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第100話 君へと続く場所③
「その者を……寄越せ……」
横柄な男が康太を睨み付けて脅すように言い捨てた
康太に躙り寄る存在に……
榊原は康太を隠す様に前に出た
「ダンピール……ですか?」
榊原が問い掛ける
「だろ?」
男はイラッとして
「背中の奴を出せ!」と脅した声で叫んだ
「お前、ダンピールか?」
「だったら何だ?
狩られたくなくば、そいつを渡せ!」
ダンピールは康太に告げた
「嫌だと……言ったら?」
「お前達も……同属とみなして……狩る!」
ダンピールは康太に剣を向けた
「伊織……ダンピールの苦手なものって、あんだよ?」
「………吸血鬼と人間の混血でしたね……
だけど、ダンピールは吸血鬼じゃないから
にんにくも……朝日も平気なんですよね?」
「………だな……困ったな……」
「………ガタガタ煩い!」
ダンピールは康太に剣を突き刺そうとした
榊原は剣を……素手で……掴んだ
「僕の康太に剣を向けないで下さい!」
榊原は怒っていた
康太も怒っていた
愛する榊原の手を見て……血が出ていたから……
「………オレの青龍に傷をつけやがって……」
康太の体躯が……赤く燃え上がった
「………お前は……何者なんだ!」
ダンピールが怯えた瞳で康太を見た
「オレか?オレは飛鳥井康太だ!」
「………人じゃねぇだろ?……」
「さぁな……ダンピール協会とは知らない仲じゃねぇ……
でも……殲滅(せんめつ)理由も述べず狩るってぇのは……解せねぇな」
「殲滅理由は第一級ヴァンパイアだからだ!」
「殲滅に値する殺戮は……
出てねぇのに第一級ヴァンパイアだって言うのか?」
康太はダンピールの前に立った
「オレの昇華は、お前らダンピールでも例外じゃねぇんだぜ?
こいつに手を出すなら、オレはお前を昇華するしかねぇ!」
「………上からの命令だ……お前の言う事なんて聞けない!」
「カリウス・アマーリエ・フォン・ヘッセン=トランシルバニア公爵を狩れなんて……
聞いた事がねぇぞ?」
「…………お前は一体………」
何者だ?
聞こうとしたダンピールが動きを止めた
「……誰の命令で動いてる?言え!」
康太は男の胸倉を掴んで、瞳を射抜いた
「………目(サガン)恭輔!」
男が苦し紛れに言い放つと……
「私は……命令など出してはおりませんよ?
だとしたら……その命令は何処から出たのですか?」
闇から漆黒の髪を綺麗に後ろに撫でつけ、燕尾服を着た男が姿を現した
姿を目にした瞬間……捕らえられた男は顔色をなくした
「目 恭輔は私一人しかいないと想っていました
他にもいるのですね?」
皮肉に笑われ……男は何も言えなくなった
「…………目(さがん)恭輔……」
康太は闇に融ける様に立っている男の名前を呼んだ
「炎帝様……お手数を掛けました
こうして貴方の前に本体で姿を現すのは久しぶりに御座います」
「………あぁ……1000年ぶりか?」
「…………何故……貴方様が……ダンピールの狩りに……関与されてるのですか?」
経緯を知っていて目は……敢えて問い掛けた
「街を血で染める強引なダンピールのやり方に腹が立ってんだよ
人を死に追いやるウァンパィアはいねぇのに?
殲滅してる理由を聞こうとしてな
ダンピール協会は無害なウァンパィアの殲滅に乗り出したのか……
と思っただけだ……他意はねぇよ!」
「………ダンピール協会は代替わりを致しました……」
「代替わりをしたら殲滅レベルに達してねぇのまで狩れとお達しがあったのかよ?
しかも日本は目、おめぇが仕切ってるじゃねぇのかよ?」
「………我の力も……薄れました……」
「目、おめぇの力が薄れるのは勝手だ
だが、オレの目の前で好き勝手やるなら話は別だ!
オレはウァンパィアの方に手を貸すぜ?
