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第99話 君へと続く場所②

康太は駐車場までゆくと病院を振り返った 「………もって……3日……か?」 康太は呟いた 『佐伯朗人の魂は我が黄泉まで導く…… 康太……定めだ……悲しむでない……』 紫雲龍騎の声が優しく康太に纏わり付いた 榊原は康太を優しく抱き締めた 慎一がバスを運転して来ると、康太は榊原に抱き上げられて乗り込んだ バスの座席に勝手に座ると、康太を膝の上に乗せて抱き締めた 一生や兵藤は何も言えなかった 慎一はバスを走らせた 兵藤は「美緒を動かして葬儀は取り仕切る」と康太に告げた 「………貴史……それはしなくて良い……」 「………お前が苦しむなら……何でもしてやりてぇ……」 「佐伯の事は一人娘の明日菜がやる…… 最期なんだ……やらせてやらねぇとな」 そうか……親子の別離なのだ…… 兵藤は理解した 「なら手がいる時は……言え……」 「手はいるに決まってるやんか! 怪我人ばっかし抱えてる現状を考えたら手は足らねぇよ! ったく、見張ってねぇとならねぇヤツばっかしやんか!」 康太はボヤいた バスは東京都内へと入っていき…… 東京とは想えない鬱蒼とした森みたいな場所を突っ切って行く 康太は兵藤に手を出すと、兵藤は自分の携帯を取り出し乗せた 康太は何処かへ電話を入れた 「綺麗、あと少しで着く 外の駐車場まで連れてきてくれ」 『解った!』 綺麗はそう言うと電話を切った 康太は兵藤に携帯を返した 慎一が駐車場に車を停めると、綺麗が待ち構えていた 綺麗の横には……子供達がいた バスから下りると子供達は康太に気が付いて叫んだ 流生が「かぁちゃ!」と叫んで走りだした 康太はしゃがんで子供達を待った 康太の腕めがけて子供達が飛び込んで来た 康太は子供達を抱き締めた 「「「「「かぁちゃ」」」」」 榊原もしゃがんで子供達を抱き締めた 「「「「「とぅちゃ!」」」」 榊原は我が子を抱き締めた 強く…… 強く……抱き締めた 流生は「かじゅ ちんいち ひょーろーきゅん!」と叫んだ 兵藤の足に抱き着くと、兵藤は流生を抱き上げた 「流生、元気だったか?」 兵藤が言うと流生はニコッと笑って 「あい!」と返事した 子供達は泣いていた 「綺麗…悪かったな……」 「我は飛鳥井の一族の者 飛鳥井を名乗らずとも我の体の中には飛鳥井の血が流れておる 一族の者は何としてでも飛鳥井家真贋の為に動く だから気にせぬともよい」 「………太陽と大空は……力持ち……だったろ?」 「結びつきがこれ程に強い双子は見た事がない…… 色々と驚かされたりした 良い経験だった、ありがとう康太」 「ならな……綺麗……」 「………康太……もうお主の耳に入っているだろうか……」 「ひょっとして……血を全部抜かれた変死体の事か?」 「………あぁ……耳に入っていたなら良い……」 「闇と光のバランスが崩壊したからな…… ある意味……狂った世界が……人の世に及ぼした影響は計り知れねぇかもな……」 「………調査を依頼された…… 内閣情報調査室辺りが動き出した……」 「………なら……目(さがん)辺りが動いてる筈だな……」 「………闇に隠れて……見ているであろう…… 目とて……異例の事態であろう…… あの世界は……先頃……大々的な人事異動があったとか……」 「………人事異動? ……総てがきな臭いな……」 「………実態のない……闇だからな…… きな臭くても仕方がなかろう……」 「だな、お前が動くなら…… オレも動こう!」 「また連絡入れる」 「あぁ、今回は本当に助かった ありがとう綺麗!」 綺麗は嬉しそうにニコッと微笑んだ 康太は子ども達とバスに乗り込んだ バスの座席に座るとバスは走り出した 綺麗はずっと……バスを見送っていた 願わくば…… 康太……貴方の進む先が光に満ちあふれています様に…… 綺麗は祈った やっと出会えた我が子を手にして…… 微笑む康太を……悲しめたら…… 許さないんだから…… 綺麗は瞳を瞑った 走り出したバスの中で子ども達は、はしゃいでいた 康太や榊原、慎一や一生、そして兵藤に抱き着いて離れなかった 「明日から保育園に行くんだぞ? 