと震えてしまう。桃太郎はへにゃっと笑み崩れて、つい、ほっぺにキスをしてしまう。
「大将くんかっこいい~~~むちゅ。代わりにみんなには合コン設定したげるからね~~。」
「くぅ、ももちゃん!ちゅぅぅぅ~~~~」
桃太郎はまた屋敷の奥に連れ込まれていった。家来たちは奥の部屋に生温かい視線を送ったが、とりあえずは合コンを楽しみに、片づけを進めることにした。
桃太郎が鬼たちを村に連れ帰ると、村人たちは怯え逃げ惑った。でも、桃太郎の一声で鬼大将を筆頭に全鬼が正座で畏まるのを見て、おそるおそるではあるけれど、村人たちも次第に集まって来た。
そんなこんなで、鬼と人間との交易は順調に進んでいる。珊瑚や真珠なんかはかなり高値で売れるので、村も鬼ヶ島も潤ってきて豊かだ。
鬼漕ぎ渡船なら鬼ヶ島―村間は10分だから、気軽に行き来できるようになった。鬼ヶ島の温泉は人間にもちょっとしたブームになっている。
鬼たちは橋を作ったり家を建てたり、農作業だって手伝って、村人にとても喜ばれてる。ちゃんと賃金も貰ってるからウィンウィンの関係だ!
畑を荒らす獣は鬼がすぐに狩ってくれるし、盗賊は噂を聞きつけて近寄ってこないから、本当に安全な村になった。
鬼ヶ島に嫁入りした娘たちだって、今では自由に里帰りできる。寂しがってた親たちも大喜びだ。一時期、村娘がみんな鬼ヶ島に嫁いでしまって、村の男たちはかわいそうだったんだけど、村が栄えるにつれて他所の村からのお嫁さんがたくさん来るようになった。
ちなみに、猿、犬、雉獣人の3人は鬼ヶ島でアマゾネス風鬼っ娘と結婚して幸せに暮らしてる。角がある青い犬耳っ子とか、もふもふの猿面鬼くんとか、バラエティ豊かな子供たちと楽しく暮らしてる。鬼嫁の尻に敷かれてるみたいだけどね!
こうして、桃太郎の村と鬼ヶ島は大いに栄えて、じいちゃんばあちゃんも末永く豊かに楽しく暮らしましたとさ…
――じいちゃんばあちゃんも楽しく暮らしたって? 桃太郎が鬼大将に嫁入りしちゃったのに?
実はね、桃太郎はオメガっていって、男だけど子供を産むことができる体だったんだ。大将君は最上位アルファ。鬼ヶ島の鬼はアルファが多いみたい。村人はみんなベータだって。桃太郎が生まれるきっかけになった桃は、葉っぱには強い抑制成分、果肉には発情を促す成分が含まれてるんだって大将君が教えてくれた。
二人は運命の番で相性最高。子供がどんどん生まれて今では大家族!ちょっと大きくなった二人の子供の中には、村で暮らす子もいて、力が強くてやんちゃもするけどよく働くから超モテモテ。桃太郎は村にまめに様子を見に来るし、じいちゃんばあちゃんの周りはいつも笑い声が絶えなかったって!
だから、めでたしめでたし!
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