そしたらダンピール協会はオレを敵に回すって事だな!」
康太はそう言い嗤った
目は……何も言えなかった
「………貴方が出たら………ダンピールは全部殲滅してしまいます……」
「知るかよ!
ウァンパィアとダンピールは暗黙の協定がある筈だ
全部は殲滅しねぇと言う約束事があった筈だ
なのに……オレの住む街を血で汚しやがって………
無差別に殲滅してるのはどっちだか解らねぇなら……
解らしてやるしかねぇじゃねぇかよ?」
「………ダンピール協会は……貴方様を敵に回したという事ですか?」
「だと言う事だな!」
康太は唇の端を皮肉に吊り上げて嗤った
「カリウス・アマーリエ・フォン・ヘッセン=トランシルバニア公爵は貰っていく
欲しければ、正式に申し立てをしろ!
後、この先オレの住む街を血で染めやがったら……
それなりの報復を覚悟しろと……伝えておけ!」
「………伝えておきます……」
「ダンピール協会は今一度、見直しが必要だな……
殲滅レベルに達しねぇウァンパィアを狩る以上は………
それなりの理由を聞かして貰わねぇとな…
日本の地で、体内の血を一滴残らず吸い尽くされて死んだ遺体はねぇ筈だぜ?
なのに何故殲滅されまくってるのか……
罪もねぇウァンパィアを殲滅する以上は……
そっちも覚悟を決めねぇとな……」
「…………炎帝様……我の力も薄れました……
このまま……消えてなくなる前に…貴方と出逢えて良かった……
ダンピール協会の行く末を不安視しておりました……」
「軌道修正はオレの務めだ
曲がって逝くならば……正さねぇとな……」
目は深々と頭を下げた
康太はヴァンパイアを掴んで歩き出した
榊原は康太を護る様に歩き出した
「オレの青龍を傷付けたんだからな……
オレは怒り心頭に発てる事を忘れるな!」
「しかと……伝えておきます……」
「オレと逢った時点で始めまりの序章の幕は切って落とされた
始まりの序章は……始まったと思え」
そう言い捨てて……
康太は榊原と共に……去っていった
目は……ダンピールの男を殴り付けた
「………しくじったな……
殲滅に値せぬヴァンパイアに手をかけたと言う事は………どう言う事なのか聞かせて貰おうか?」
「貴方の指示になど従うつもりはない……
老兵は去ると良い!
我等ダンピール協会は生まれ変わったのだ」
「………お前達は……一番敵に回してはならぬ者を……敵に回した……」
「どの程度の人間か知らないが……
我等ダンピールの敵になどなりはせぬ」
ダンピールの男はそう言い闇に消えた
目は……
滅び行く……
ダンピール協会を想った……
あの方が出て来るなら……
…………多くのダンピールが消えて……逝くしかないだろう……
この世で一番敵に回してはならぬ存在を……
敵に回したのだから……
これは始まりの序章の幕が上がったに過ぎない………
一人のヴァンパイアが………
ダンピールと契った……
ダンピールとヴァンパイアは決して契ってはならぬ存在
その均衡を崩した……
ダンピールの威厳と尊厳を護る為に……
ヴァンパイアの殲滅の強化をした
狂い逝くダンピール協会に為す術もなく…目は……
見ているしか出来なかった………
炎帝様……
トランシルバニア公爵を連れ去れば……
運命は動き始めます……
炎帝様……巻き込んでしまいましたね……
貴方に……降り注ぐ災難を……
防ぐ為に……
私の命は貴方に託します……
賽は投げられた
開演の幕は上がった
目は………自分に出来る事をしようと動いた……
ヴァンパイアを連れて車に乗せた康太は……
「………始まりの序章の幕が上がった……
これから……トランシルバニア公爵を消さんとダンピール協会は躍起になって来るな……」
「道理に添わないのは……あちらの方です
来るなら……叩き潰すだけです……」
「………伊織……手は?