四月からは幼稚舎に入学だ!」 流生は「かぁちゃ おにゃきゃへっちゃ!」とお腹を叩いた 一生が「ファミレス寄ってくか?」と尋ねた 「一生、オレは行く所がある 子ども達をファミレスに連れて行ってくれねぇか?」 「何処に行くんだよ?」 「遼一の様子を見に行かねぇとな」 九頭竜遼一は飛鳥井の病院にいなかったな……と一生は思い浮かべた 「遼一の容態はどうなんだよ?」 「解らねぇからな……見に行くんだ」 「……何処で下ろせば良い?」 「飛鳥井の家まで頼む そしたら伊織と共に病院へ向かう」 一生は「了解!」と告げた バスは飛鳥井の家へと向かった やっと子ども達と逢えたけど…… 問題はまだ終わっちゃいなかった 淋しがる子ども達と離れて、康太と榊原はバスから下りた バスは何時ものファミレスへ向けて走り出した 榊原は康太を促して地下駐車場へと向かった 地下駐車場へ行きベンツに乗り込むと、車を走らせた 「遼一の病院で良いんでしたね」 「あぁ……悪いな伊織…」 榊原は康太を引き寄せると口吻けを落とした 「君は何一つ気にしなくて大丈夫です」 強く抱き締めて、エンジンをかけた そして地下駐車場を出ると病院へと向かった 九頭竜遼一は東京都内の病院にいた バイクを路肩に停めて康太と話している最中に拉致られて暴行を受けた所為か…… 腕をやられ……下手したら二度と……建築に携わる仕事は出来ないかも知れない…… それ程の重体だった 神経を繋げるオペに耐えて 血の滲むリハビリをやり過ごし 九頭竜遼一は仕事復帰する日を夢見て…… 頑張っていた 病院の駐車場に車を停めると、病院の中へと向かった この時間はリハビリ施設にいるだろうと踏んで、リハビリ施設へと向かう 遼一は歯を食いしばって……リハビリをしていた 誰よりも……真摯に自分の病気と向かい合っていた 「遼一」 声をかけると遼一は振り返った 「康太!そして伊織さんも!」 喜んで笑顔を向ける 「退院、決まったって?」 その問いに遼一は表情を翳らせて 「………退院したって……この手は使えねぇ…… そしたらお前の役にも立てねぇし…… 真人の……木瀬真人の……引くビルも建てられねぇなら…… 俺は……アイツの傍にいる価値もねぇ……」 半ば……自暴自棄になって言い放った 康太は遼一を殴った 遼一は吹っ飛び……壁に飛ばされて……体躯を壁に打ち付けた 「何で殴られたか……解るか?」 「………すまねぇ……お前に手を上げさせた」 「飛鳥井の病院に転院する手続きを取る おめぇの面倒を見る為に木瀬は休暇を取っていた 一緒に過ごしたらどうだ? 飛鳥井の個室を取ってやるから、お前は時間が許す限り話し合った方がよさそうだな」 「………ごめん……康太……」 「木瀬はオレに言ったぜ 遼一が生きていてくれたらそれで良い……って 怪我で思い通りに行かねぇのは……仕方がねぇよ 北斗もオペして入院していた オペの後、無理して悪化させて……寝たきりになっていた時もある 焦る想いは幾つになっても変わらねぇ…… でも一人じゃねぇなら立っていられるだろ? 遼一、おめぇは一人じゃねぇ! おめぇを治してやりてぇと久遠が言ってくれた 木瀬も言ってくれた オレも伊織も……仲間も家族もそう想っている お前を支えてやるかんな……焦らずに治せ そしたら元に戻る……絶対に治してやる! だからお前は……オレの傍に来い」 「………康太……」 康太は遼一を抱き締めて撫でた 遼一は康太の胸に顔を埋めて…泣いた 「………手が使えねぇ自分は……何処へも行けねぇと想ってた…… お前の役に立てねぇ…… 真人の役にも立てねぇ…… そんな自分は不要だと想ってた…… そしたら俺は……何もかもなくす…… 何もかもなくした自分なんて想像もつかなかった… 康太……俺は……お前に……護られて生きていたんだな お前の傍に行けねぇと思ったら……涙が止まらなかった…… 先が見えなくて……とにかく……治さねぇと…… そればかり考えていた……」 「何も心配するな遼一 オレはおめぇの傍にいる おめぇは……これからもオレの懐刀なのは間違いねぇ……オレの大切な駒だろ?