手の傷は……どうなった?」
榊原は康太に掌を見せた
掌は刀傷がついて血を流していた
「………病院に行きます」
榊原は……そうしなきゃ康太は納得しないだろう
「………無茶……しやがって!」
「君を傷付ける者は……何人たりとも許してはおきません!」
康太は榊原に抱き着いた……
「康太、この者は……どうします?」
「このヴァンパイアはダンピールと契って血は飲めねぇからな……
スワンに預けようと想う……」
「………血が飲めないのですか?
ヴァンパイアなのに?」
「由緒正しきトランシルバニア家のヴァンパイアは元は龍だったのを……知ってるか?」
「…………知りません……」
「ドラキュラはルーマニア語で「竜の息子」って意味がある
龍の血が受け継がれていなければ……
何千年も生きちゃいねぇだろ?」
「………では龍である我等一族と遠からず関係があると言う事ですね?」
「だな?トランシルバニア家はその最たる血脈を受け継いでる一族だ」
「………では……ダンピールと全面戦争……しかありませんね?」
「………このヴァンパイアとダンピールは……
惹かれ合い……愛し合った……
それ故に……互いの体躯に……支障をきたしている……
ダンピールは……吸血鬼と交わったせいで本来の力を失い……免疫を失った
免疫を失ったって事はちょっとした傷でさえ命取りと謂う事だ
ヴァンパイアの方は……交えた者以外の血は飲めなくなった……
こっちも食事が取れねぇって謂う事で危機だな
カリウスは愛するダンピール……廉に狩られる事を望んでる
廉は……カリウスを狩らないで良い方法を模索して……ダンピール協会から護ろうとしてる……」
「………恋人を護ろうとして……
互いを思い遣ってるのですね……」
榊原は哀しそうに……呟いた
カリウスは「………何故……それを……」と呟いた
「カリウス……お前の親父に逢いに行った事がある
覚えてねぇか?」
「…………人間なら……死んでるよね?」
「オレは幾度となく転生してる存在だ……
………愛してるのか?ダンピールを?」
「………僕は……誇り高きヴァンパイアだ……
ダンピールなど愛してはおらぬ……」
「誇り高きヴァンパイアの癖に……血を吸えねぇんだよな?」
カリウスはそっぽを向いた……
「……僕は……廉に狩られたいだけだ……
他のダンピールになど……狩られたくなどない……」
「……種族は違っても……愛する心は止められねぇ……」
「………君には……解らないよ……」
「そうでもねぇぜ?
青龍に惚れて……種族を超えたかんな……」
‥‥‥言い逃れが出来ない状況で‥‥少しだけ心の内を吐露する
「………炎帝……僕は……廉の手にかかれるなら……喜んで狩られるつもりなんだ……」
「少し眠れ……」
康太は振り返り……カリウスの瞳を貫いた
カリウスは……突然……睡魔に襲われて……眠りに落ちた
「……伊織……逝くしかねぇな……」
「……ええ……僕の奥さんは愛し合う恋人同士には寛容ですからね……」
「………種族を……超えたら……愛せねぇなんて……誰が決めたんだよ?」
「……愛する心は……誰にも止められません……」
「青龍……愛してる
オレの蒼い龍……」
「炎帝、愛してます
未来永劫、愛するのは君だけです」
康太は……榊原の怪我した掌に口吻けた
闇に熔ける……
闇に生き蠢き……
虎視眈々と狙ってる
始まりの序章は幕を開けたばかりだった
「康太……何があろうとも僕は君の所へ還ります」
「オレも……お前の所へ還る……」
覚悟を決める恋人達は何時も願っていた
絶対離れたくないと……想っていた
飛鳥井康太の逝く道を絶対に邪魔はしない
共に逝く事だけしか願ってはいない
「僕は君さえいれば良い」
「オレも……お前さえいれば良い」
覚悟を決めて一歩踏み出す
物語はまだ始まったばかりだ
逝かねばならぬ物語はまだ幕が上がったばかりだった
逝こう
共に逝こう
「逝くぜ!
オレから目を離すんじゃねぇぞ!」
逝こう
君に還る場所へ
END
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