遼一」 「………康太………康太………」 遼一は泣いていた 肩を震わせて泣いていた その肩を優しく抱き締めて……康太は 「これから転院する、良いな?」 康太が言うと遼一は何度も頷いた 榊原は精算をして戻って来ると、遼一の病室へと向かった 遼一は自分の足で歩いていた もう…迷ったりしていなかった 遼一の荷物を纏めると、康太は携帯を取りだした 「これから飛鳥井の病院へ向かうかんな 個室は取れたのかよ?」 『久遠先生には真贋が連絡入れて下さっていたから、病院に行ったら既に個室は用意してありました』 康太は遼一に携帯を渡した 「………え?……」 「出ろよ…」 「……もしもし……」 遼一は電話に話しかけた 『……遼一……』 電話の相手は木瀬だった 「……真人?」 『遅くなったけど付き添うからね 仕事は全部仕上げたから……やっと遼一に付き添える』 木瀬は会社に迷惑をかけたくなかったから…… 抱えていた仕事を全部、仕上げていた そして仕事を仕上げたら遼一に付き添うつもりで仕事をしていたのだ 逢えないのは見切られた訳じゃなかった…… 遼一は泣いていた 『……遼一……どうしたの?痛いの?』 電話の向こうで木瀬は慌てていた 「……真人……逢いたい……」 『ごめんね……本当は着いていたかったんだ でもね仕事を終えないと付き添えなかった 途中で仕事に行きたくないからね…… 傍にいるなら……お前が復帰できるまで傍にいたいから……ケジメをつけた』 遼一が仕事に復帰出来ないなら…… 自分も飛鳥井には戻らない覚悟だった 覚悟の程が……解って……遼一は泣いていた 「……真人はもう……俺なんて要らないと想っていた…… お前の引くビルを建てられない男なんて……要らないんだと想っていた……」 『僕の覚悟を甘く見てくれましたね 君が飛鳥井に戻れないなら……僕が君を食わせてやります そのために相賀さんにも逢って来た 君の手が治らなかったら……役者に戻ると言ったら快諾してくれました 君が飛鳥井に戻らないなら……僕も戻らない 君と共にいる覚悟しか……僕にはないのに…』 「……ごめん真人……」 『君は一人にするとろくな事を考えないと解りました もう絶対に離れてあげません! 覚悟しておきなさい!』 遼一は鼻を啜りながら…… 「……うん……うん……真人……」 と子供みたいに泣いていた 康太は電話を取ると木瀬に 「これから病院に行くかんな!」と伝えて電話を切った 康太は電話を切ると、遼一の手を掴んだ 「飛鳥井の病院に行くかんな!」 そう言い歩き出すと、遼一も泣きながら歩いた 榊原は遼一の荷物を持って車へと急いだ 車に乗り込むと康太は 「オレもお前を大切に思ってる 木瀬もお前の事を大切に思ってる 見捨てたり見放したりなんてしてねぇ 解ったか?遼一」 「………康太……俺……お前の為になりたかった 誰にも見向きもされねぇで生きてきた そんな俺にお前は言ったよな 『おめぇのしてる事は空を向いて自分のツラにツバを吐き捨ててるのと同じ事をしてるだぞ』って…… 俺は……お前に負けた たった四人のガキに負けた…… 俺に足りないのは……信頼だとお前は言った 俺は……お前の信頼を裏切りたくないと想って生きてきた ………そんな俺が……お前の役に立てねぇ日が来るかも…… そう想うだけで怖い…… 俺は……お前の傍にいて良いのかよ……」 「遼一、お前は腕の良い職人だ その腕は治る!絶対に治る! 治してやる! だからな焦るな もし腕が使えなくなったとしても、お前はオレの駒だ お前の技量を下の奴に伝えていけば良い お前の腕を継承させろ! 赤池耀二を育ててるんだろ? そうやってお前が育てた奴が手腕を発揮して活躍する それもオレの為になってねぇかよ?」 「………康太……」 「腕一本吹っ飛ぼうが、九頭竜遼一はオレの懐刀だ それは今も昔も変わりはしねぇ、そうだろ?」 「……お前の駒だ……俺は……それは変わらねぇ…… 誰にも譲らねぇ……」 「それで良い! 弱気になった遼一なんて多分もう見られねぇからな 貴重なモノを見れたって感じだな!」 康太はそう言い笑った 「……そう、もう見せねぇからな……」 遼一も笑った 変わらぬ絆が、二人にはあった これからも変わらぬ絆が二人を結び付けるだろう 榊原は優しいでしょう瞳をして…… 二人を見守っていた 飛鳥井の病院の駐車場に車を停めると木瀬が立っていた そして榊原の車へと近寄ってきた 康太は助手席から下りると、後部座席のドアを開けた 「出ろよ遼一」 そう言うと遼一は車から下りた すると木瀬が遼一の元に駆け寄って……抱き締めた 「………遼一……」 木瀬は泣いていた 遼一も泣いた 何故…疑ったのだろう…… 木瀬はずっと遼一に対して真摯な態度で向き合ってくれていた ただ……遼一は誰にでも優しいから…… その中の一人なのが……嫌だと泣いた事はあった 誰にでも優しい 誰にでも……同じ態度 遼一は誰でも良いのかと……想って泣いた そんな事はないと抱き締められ……愛された 誰よりも愛してると……言って貰った その日から遼一を信じて 遼一に向き合って生きてきた 愛しい…… こんなに愛せる人は…… もう見つからない…… そんな思いに……二人は強く抱き合った 「木瀬……此処でラブシーンするのは刺激が強いかもな……」 康太が言うと木瀬は遼一から離れて笑った 「そうですね……すみません」 「愛する男が戻って来たんだ解らなくもねぇけどな 続きは個室に戻ってからやれよ 2時間くらいは近寄るなど人払いしておいてやる」 木瀬は笑っていた 遼一の手を繫いで歩いた 個室に行って、荷物を部屋に入れると 「取り敢えずオレは帰るかんな」と木瀬に告げた 木瀬は康太に深々と頭を下げた 「………本当に……遼一を僕に還してくれて…… ありがとうございました……」 「仲良くな!2時間くらい、人払いしてやるからな 確かめ合えよ!ならな遼一、仲良くな」 康太は笑って病室を出て行った 榊原はナースステーションに向かい、個室には3時間近寄らない様に告げて、病院を後にした 駐車場に出ると…… 日は暮れかかっていた 夕闇が辺りを包んでいた 康太は駐車場に…… 隠れている人を見付けて近寄った 「……ここ数日、オレの周りをウロウロしていたのは何故だ?」 「………炎帝……」 康太の名を呼んだ男は……闇に溶けて……瞳だけ光っていた 「目(さがん)恭輔……オレのいる街を…… 血で穢した代償は大きいぞ?」 「……炎帝……私には何の力も……残されてはおらぬ ………それでも貴方に……助けを求めさせて下さい…」 「……目 恭輔……近いうちに総ての発端となるヴァンパイアと出逢う…… そしたら総てが動き出す……… その時が来たら……再びお前はオレの前に来い お前をまだ隠居にするつもりはねぇかんな… お前はまだ第一線で目を光らせてねぇとな その時が来るまで闇に溶けてろ……」 目は「御意」と言い闇に消えた 康太は天を仰いだ 「………その時が来たら……か……」 独り言ちた康太を榊原は抱き締めた 「康太、子ども達はまだファミレスにいるそうです」 「なら逝くか?」 「ええ、我が子の所へ行きましょう」 榊原は康太を助手席に乗せると運転席に乗り込んだ そして車を走らせる ファミレスに逝くと、子ども達が康太と榊原が来るのを待っていた 兵藤は「何処へ逝ってたのよ?」と問い掛けた 「貴史、横に座れよ」 言われて兵藤は一生と席を替わった 康太は兵藤の耳元で何やら囁いていた その声は……誰にも聞こえなかった 兵藤は始終無言で聞いていた そして康太の耳元で何やら話した 康太はそれを聞き頷いた 後は一生と席を替わり知らん顔して子ども達と話をしていた 康太は慎一を見た 慎一は何も言わず頷いた 話は着いているみたいだった 一生はそんな康太を見ていた 子ども達は榊原と康太に抱き着いて嬉しそう そんな時は親の顔になり、子ども達と共の時間を過ごす 仲間がいる 家族がいる 明日の飛鳥井を担う子ども達がいる 康太が繋げた道を 康太が育てた子供達が引き受けて 繋げていく 道は続く 果てしなく限りの道は続く 我逝く道を逝く 康太は思いを噛み締めた 「なら帰るとするか」 康太が言うと榊原は立ち上がって子供達を椅子から下ろした 子供達はちゃんと待って、良い子に整列していた 最近は言うことを聞くようになってきた 子供の成長は早い…… 育って逝けば何時か…… 自分達が榊原と康太の子供ではないと解る日が来るだろう…… そしたら…… 康太はその考えを振り払った その日が来るのは怖い だけど……止まってはいられない 逝かねばならない 繋げねなければならないのだから…… 康太は歩き出した 手を差し出すと音弥と大空が康太の手を取った 流生は兵藤と手を繫ぎご機嫌だった 翔は榊原と手を繫ぎ 太陽は慎一と手を繫いで店の外へと向かった ファミレスを後にして、飛鳥井の家に帰ると瑛太が康太を出迎えてくれた 「あれ?瑛兄、早ぇな」 康太はそう言い笑った 「一生がお前が帰ったと連絡くれました なので仕事なんてしてられますか!」 応接間のドアを開けて、清隆も玲香も顔を出した 玲香は我が子を抱き締めた 「お帰り……」 清隆は康太を抱き締める玲香ごと…… 康太を抱き締めた そして「お帰り…」と言葉にした 愛しい我が子なのだ…… 帰宅を喜んだ…… 二人は康太を離すと榊原を抱き締めた 「伊織……無事で……」 良かった……清隆が呟いた 「ご苦労でしたね伊織」 康太と共に逝く道は険しい 玲香は榊原に労りの言葉を投げ掛けた その夜、家族で康太と榊原の帰宅をささやかながら祝った 子ども達は興奮して、とぅちゃやかぁちゃから離れるのを嫌がった 家族も……ずっと……ずっと……見ていたかった 子ども達が眠ると、康太は榊原と共に寝室へと引き上げた 寝室に行くと榊原は康太を抱き締めた 「還って来ましたね」 やっと実感して……息を吐き出した そして互いの服を脱ぎ捨てて、ベッドへと入り康太を抱き締めた 「あと少しで幼稚舎の入園式だ……」 「ええ……子供の成長は……早く感じますね」 「………何時か……総てを教えねぇといけねぇ時が来る…… 今世もオレはそんなに長生き出来ねぇだろうからな…… ある程度育てば……解るだろうからな…… そしたら総てを話そうと想う……」 それで……憎まれても……恨まれても…… 総てを受け止めようと想っていた 「総てを知っても僕達の子は揺るぎません 心配しなくても大丈夫です……」 「………だと……良いけどな……」 「君は……そんな心配しなくても良いです 僕達は何時でも子ども達に向き合っていけば…… 子ども達はちゃんと見て……育ってくれると信じています……」 「………伊織……今回……本当に駄目かと想った……」 弱音が康太の口を突いて出た 「………僕も……君をなくす恐怖に……立っていられなくなりました…… 君をなくした瞬間を想い出し……堪らなくなりました……」 「ごめんな……青龍…… オレは魔界に還っても……こんな生き方しか出来ねぇ…… お前を不安にさせたり心配させたりする…… 目的が……オレだと解っていても…… オレは自分を餌にする ………お前を泣かせたくないと想っている だけどオレは……お前を泣かせても動かねばならない時は動く 心配させてばかりだな…… オレは何を失っても平気だが…… お前を失ったら生きていけねぇ…… 嫌われたくねぇけど……オレは多分治らねぇ…… そんなオレに……何時か青龍は見放す時が来るんじゃねぇかって……想う事が怖い……」 榊原はギューッと康太を抱き締めた 「君を嫌いになる日は来ません 未来永劫……誓ったじゃないですか! 僕は君を愛します この命がなくなろうとも……君を愛します」 「………青龍……」 康太の涙が……こめかみを伝い流れて堕ちた 榊原はその涙を舐め取った 「死しても僕に還って来てくれるなら許します 何処へいようとも………必ず僕に還って来て下さい……僕はそれしか望んでません……」 「オレもそれしか望んじゃいねぇ…… 何があっても……この命が尽きても…… 共に……それしか望んじゃいねぇ」 榊原は康太を強く抱き締めた 自然と唇が合わさり…… 深いモノになっていく 康太は榊原の背を強く抱き締めた 「愛してます……僕がどれだけ愛してるって言っても……解らないのなら…… その体躯で知れば良い……」 榊原はそう言い息もつかない接吻を送った 股間に熱が集中する…… 勃ちあがった股間を榊原のお腹に擦り……知らせる だが執拗な接吻はされても、触ってはくれなかった 「伊織……触って……」 「何処を触って欲しいですか?」 「………乳首……」 康太は榊原の手を掴むと、乳首に触れさせた 「乳首だけで良いのですか?」 「………ちがっ……ここも……」 熱を帯びた性器に触れさせようとすると……指はスルッと下へ滑った 秘孔に触れられ……体躯が震えた 触られると我慢が出来なくなる 「………伊織……触って……」 「何処を?」 康太は脚を開いて……秘孔を触れさせた 「……指……挿れて……」 「指……だけで良いのですか?」 「違う……解して伊織の……挿れて…」 「ローション使いますか? それとも直ぐに欲しい?」 榊原は濡らした指を挿し込み掻き回しながら問い掛けた 「………ぁん……直ぐに……」 我慢が効かなかった…… 榊原が欲しかった 熱い灼熱の肉棒で掻き回して欲しかった この夜……気絶するまで互いを求め合った 気配を感じていた 闇の影響は……大きい 天界と魔界に巣くっていた闇が、人の世にもたらす影響はまだ解ってはいない… 康太は天を仰いだ 「………死者が………沢山出るな……」 呟いた 闇に惑わされるのは何時の世も人間なのだ 闇の介入で、人間は何時も取り返しのつかない歴史を作って来た 闇の浸食は始まっている そして動き出していた 「………闇が……動き出した……」 呟きが闇に溶ける 『……幕が上がった以上はもう誰も止められはせぬ』 声が響いた 「………無関係な魂が……巻き添えを食う……」 『………もう遅い……賽は投げられた』 「…………なら逝くしかねぇな……」 康太は呟き覚悟を決めた 榊原は体を起こすと康太を背後から抱き締めた 「………誰ですか?」 「……サガン……」 榊原は始まっている事を知った 「……なら……逝かねばなりませんね」 「……あぁ……もうじきオレは出逢うらしいからな……」 誰と……とは言わない 「………抱き締めてます…… ずっと……ずっと……抱き締めています……」 康太は瞳を瞑った 「………伊織……共に逝こうぜ!」 「ええ……共に逝きましょう……」 僕は君に還ります だから君は悔いなのない日々を送りなさい ずっと……ずっと傍にいるから…… 榊原の覚悟だった 二人は互いの手を強く握りしめた 互いさえ離れなきゃ生きて逝ける 互いさえ見失わなければ生きて逝ける…… 一番怖いのは互いを失う事 「………もう引き戻せねぇ……」 「なら逝くしかないです…… 大丈夫です!君には僕がいます」 康太は笑った 「………今宵……」 総てが始まる 榊原は「では夜まで自堕落に寝ていましょう」と言い康太を胸に抱いた 歪んだ軌道を修正して 適材適所 配置するが為に遣わされた 職務を全うする為だけに……在る それが……自分の責務だった 翌朝、康太は夜まで家で過ごした そして夜になると家を出た 「………始まりの序章……」 康太は呟いた 榊原の車に乗り込み、走り出す 康太が指示した通り走ると…… 人気のない場所へと進んでゆく 街頭の照明は消えて暗闇が何処までも広がっていた 「………闇が………強ぇな……」 康太は呟いた はぁ…… はぁ…… 逃げなきゃ…… 狩られる…… 僕を狩るのは…… アイツだけ……… ほかの奴になんか狩らせる訳にはいかない…… 闇に融けて… 逃げる…… 逃げなきゃ…… 闇に溶けた男が走って逃げてきた 誰かに追われているのは一目瞭然だった 「伊織、車を止めてくれ…… 血の臭いがする……」 榊原は路肩に車を停めた 「………手負い……ですかね?」 「………あんだろ?……」 康太は細い路地を入って行った 榊原が康太の横を歩いた 細い路地は行き止まりになっていた 街灯もないそこは………暗闇に包まれていた 「………気配……はあるんですがね?」 榊原は呟いた 康太の瞳が赤く光ると…… 暗闇に潜む存在を映し出していた 康太は……闇に蹲る者の手を掴んだ 闇に溶ける存在は康太の手を振り払い…… 怯えた声で 「…………ダンピールか?……」 ……呟いた 「オレはダンピールじゃねぇ」 「………なら……何故……僕が視える?」 「トランシルバニア家の血統か…… ダンピールにでも狩られそうになったか?」 闇に潜む者は……康太を睨み付けた ジャリッ……と他の者の足音を耳にして…… 康太は立ち上がり…… 背中に隠した

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